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神に頼まれたので世界変革をすることにした  作者: 黒井隼人
グランフォール皇国
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第1話


神によって連れてこられた白の世界。そこで必要なことを済ませ、再度転移してもらった後に飛ばされたのは緑豊かな森の中だった。


「さぁて、始めましょうかね。世界変革を」


御神楽(みかぐら) (けい)


保有スキル

武術:体術などの動きが良くなり、習得しやすくなる。

剣術:剣の扱いの上達が早くなる。

魔法適正風・光:風と光属性の魔法を習得しやすく、威力および効果が上昇する。

鑑定:調べた物の名称・効果・状態がわかる。

暗視:暗がりでもちゃんと見える。

製作(調合):薬の作成法がわかり、薬の作成が成功しやすくなる。

栽培:植物の栽培方法がわかり、通常よりいい品質のものができやすくなる。

索敵:周囲に潜む存在を感知しやすくなる。

地形把握:周囲の地理が把握できる。射程距離は5km。

心眼:相手の表面上の思考を読みぬく能力。多用すると目や脳に負荷がかかりすぎ、危険。

言語習得(魔族):魔族が使う言葉がわかり、喋れる。

言語習得(人間):人族が使う言葉がわかり、喋れる。

選定:薬草など質のいいものが見つかりやすくなる。


装備アイテム

ミスリルソード:魔法銀で作られたショートソード。片手で扱える。

シルバーソード:銀で作られたショートソード。片手で扱える。霊体、悪魔特攻。

バックラー:円形の小型盾。木を鉄で補強してある故にそれなりに頑丈。

ミスリルレザー:魔法銀で作られた軽装鎧。物理耐性、魔法耐性共に高く、重くない魔法銀で作られているので動きを阻害しない。


保有アイテム


マジックバック:アイテムを自由に出し入れできるバック。魔法の素材で作られており、内容量はほぼ無限で、どれだけ入れても重さが変わらない。

ヒールポーション×10:傷を癒す魔法薬。

マジックポーション×10:魔力を回復する魔法薬。

冒険者セット:冒険者が最初に購入するアイテム。地図、テント、保存食など冒険に必要な一式がそろっている。

万能の書:所有者がページを開くことで文字が浮かび上がる魔法の書。所有者が知りたいことを教えてくれる。過去、現在の出来事や様々な物の情報が記される。

白紙の辞書と羽ペンとインク:数百ページにも及ぶ本だが、中には何も書かれていない。万能の書とは違い、魔法がかけられておらず、所有者が書き込むメモ帳の役割をしている。

調合セット:薬研・乳鉢・乳棒・小型の鍋など調合に必要な道具一式。

硬貨セット:金貨100枚・銀貨・銅貨各10枚。銅貨10枚=銀貨1枚。銀貨10枚=金貨1枚。


「木しかない場所だな!本当にここでよかったのか?」


立花(たちばな) 和也(かずや)


保有スキル


武術・鑑定・索敵・地形把握・栽培・言語習得(魔族・人間)・暗視。

盾術:盾の扱いの上達が早くなる。盾で攻撃を防いでも壊れにくくなる。

鉄壁:ダメージを受けにくくなる。

挑発:モンスターや敵に狙われやすくなる。

魔法適正土・闇:土と闇属性の魔法が習得しやすく。威力、効果が上昇する。

剛力:腕力が高く、成長率も高くなる。

製作(鍛冶):武器・鎧などの作製方法がわかる。耐久値・攻撃力・防御力などが通常より高くなる。

製錬:鉱物を製錬する時純度が良くなる。


装備アイテム


ミスリルスパイカー:中心に棘付きの2mサイズの巨大な盾。魔法銀で作られているので物理、魔法耐久値が共に高い。

ミスリルアーマ-:魔法銀で作られた重装鎧。通常の重装鎧よりかは軽いが、それでも十分な重さがあるので動きが鈍くなる。


保有アイテム


マジックバック・ヒールポーション×10・マジックポーション×10・冒険者セット・硬貨セット。

鍛冶セット:砥石・金鎚といった鍛冶に必要な道具一式(炉とかはない)


「だ…大丈夫だと思うけど…」


小南(こみなみ) 瑠衣(るい)


保有スキル


武術・鑑定・索敵・地形把握・栽培・言語習得(魔族・人間)・暗視。

弓術:弓の扱いの上達が早くなる。射撃の命中率が上がる。

魔法適正炎・闇:炎と闇属性の魔法が習得しやすく、威力・効果が上昇する。

危険察知:罠や危険な立地などを事前に察知できる能力。

罠解除:宝箱や道にある罠を解除しやすくなる。

製作(料理):料理のレシピがわかる。作成時に味が上がり、能力上昇などのバフもつく。


装備アイテム


ミスリルボウ:魔法銀で作成された弓。魔法付与能力が高まっており、矢にエンチャントをする際に効果低下率を抑える。サイトが取り付けられており、命中率補助効果もある。頑丈故に接近戦でも多少は戦える。

鉄の矢×100:先端が鉄の鏃でできている矢。

ミスリルアロー×100:先端が魔法銀の鏃でできた矢。エンチャント効果を高める。

ミスリルレザー。

ミスリルダガー:魔法銀で作られた短剣。切れ味が良く、取り回しがききやすい。


保有アイテム


マジックバック・ヒールポーション×10・マジックポーション×10・冒険者セット・硬貨セット。

開錠セット:ロックピックや小型のナイフなど、罠の解除や宝箱の開錠などに使う道具一式。


「なんか理由があってここに飛ばしてもらったのよね~?」


草壁(くさかべ) (れい)


保有スキル


武術・鑑定・索敵・地形把握・栽培・言語習得(魔族・人間)・製作(料理)・暗視。

杖術:杖の扱いの上達が早くなる。

回復魔法強化:回復魔法の効果を上昇させる。

魔法適正水・光:水と光属性の魔法が習得しやすくなり、威力・効果が上昇する。

体力視覚化:仲間および敵の体力をゲージとして視覚化できる。発動は任意。

範囲上昇:発動魔法の効果範囲を広げることができる。


装備アイテム


セイントスタッフ:180cmほどの杖。神木の芯を聖水で清め作られた杖で聖なる力が宿っている。

ホーリーローブ:銀の糸で織られたローブ。聖水で清められているので邪なる力から装備者を護る効果がある。


保有アイテム


マジックバック・ヒールポーション×10・マジックポーション×10・冒険者セット・硬貨セット。

調理セット:包丁やまな板、鍋やフライパンなど調理に必要な道具一式。


「まあな。これからこっちで過ごすにしてもずっと宿屋や家で泊まれるわけじゃないんだ。最初のうちに野営に慣れておいた方がいいだろう」


神の爺さんには魔族の領地からは一番遠い王都からそこまで遠くはなく、魔物が出る場所へと送ってもらった。

今まで平和な日常を送っていたんだ。野営や戦闘に慣れておかないとこの先やっていけるかもわからなくなる。


「じゃあしばらくはここで野営するのか?」

「ああ、この周囲を探索しつつな。魔物とも何度か戦うことになるだろうし、場合によっては野盗ともやりあうことになるかもしれん。それがこれからの日常になりかねないから今のうちに慣れておくんだ」

「襲われたら戦わないといけないもんね…」

「ま、すぐには無理だろうが必要なら殺すことも覚悟しておかないといけないからな。躊躇うとこっちが殺されかねないだろうし」


命を奪うことに慣れるのはまずいかもしれないが、この先戦わずに済むわけもなく。場合によっては殺せないという甘さを突いてくることだって考えられる。

人と魔族の争い、それによって得をしている奴らだっているはずだ。

そういう奴らからすると俺たちは邪魔者。排除したい存在になりえるんだからまだ認識されていない現状でそういった弱点は潰しておきたい。


「うむ。無事に到着したようじゃの」


そんな話をしていると俺達とは別の声が聞こえてきた。その方向を見てみると、地面にある少し大きめの岩の上に白い毛むくじゃらのネズミが一匹こちらを見据えていた。


「…ネズミ?」

「食料か?」

「食料じゃないわ!!」

「喋った!?」

「あら~、これが魔物かしら~?」

「魔物でもないわ!まったく…少しでもお主達の手伝いをしようと来たと言うのに…」

「…まさか、神の爺さんか?」


俺の言葉に満足するようにネズミがうなずいた。


「儂の頼み事じゃからの、少しでも手伝おうときたのじゃ。まあ、この姿になってしまって力も大分削られたがの」

「はぁ~…かわいい…♪」


瑠衣が目を輝かせてネズミとなった爺さんの頭を指先で撫でていた。

そういやこいつこういう小動物とかが好きだったな…。ってかお前こっちに来れるのかよ。


「こっちに来れるのなら爺さん自身が来てやれば良かったのではないか?」


和也が俺が思ったことを代弁してくれた。来れないから俺たちに頼んだものだと思ったのだが。


「そうしたいのはやまやまじゃったが、さっきも言ったようにこっちに来ると力が大分削られてしまうのじゃ。しかも本体で来るわけにもいかず、分身を作り出さざるおえない始末。それ故に儂だけじゃできぬのじゃよ」

「どれくらい落ちちゃうの?」

「神の権能はほぼ扱えぬの。邪なるものを察する程度などや多少のアイテム製作など簡単なことくらいしかできないのじゃ」

「役立たずじゃねぇか」

「じゃからお主等頼んだのじゃ。この世界に関する知識などでできる限り援護させてもらうぞい」

「…ねぇ~?邪なるものを察するって言っていたけど、それって魔物に気づくといったことかしら~?」

「いや、儂の場合は殺意や悪意といった感情に気づくといったところじゃの」

「ほう、それなら役立ちそうだな」

「そうなのか?」

「ああ。その悪意ってのがどこら辺までかはわからんが、俺たちはこの世界については詳しくない。意図的にだまして得をしようとするやつだっているだろうから、それに気づければいいだろう。それに意図的に事態をややこしくしようとするやつにすら気づけるかもしれん」

「そこまでできるかはわからぬが、できる限りのことはしよう」

「ま、できればで十分だ。魔族はわからんが人間なんて権力を得れば得るだけ腹黒く悪意に満ちやすくなるんだからな」

「そういうものなの?」

「例外はあるがな。とりあえず早速だが爺さん、ここら辺の魔物はどんな奴らだ?」

「うむ。ここらへんは王都からそれほど離れておらぬから強い魔物は居らぬ。まずはコボルトとゴブリン。小鬼の様な見た目をしており、知能はそこまで高くはないのだが、ずる賢さだけは並外れておる。奇襲やだまし討ちなどが常套策じゃな。

次いでウェアウルフ。二足歩行の狼なのじゃが、狼特有の身体能力を持っており、俊敏性は人より上じゃが獣特有の知能の低さ故に初心者冒険者たちの最初の相手にもなったりしておる。

そしてここらで一番強いのがオーク。2mを超える巨体とそれに見合った力と体力が特徴じゃ。ゴブリンやコボルトを使役しており、彼の者らがたくさん生息して居る処ではオークも必ずと言っていいほどいるくらいじゃ」

「ふむ。コボルトにゴブリン、ウェアウルフにオークか…、定番といえば定番だな。とりあえずオークまでとは言わないがほかの奴らくらいは群れでも安定して倒せるようにしたいな」

「じゃあとりあえず現段階の目標はそれか?」

「まあな。とはいえ一番の目標は野営に慣れることだ。戦うことになれば戦闘は嫌でもなれるだろうし、機会があればって感じで。んじゃ少し動くとしますか」

「どこに行くの?」

「ちょいと散策にな。いろいろと植物関係で知っておきたいんだよ」


そういって俺が歩き出すとネズミ爺さんは身軽な動きで俺の肩に乗ってきた。


「なんで俺のところに来るんだよ。瑠衣のところに行きゃいいじゃねぇか」

「まとめ役はお主じゃろ?ならそこに座を構えるのは当然じゃろ」

「さいですか」


そう答えながらスキルの鑑定を意識しつつ周囲を見回す。

今後の事も考えてほしいのは薬の調合に使える植物と食用に使える植物だ。しかも両方とも栽培が可能であることが前提だ。それらを早いうちに見つけ、安定供給する土台を見つけないと今後の計画にも支障が出る可能性がある。

見つけた植物が種で栽培するのか、根で栽培するタイプか。収穫できる時期や栽培できる季節、一回の収穫量やその期間。それらの情報を見つけておかなければいけない。


「なに探しているんだ?」


周囲を見回しながら歩く俺を見て疑問に思ったのか和也が聞いてきた。


「ん~?食料になるかもしれない植物とあと調合に使える植物だな。需要が高そうなヒールポーションとマジックポーションの材料が見つかるのが一番なんだが…」

「それって私達も持ってるよね?今必要なの?」

「ああ、俺たちが使う分じゃなくて今後の事を考えて集めておきたいんだよ。調合レシピの開拓もしたいしな」

「む?お主に渡した万能の書で事足りぬかの?」

「基本的には問題ないが、だからといって研究をしないのはただの怠慢さ」


たとえすでに確立しているレシピであっても、さらに効果を高めたり、製作時間を減らすことができたり、と研究する部分は多々ある。

万能の書はアカシックレコードほど全能って訳じゃないみたいだし、どこかに研究漏れがあるかもしれない。

そういいながらひょいひょいと調合に使える植物を採取していく。見た目にはただの雑草に見えるが、ヒールポーションの主原料となっている癒し草。マジックポーションの主原料となる魔力草。そしてそれらと組み合わせることで効果を増幅させることができる増強の実がちらほらと落ちていた。

増強の実は木にできるのか…いくつか種子を回収して栽培するのも手だが…苗木があれば一番なんだが今のうちに作るか?

万能の書で調べてみると種子から育てた場合、年単位で栽培が必要のようだ。安定して栽培するのなら何本か苗木を作っておいた方がいいか。


「そういえば爺さん。勇者はまだいないんだよな?」

「うむ。本来はお主に勇者になってもらおうと思っておったのだが断られてしまったからの」


あの白い世界で準備している時、俺に勇者としての加護を付与すると言われたのだが断った。

勇者の加護を得ればいろいろと途中経過を端折れるかもしれないが、その代償として魔王を倒すことを宿命づけられかねない。そうなったら戦いを煽る結果にはなれど、止める結果にはならないだろう。それに勇者はこの世界の住人から現れてくれた方がいろいろと都合がいい。


「次の勇者が生まれるまでどれくらいかかるかわかるか?」

「さすがにわからぬのぉ…。この世界にも勇者として資質を持っている者は何人か居る。その中から誰がどのタイミングで勇者として覚醒するか。それに関しては儂にもわからぬのじゃ」

「何人かいるって…それだと勇者が複数人になっちまうんじゃないのか?」


和也の疑問ももっともだ。もともと世界を救うであろう勇者は神に選ばれし唯一なる存在という認識が強い。資質とはいえそれを持っている存在が複数人いると言うのも驚きだ。


「あくまで資質を持っているだけじゃよ。目覚めなければ勇者として成長はせぬ」

「なんで複数人もいるの?」

「そうでないともし勇者が敗れて命を落とした時、次の勇者が生まれるまで待たねばならぬ。そのうえ成長するまでもじゃ。そんなことしていたら人間なぞすぐに滅んでしまうわ」

「ごもっとも」

「でも敬がやってたゲームって勇者パーティーが全滅してもお城で復活とかしてたよね?」

「最近のゲームは復活せずにタイトル直行か最終セーブだがな」

「それはゲームの中だけじゃよ。実際には死んだ者の命は戻らぬ。魔族は一度死ぬと魔力のみをある程度受け継いで生まれ変われるがその周期も数年から百数十年とかかる」

「なんでそんなに期間が開くんだ?」

「ほとんどが力の強さによるものじゃな。強いとそれだけ時間がかかり、生まれ変わった直後では力も大分落ちる。今までで最高は…数世紀ほど前の魔王じゃな。転生するまでに250年ほどかかっており、生まれた直後に当時の魔王に殺されておる」

「生まれた直後にまた殺されたのか」

「うむ。当時の魔王がかつての力を恐れたようじゃ。生まれた当時は弱くとも、十数年後には当時の全盛期ほどに成長するからの」

「なるほど。放っておくと自分の地位が危ないから先に潰したのか」

「おそらくそうじゃろうの。魔王に関してはその時一番強い魔族に魔王の恩恵が与えられ、それが体になじむまでが数年単位でかかるからの」

「どっちも時間がかかるもんだねー」


そんな話をしながら順調に採取を続けていく。なかなかに豊作だな。手入れされている気配もないし、野生でこれだけ育つなら栽培すれば大分良質な物が安定して採れそうだ。


「!敬!なにかくるよ!」


瑠衣の言葉で周囲に意識を配ると確かに少し離れた場所から何かが近づいてくる気配がする。

索敵スキルのおかげかその気配がはっきりとわかる。数は2。追いかけ合っている感じで気配が動いている。

俺がほかの奴らに目配せするとそれぞれ武器を手に持って気を引き締めた。

俺自身も右手にミスリルソードを握り臨戦状態にした。

気配はどんどんこちらに近づいており、俺たちの正面の茂み大きく動くと共に小さな影が飛び出してきた。


「子供!?」


一枚の布切れを着ているだけの少女が怯えた表情で飛び出してきた。ぱっと見た感じ10歳前後ってところだろう。

少女は俺たちの姿を見て戸惑いの表情を浮かべ、足を止めてしまった。

それと同時に後ろの茂みが大きく動いて影が飛び出してきた。


「ウェアウルフじゃ!!」


飛び出してきた影、狼の上半身をした二足歩行の魔物は跳躍の勢いを乗せて鋭い爪を少女へと向けて振り下ろしてきた。


「っ!?」


少女が怯えるようにその場でしゃがみ込むが、直後にガキンッという音だけが響く。

和也が誰よりも早く動いてウェアウルフの爪を受け止めたのだ。


「いい反応だ和也。さすが空手経験者だな」


和也の肩に足を乗せ、踏み台として前へと跳躍した。


「俺を踏み台にしやがったな!!」

「踏んだのは鎧だから気にするな…よっと!」


跳躍の勢いを乗せてウェアウルフを蹴り飛ばして距離を置かせ、右手に持つミスリルソードの切っ先を向けた。


「退けば追わない。来るなら斬る。好きに選べ」


魔族だろうと人間だろうと魔物だろうと殺すことに躊躇はない。だが、むやみやたらに相手を斬ると不必要な怨恨まで生みかねない。それは後々の計画に支障をきたす可能性もあるだろう。

まあ、今の段階で考えなくてもいいかもしれないが、リスクは減らすに限るだろう。

相手のウェアウルフはわずかに唸るが、退く様子はなさそうだ。まあ、目の前の餌を逃すとは思えんしなぁ。仕方ないか。

ウェアウルフは一吠えしてから俺目がけて駆け出してきた。その勢いのままその爪で攻撃してくる…と思いきや突然横に跳んだ。


「おっと」


真っすぐ突っ込んでくると思ってたから少し虚を突かれそうになったが、咄嗟に一歩後ろに下がってウェアウルフを視界に収めておく。俺の左側に跳んだウェアウルフはそのまま爪で俺に攻撃してくる。

俺はバックラーを相手の手首に押し当てるように動かして腕をずらし、剣を振り上げた。

ウェアウルフは俺の首元へと噛みついて来ようとしたが、それより先に届いた俺の攻撃が胴体を斬り裂き、後ろへとよろめかせる。

追撃のために一歩踏み込み、そのまま左胸に剣を突き刺して止めを刺した。


「ふぅ…おしまいっと」


剣を抜いてから冒険者セットにあった手ぬぐいで血を拭う。群れでいた可能性もあるし、まだ息がある可能性もある。残心だけは心がけておかないと。


「敬、大丈夫?」

「問題ないよ」


心配そうな表情を瑠衣がしていた。今まで喧嘩は何度もしていたが命のやりとりは初めてだ。やっぱり不安だったんだろう。安心させるために苦笑を浮かべながらもポンポンと頭を撫でてあげた。


「さてと…」


とりあえずそれはそれとして…保護した少女をどうするかだな。玲の傍にいた少女へと俺が視線を向けるとビクリと体を震わせた。


「怖がらせるなよ」

「知らんがな…」


俺はただ視線を向けただけで怖がらせる気なんてなかったんだがな。まあ、仕方ないだろう。彼女の身なりを改めてみてみるが、ボサボサの白髪に真っ赤な瞳、一枚の布をそのまま着ているような服。それだけではなく、先ほどは気づく余裕がなかったが少女の首には鍵付きの首輪の様なものがついていた。その恰好を見れば彼女が奴隷であり、どこかから逃げてきたであろうと簡単に察せた。

だからこそ問題なんだがなぁ…。

万能の書でこの世界の奴隷の扱いについて調べてみる。浮かび上がる文字を読んでみると、奴隷は手続きをしっかりしていれば商品として国に保証されているようだった。それ故に奴隷商から解放するためと奪った場合、それは野盗と同じで強盗の罪となる。

そして購入した奴隷が逃げた場合は逃亡罪。それをかくまったら奴隷隠避として罪にとわれる。

うん、息苦しい事この上ないな!

人道的にはともかくとして、そうせざるおえない状況があることは理解できる。納得したとは言わないが。


「さて、どうしたもんかねぇ…」


現段階では明らかに厄介な拾い物だ。俺一人でいれば見捨てることも考慮するのだが、瑠衣達にそれを言っても受け入れられるわけがない。というか奴隷という制度にすら憤慨しかねない。まあしたところでどうにもならないのだが。

とりあえず彼女がどこの奴隷なのかだけでもわかればなぁ…。

そんな事を考えていると突如少女がパタパタと腕を動かし始めた。


「あらぁ、どうしたの~?」


玲が屈んで少女と目線を合わせようとする。それに驚き、わずかに怯えるように瞳を揺らしていたが、少女は身振り手振りで何かを伝えようとしていた。


「…もしかしてこの子、喋れないのかな?」

「だろうな。喋れないからこそ高く売れる奴隷もいるだろうし」


俺の言葉に全員が眉をしかめた。瑠衣達も彼女が奴隷だと察していたんだろうが、その現実を突きつけられて嫌な気分になったんだろう。

それはそれとして、少女が何を伝えようとしているかだが、身振り手振りでわちゃわちゃと動いているが全く意志が伝わってこない。…なら状況から推察するしかないな。


「…誰かほかに襲われている奴でもいるのか?」


その問いに少女はこくこくと頷いた。


「敬、この子が伝えようとしてることわかるの?」

「わからんが状況から推察はできるだろ。多分彼女と一緒にいた主、もしくは奴隷商がウェアウルフに襲撃され、彼女ともう何人かが逃げた。で、彼女はその逃げた人も助けてほしい…。ってところじゃないか?」


もう一つの考えられる可能性としては彼女ともう一人か二人が奴隷商とかから逃げ出し、逃げた先でウェアウルフに襲われたってところだが…それだといろいろと面倒だから個人的に対処が楽な方をあえて口にした。

そしてその推測が当たっていたのか少女はすさまじい勢いで頷いていた。


「それなら早く助けてあげないと!」

「いや、場所分からんだろ」


いくら索敵スキルを持っているとはいえ、この広い森の中をウェアウルフから逃げている奴を見つけて助けるなんてまず無理だ。せめてどの方向に向かったかだけでもわかればなんとかなるかもしれないんだが。とか考えていると少女が俺の手を引っ張っていた。


「どうした?」


聞いてみるが少女はグイグイ俺を引っ張り続けていた。その目は何かを懇願するようで、わずかに涙目になっていた。


「ついて来いってことじゃないか?」

「場所分かるの?」


瑠衣の問いかけにフルフルと首を横に振った。それでも俺の手を掴んで引っ張り続けていた。


「それでも敬君を連れて行きたいのね~」


玲の言葉に今度はコクコクと首を縦に振っていた。


「…ま、とりあえずはぐれたところまで行けば多少は手がかりがあるだろ。仕方ねぇ」


グイっと手を引っ張ると力に負けた少女は簡単に体勢を崩してしまう。それをひょいと抱え上げる。


「こうすりゃ動きやすいだろ。行くか」

「うむ、お前がリーダーだからな!俺は従うぞ!」

「いや、お前考えるの面倒なだけだろ」

「とにかく急いだほうがいいんじゃない?ほかにもウェアウルフに襲われている人がいるんでしょ?」

「そうね~。手遅れになる前に助けてあげないと~」

「だな。走るとしますか。森の中だから足元には気を付けておけよー」

「おう!」


少女が示す方向にむかって和也達と共に駆け出していく。

森の中を走っていくが少女の案内に迷いはなかった。今まで通ってきた道を覚えるにしてもウェアウルフに追われながらできっちり覚えられるとも思えない。一番考えられるのは何かの罠ってことだが、それだとさっきのウェアウルフが退かなかったのが気になる。

考えすぎかもしれないが頭の片隅には置いておこう。

そう結論付けた時に少女に服を引っ張られた。


「どうした?」


問いかけると少女が一本の木を指さした。


「あそこではぐれたのか?」


こくこくと頷くのでその木の傍に移動する。


「ここではぐれたのか。それで敬、これからどうするんだ?」

「ちょい待ってろ」


周囲、主に地面と木の幹や草むらなどを見回すが、大分踏み荒らされた様子はあるがどこに向かったかまではわかりそうにない。

踏み荒らした足跡は人の素足のほかに、鋭い爪痕がところどころに交じっている足跡からウェアウルフの足跡と推測できた。数が分かればいいんだがここまで踏み荒らされてるとさすがにわからんな…。


「…どっち向かったかわかるか?」


少女の方を見てみると彼女は周囲を見てからびしっと指さした。


「そっちにいるの?」


瑠衣の問いかけにこくこくと頷く。

なんでわかるか聞こうとも思ったが、あまり悠長にしてる時間もないからな。


「急ぐか。玲、パス」


抱えていた少女を玲へと放り投げた。


「あらあら~」


驚く少女を玲が受け止め、それを見てから俺も駆け出す。

間に合うかわからんが、とにかく急ぐとしますかね。


――――――――――――――――――――――――――――


はぁはぁと少女の荒い息遣いが森に響く。

走り続けた足は枝や小石で切れて血が流れていた。体力の限界はとうに過ぎている。だが足を止めたらその瞬間に後ろから追いかけてきているウェアウルフに捕まってしまう。

生い茂る木々を右に左に縫うように走り抜けることで何とか逃げ延びているが、それもどこまで続くかわからない。

どこまで逃げればいいのかなんてわからない。だけど少しでも長く逃げる。そうすれば途中で別れた妹が生き延びることができるかもしれない。

本当は一緒に逃げたかった。だけど二人一緒だとすぐに捕まってしまいそうだった。だから妹を近くの茂みに隠してから私はあえて見つかるように走っていった。相手は狼みたいな魔物だから匂いですぐわかるかもしれない。だけど私が囮になれば助かるかもしれない。そんな淡い希望を抱いて少しでもその可能性を高めるためにずっと走り続ける。

しかし突然足が何かにとられ転んでしまった。痛みをこらえながらも足元を見てみると木の根が少し浮き上がり、天然の足払いの罠になっていた。

足首は浮き上がった根にはまっており、引っ張っても簡単には抜けそうにはない。

隙間を広げて足を抜こうと根を掴んだ時、ガサリと近くの茂みが揺れた。


「グルル…」


茂みから二匹のウェアウルフが姿を現す。

その獰猛な目が自分の姿を捕らえた瞬間、心臓を握られたような恐怖とおぞけが全身を駆け巡った。

自分はここで死ぬ。その現実を確信した瞬間、頭によぎったのは血を分けた双子の妹の姿だった。

あの子は無事かな…。そんなことを考えながら襲い掛かってくるウェアウルフから目を逸らすように瞳を閉じた。

せめて楽に死ねたらいいなと考えていたが、いつまで経っても痛みも何もない。不思議に思いながら恐る恐る目を開けると、目の前に誰かが立っていた。

その人は右手の剣でウェアウルフの爪を受け止め、左手の剣をもう一体のウェアウルフの喉元へと突き付けて動きを封じていた。


「よう、まだ生きてるか?」


その人はそんな乱暴な言葉を投げかけてきた。


―――――――――――――――――――――――――


索敵スキルのおかげとはいえ、かなりギリギリだったな…。見つけた瞬間、瑠衣達を置いてきちまったが大丈夫かね。まあ、同じ索敵スキル持ってるし、なんとかなるだろう。むしろ問題はこっちだ。

ウェアウルフが正面と左側に一体ずつ。後ろには…あれ?この子さっき助けた子とそっくりなんだが…双子か?まあ、そこらへんは後回しか。

とりあえずこいつを護りながら戦わないといけねぇんだよな…。護りながら戦うのって苦手なんだが…。

突然の乱入者に2体のウェアウルフはそれぞれ俺から距離を置くために後方へと跳んだ。

警戒しているようで唸りながらこっちを睨んでいる。

このまま退いてくれると楽でありがたいんだが、そんなことをするわけないよなぁ…。

そんな事を考えている間に2体のウェアウルフは俺を挟むように左右にゆっくり歩いていた。

後ろで転んでいる少女を助けたいのだが、木の根に足を取られており、助け起こすには数秒だが時間がかかる。そんな隙を見逃してくれるわけもないので助けれないのだが…これ結構やばい気がするな。

俺一人ならいくらでもやりようはあるんだが、今の俺の目的は後ろにいる子を護ること。

身動きが取れない彼女を護りながら二対一の現状をどう打開するか…とりあえず。


「俺があいつらをけん制している間にせめて足を根から外しておいてくれ」


意識をウェアウルフに向けつつもチラリと少女を見ると、おずおずと頷いてから木の根へと手を伸ばした。

とりあえずこれでこの子が動けるようになれば少しは楽になるが、問題はそれまでどうしのぐか、だな…。

風の魔法で全力で移動してきた距離と和也達の移動速度を考えると、合流までにはまだ数分はかかるだろう。別々にこの子を狙われたら結構きついんだが…。

ああ、もう瑠衣くらいは抱えてきた方が良かったかもなぁ…。いや、それだと間に合わない可能性もあったか。こういう突飛な状況だとまだ経験が浅いからかまだ判断が甘いな。

そんな事を考えていると左側にいたウェアウルフがこちらにとびかかってきた。

二歩ほど下がってわずかに体を左に向け、左手に持つシルバーソードの腹を手首に当て、ウェアウルフの手を左にずらさせる。その際にわずかに左肩に鋭い爪が掠るがミスリルレザーがそれを防いだ。

そのままウェアウルフを斬り裂こうと左足で踏み込んで右へと剣を振ろうとするが、それと同時に逆側のウェアウルフが少女に向けてとびかかってきた。


「ああもう!」


踏み込んだ左足に力を込めて体を強引に右側に動かす。そのせいでシルバーソードの切っ先しか掠ることはできなかったがこの際それは無視した。

右手のミスリルソードの切っ先をとびかかってくるウェアウルフへと向け、右足で地面を蹴って跳躍と共に突いた。迫る切っ先を顔を少しずらして掠らせ、鋭い爪で敬へと攻撃するがすかさず左手のシルバーソードを相手の手のひらへと当てることでそれを防ぐ。そのまま手のひらを斬ろうと力を込めるが、踏み込みが甘い今の状態では発達しているウェアウルフの毛皮を斬ることはできなかった。

そのタイミングで左側のウェアウルフが再度俺に向けて爪を向けてきた。

左手で1匹を足止めしつつ体を反転させ、ミスリルソードで受け止める。

左右それぞれで攻撃を受け止める状態となったが、2匹のウェアウルフを片手で受け止めきれるはずがない。

即座に人差し指と中指を立て、それぞれに向けて風の魔法を発動する。

すさまじい突風が指先から放たれ、ウェアウルフを吹き飛ばした。

両方ともダメージはないようだが、それでも吹き飛ばされて距離が開いた。その隙に一息ついて体勢を整える。

とりあえず現状確認。ウェアウルフ2匹にダメージはなし。俺自身もダメージはなく、この子も追加の怪我はなし、枝からはまだ足は抜けていない…と。とはいえ、劣勢に変わりはないし、瑠衣達が来るまでもう少し時間がかかるだろう。このまま時間を稼げればいいが…。

しかし2匹のウェアウルフは唸りながらこちらを睨んでいると、突如遠吠えをしだした。

突然の行動に少女が首をかしげていたが、俺もあの行動の意味を考えてすぐに思いつくと同時に背筋に悪寒が走った。

まずい、あれは仲間を呼んでいるんだ。2匹だと攻めきれないと悟ったようで遠吠えで仲間を呼んでいるんだ。

2対1でさえギリギリだって言うのに、これ以上数が増えて囲まれでもしたら俺自身の命すら危ない。


「すぐに逃げるぞ!」


遠吠えのおかげで隙ができたから、まだ少女の足が挟まっている木の根を斬って少女を脇に抱える。

とりあえず瑠衣達と合流するためにと来た方向を見た瞬間、索敵スキルが大量の気配を伝えてきた。


「ずいぶんお早いご到着で」


こっちはまだ瑠衣達と合流できてねぇっていうのに。ってかこの速度、近くに潜んでいたのか?数は…20には届かない、だいたい追加で16、合わせて18ってあたりか。とりあえずさっさと離脱するに限るな。


「結構乱暴に動くからな。しっかり捕まってろ」


俺の腕に座らせるように態勢をかえ、抱き着かせるように腕を首に巻かせる。


「行くぞ」


元来た道を戻るために姿勢を低くし、左側にいたウェアウルフのすぐ脇を抜ける。

すれ違いざまに逆手に持ち替えたミスリルソードで脇腹を斬りつけた。


(浅い!)


抱えている少女に爪が届くとまずいので多少距離を取ったのだが、そのせいで脇腹の傷は浅く、相手を行動不能に至るまでにはいきそうにない。

少しでも数を減らしたかったが甘いか。とりあえず合流を最優先にしないと。

足を止めたらその瞬間に捕まりそうなので来た道を一気に駆け抜けていくが、それを追いかけるように気配が追従してくる。姿は見えないが索敵スキルのおかげで、だいたいどの位置にいるかが把握できるのがありがたい。

俺と並走するように左右にそれぞれ3匹ずつ、後方に5匹。上空…というか、木々の枝を飛び回るように動き回ってるのが残る7匹。地上で左右後方から追い立て、上空に逃げたら四方から波状攻撃って感じか。うん、すごく面倒だな!

せめてもう少し魔法が使えれば打つ手もあるんだろうが、現段階で使えるのは大気を集めて強風にして吹き飛ばす初期魔法のみ。移動や相手と距離を置くには使えるが攻撃としては使えない。それなら…


「やっぱ飛び回るしかねぇよなっと!」


左右からほぼ同時に襲い掛かってきたウェアウルフを避けるように魔法で上空へと飛び退く。しかしそれを狙っていた上のウェアウルフ達が順番にとびかかって波状攻撃を仕掛けてきた。


「よい…しょっと!」


風の威力を調整して体を強引に押すことで姿勢を変え、ウェアウルフの爪をギリギリのところで回避していくが、直後に頭上から別の奴が俺に向けて組み敷こうと飛びかかってきた。

下には逃げれない。左右に逃げようにも足でも捕まれればそのまま終わりだ。それなら突っ込むしかねぇよな!

魔法による強風を背中に受け、一気にウェアウルフへと距離が詰まっていく。抱えている少女の腕に力がこもるがこの際それは無視して迫るウェアウルフを見据える。

このままぶつかってもマウント取られて噛みつかれるのがオチだ。なら一度態勢崩してもらおうかね。

何度か魔法を使って慣れてきたのか、体の周囲ならどこからでもどの方向へでも強風を放てるようになった。これもスキルの一つである魔法適正による習得率の上昇によるものだ。

その魔法によって前方に強風を放ち、それによって自らの体が煽られないように後方にも同時に放つ。

強風に煽られ、空中で態勢が崩れたウェアウルフは焦ったように一声吠え、それと同時に一気に距離を詰めてミスリルソードで首を斬り落とした。

やっと1匹。残りは上空に6匹、地上に11匹。さすがに全員倒してから行くのは無理だから、少しでも距離を稼がんと…。

強風を自分に向けて放つことで空中で舞う木の葉のように飛び回る。

右に左に飛び回り、時には枝に乗ってから勢いよく跳んで襲い掛かるウェアウルフをかわしていく。

すれ違いざまに斬ろうともするが、先ほどの1匹から学んだのか、最低でも2匹同時に攻めてくるようになった。

両手が使えれば同時に2匹まで捌くのもできるかもしれないが、片手でなおかつ抱えている少女を護りながらとなると難易度が跳ね上がる。だからこそ回避に徹しているのだが、それもそろそろ限界に近づいてきていた。

地面にいたウェアウルフ達も枝を飛び移り下から俺を見上げている。もともと上にいた奴らもそれぞればらけて取り囲むように移動していた。

あと少し時間がたてば完全に囲まれるだろう。それよりも早く包囲網を抜けたいのだが、それを許さないとばかりに背後から1匹とびかかってきた。

それを体を回転させることでいなし、強風で一気にその場から離脱した。しかし、それを見越していたのか、移動先で上下左右、そして置き去りにしたウェアウルフを足場に後方から1匹、そして前方の木の左右の枝にそれぞれ1匹ずつ。合計7匹のウェアウルフが取り囲んできた。


「マズッ…!?」


逃げ場のない状況に思わず声が出てしまう。隙間を縫うように移動しようにもそのわずかの時間で捕まるだろう。仮に逃れたとしても残りのウェアウルフが詰めてくる。万事休すのこのタイミングで…。


「うおおおおおおおおおお!!」


おたけびの様な声と共に前方の木にいたウェアウルフの1匹が吹き飛ばされた。


「和也!」


巨大な盾を前方に構え体当たりしてきた和也がそのまま木の枝に乗った。


「無事か!?敬!」

「なんとかな!ってかお前どっから飛んできた?」

「奥の木からだ!」


そんな返事をしている和也にもう1匹のウェアウルフが和也に向けとびかかるが、その攻撃を盾で受け止め、すぐに押し返した。

俺はそれと同時に強風で和也の方へと飛んでいくが、それを防ごうと残っていたウェアウルフが一斉にとびかかってきた。

ウェアウルフが俺を捕らえるよりも早く、ドスッドスッという音と共に矢が次々と刺さっていく。


「敬!怪我はない!?」

「瑠衣!いいタイミングだったぜ!」


少し離れたところから弓を構えている瑠衣が次の矢を番えており、玲はその後ろでもう一人の少女を庇っていた。

和也の隣に降り、視線を向けると意図が分かったのか頷き、同時に木の枝から飛び退いて瑠衣たちのいる場所へとおりたった。


「いやー、助かった。あやうくやられるかと思ったよ」

「もう、一人で突っ走るんだから…。いくら間に合わないかもといってもせめて私は連れて行ってよ!」

「悪かったって。玲、とりあえずこの子も頼むわ。多分その子の双子の姉か妹だから」


そういって抱えている少女を降ろす。先に助けた少女は瞳に涙を浮かべながら降ろした少女に抱き着いていた。


「任せてね~。怪我はしているかしら~?」

「大きな怪我はないが細かな擦り傷はあるだろう。あとそっちの子と同じで喋れないみたいだ、もし治せそうならそこらへんも見てくれ」

「わかったわ~」


とりあえずこれで両手は空いた。そして気配からしてさっきのウェアウルフ全員逃げてはいない。退いてくれるならわざわざ追いはしなかったが、攻めてくるなら迎え撃たないとな。うん、仕方ない。


「なんか敬のやつ、笑ってないか?」

「やられっぱなしなの好きじゃないからね敬は、相手が退いたなら仕方ないけど、逃げてないみたいだし、遠慮なく仕返しできるって喜んでるんでしょ」

「なにそのサイコパス、怖いわぁ~」

「いや、お前の事だからな」

「知らんな」


ま、やられっぱなしなのが性に合わないのは正しいがな。護りながらの戦いじゃないし、今のうちにいろいろと練習もしておきたいのも事実だ。相手が逃げるまでとことん練習相手になってもらおうかね。


「ところで敬、俺は武器を貰ってないんだが、どう戦えばいいんだ?素手で殴ればいいのか?」

「いや、盾で殴れよ。そのために盾の扱いがうまくなるスキル割り振ったんだから」

「む、盾が武器でもあったのか。なら遠慮なく殴らせてもらおう!」


そういって和也が大盾を担いで手近なウェアウルフに駆け出していった。


「やれやれ…和也も別に馬鹿って訳じゃないんだからもう少し考えればいいものを…」

「あはは…和也君、考える前に行動するタイプだもんね…」

「ま、だからこそ裏表があんまりないんだろうがな。さて、とりあえず俺も相手してくるから瑠衣は玲とそこの二人を頼む。一応意識は向けとくから危なくなったら助けに入るが、できる限りそっちで対処してくれ」

「うん、私もできる限りやってみる」

「ごめんなさいね~。私はまだ使える魔法がほとんどないものだから~」

「気にすんな。これから使える魔法を増やしていく予定だったんだからな。まだ来たばかりの時は使える魔法が少ないのは俺が頼んだことだし、そのうえで玲には魔法役を担ってもらったんだ。その間のフォローくらいはするさ。んじゃ行ってくる」


保護した二人を任せて俺もウェアウルフ達へと挑む。

和也が好き勝手暴れているからか、俺を取り囲むように散開していたウェアウルフ達は和也を取り囲んで襲い掛かっていた。

今まで攻めていた俺じゃなく和也を狙ったということは、孤立している獲物を優先的に狙っていくって感じか。それとも挑発スキルが機能しているのか。ま、どちらであってもそれはそれで動きやすいからありがたいけどね。

和也は迫るウェアウルフ達を盾で防ぎ、押し返してから殴り飛ばす。だがやはり相手を殺すことに躊躇があるのか、一撃自体の重さがなく、ウェアウルフ達のダメージもそこまで大きくなさそうだ。吹き飛ばされたウェアウルフはすぐに立ち上がって再度和也へと襲い掛かる。

正面からくる敵を盾で受け止めているとどうしても後方ががら空きになってしまう。そこに別の2匹が襲い掛かってきた。


「くぅっ!」


盾で防ごうにも引けば前方にいるやつらの攻撃が防げない。しかしそのままだと後方からの攻撃で八つ裂きだ。渋面を浮かべている和也の後ろへと一陣の風と共に割り込む。


「盾役だからヘイトを稼いでくれるのは嬉しいが、単騎突入は悪手だぞ?」


和也の後ろへと立ち、背中合わせになりながらも忠告するとゴトリ、と後ろから来ていたウェアウルフの首が落ちた。風をブーストとして加速した勢いを乗せて一気に斬り落としたのだ。


「むぅ…喧嘩なら得意なのだがな…」

「ま、喧嘩と殺し合いじゃ勝手が違うだろうからな。今すぐ慣れろとまでは言わんが覚悟はしておくんだな。殺す覚悟に殺される覚悟。両方必要な世界なんだろうからな、ここは」


剣を振るって付いた血を払う。死なず殺さずで生きていけるならそれに越したことはないが、そんな甘い世界でないことは今の現状で簡単に察することができる。場合によっては人でさえ殺さなければいけない状況も出てくるだろう。だが今まで生きてきた平和な世界での価値観からは忌避されていることを無理強いはできない。だからできる限り汚れ仕事は俺がやるべきなんだろう。俺の厄介ごとに巻き込んじまったわけだしな。


「……お前だけが背負う必要はねぇんだからな」

「考えを読むな。なんでお前そういうとこだけ察しがいいんだよ」


思わず苦笑を浮かべてしまう。普段は大雑把で直感で動いているというのに、なぜかこいつは察しがいい。ずかずかと踏み込んでくるその無遠慮な性格から鬱陶しく感じもしたが、救われた時もあったのは確かだ。


「ま、そこらへんは後で考えるとして、今は目の前の問題を片付けますかね」

「だな」


背中合わせの状態で互いに笑みを浮かべた。さっきまでは一人で立ち向かっていたから余裕がなかったが、今は和也達がいる。それだけで大分気が楽になる。一人で来てたらほとんど気を張ってただろうな。とりあえずさっき倒したので合計3匹始末したから…残りは15匹か。

俺の正面に4匹、気配からして和也の方には6匹。…あれ?5匹足りなくね?

気配察知を広げると、木々の天辺近くで5匹のウェアウルフが瑠衣達の方へと向かおうとしていた。どうやら俺達をここで足止めして、その間に足手まといがいる瑠衣達の方を襲うつもりらしいが。


「そうさせるわけにはいかねぇよな。和也、飛ぶか」

「なに?」

「とりあえずあっちに盾構えてくれ」


首をかしげながらも俺が示した方向、瑠衣達がいる方へと盾を構える。

その隙を逃さず襲い掛かってきたウェアウルフはすかさず強風で吹き飛ばし、両手を盾へと向ける。


「さあ、しっかり盾を掴んでいろよ!」

「おい、何をする」

「最大風速!!」


和也の言葉を聞くよりも早く現段階で俺が出せる最大風速を盾へと叩き込んだ。その勢いに煽られ盾が浮き上がり…。


「うおおおおおおお!」


和也事すさまじい勢いで飛んでいき、正面にいたウェアウルフを弾き飛ばして突き進んだ。


「おー、すげーすげー、一度現状の力量量っておきたかったんだよな」


盾のみに吹き付ける風の勢いと角度を調整しつつ、俺は和也の背に乗る。

とりあえず2mほどの大盾とミスリルによるものとはいえ、全身鎧を着ている和也とそれに乗ってる俺を楽々と吹き飛ばす勢いの風は生み出せるってことか。これはもうちょい扱いを学んで自由に空飛べるレベルまで行かせたいな。


「お前俺を乗り物かなんかだと思ってねぇか!?」

「さすがにそうは思ってねぇよ。まあ、こんな移動はまずすることないし今回だけだって」

「本当だろうな!」

「もちろんだ。そら、もう着くぞ」


先に地面に降りてから風の勢いと方向を調整し、斜め上へと盾を動かすことで和也を地面へとおろした。


「怪我はないか?」

「うん、大丈夫。遠くにいたから牽制で矢を撃っていたからか、襲っても来なかったよ。まあ、その代わりあたりもしなかったんだけどね…」

「そりゃそうだろ。むしろまともに扱ったこともねぇのに牽制できるだけすごいと思うぞ」

「そうかな~」


ニコニコと嬉しそうに笑う瑠衣に思わず苦笑を浮かべてしまう。いまだウェアウルフに囲まれているというのに呑気なもんだ。


「とりあえず、爺さんは玲のところに行って魔法の教授でもしておけ。和也は地上から接近してきたウェアウルフの対処を頼む。瑠衣は和也と俺の援護を。玲は防御系の魔法が使えそうなら使って防衛をよろしく」

「了解!」

「使えるかわからないわよ~?」

「まあ、爺さんに少し教われば多少はできるだろ」

「知識くらいなら儂も与えられるからのぅ」

「敬、お前はどうするんだ?」

「風魔法の練習がてら空中で遊んでる」

「遊び感覚なのか」

「ま、練習だしなー。って訳で下はよろしく」


そういって俺は自分の真下から噴き上げるように風を生み出して上空へと飛び上がった。

そのまま周囲に竜巻のように風を発生させて姿勢を安定させる。

さて、どこまでできるか試しましょうかね。


「なじんでるなーあいつ」


飛び上がっていった敬を見上げながら和也がつぶやく。


「なんであんなにすぐに魔法を扱えるようになるのかしらね~」

「あやつが得意とする属性は風じゃからじゃろう。風とはいうがようは空気じゃ。お主の水や瑠衣の炎のようにその場に生み出してから操るのではなく、その場にあるものを操るから扱いやすいのじゃよ」

「なるほど。っと、俺は?」


とびかかってきたウェアウルフを盾で殴り飛ばしてから問いかける。


「お主は土じゃろ。ならば大地の上に立つ限り玲達よりかは扱いやすいじゃろ。魔法銀であるミスリルで作られているその盾を通せば、触れてなくても大地を操ることができるじゃろう。最終的には触れずに操るのが理想じゃがの」


少し飛び出している岩の上に立つネズミが考え込みながら顎の部分を撫でていた。


「魔法はどうやって扱えばいいの?」

「基本はイメージじゃ。その魔法によって何が起こるのかをイメージし続けるのだ。そのイメージが細かく、明確であればあるほど力は強くなる。それぞれの属性が自らの手足のようにイメージし、扱うのじゃ」

「イメージ…イメージ…」


手に持つ盾を地面に突き立て、目を閉じて集中する。

足の下に広がる大地と一体になるイメージ。その大地を自らの思い通りに動くようにイメージすると呼応するように足元の地面がわずかに震えた。


「和也君!?」


ウェアウルフの何体かが襲い掛かってくる。それに瑠衣が慌てるが…。


「防げ」


言葉に従うように周囲に土の壁が広がり、ウェアウルフ達を受け止めた。


「貫け」


壁から多数の土の槍が付きだされ、受け止めたウェアウルフ達を一斉に貫いた。


「ほう…適性を与え、場が整っているとはいえ、こうも容易く扱うとは…さすがというところかの」


「なんか和也達の方もすごいことになってんなぁ~」


空中にいた俺は地上の様子を見ながら思わずつぶやいてしまう。

あの土の壁と槍は和也の魔法だろう。あの魔法でパッと数えた限りで5匹のウェアウルフが串刺しになって絶命していた。急所が外れた奴もいるみたいだが、ダメージは小さくないだろう。


「これで残り10匹…おっと」


とびかかってきたウェアウルフの攻撃をその場から吹き飛ぶように移動して回避し、手近な木に着地し、そのまま襲ってきたウェアウルフへととびかかって首を斬り落とした。


「9匹か。瑠衣と玲は魔法使えるようになるかな。俺や和也と違って元の属性もないしきついか。ま、とりあえず俺ももうちょっと動きやすくなるように練習しないとな」


下に少し意識を向けつつも俺は上空から襲い掛かろうとしているウェアウルフの始末を続けた。


「和也君すごいなぁ…あんなにあっさり魔法使えちゃうなんて…」

「私達はそもそも水や火を出すことすらできてないものね~」

「ふむ、そうじゃのぅ…和也よ。しばし防御を任せてよいかの?」

「おう!俺もいろいろと試してみたいからな!」


力強く腕を振り上げ、再度盾を持って魔法の扱いを試し始めた。


「うむ。上空のウェアウルフは敬がいるから大丈夫じゃろうし、地上は和也が抑えてくれるからの。これで心置きなく練習できるじゃろう」

「いいのかな…?」

「大丈夫じゃろ。あやつらにとってもいい練習になるじゃろうしの。とりあえずはお主等じゃ。まず第一段階から始めようかの。とりあえず両手を前にだすのじゃ」


その言葉に従い瑠衣と玲が両手を前に出す。ついでに近くにいた双子の少女も同じように両手を前に出していた。


「その両手の平を多少開けて向かい合わせにするのじゃ。そこにそれぞれの属性が漂う姿をイメージするのじゃ」


眼を閉じ瑠衣と玲は集中するが、双子の少女は自らが得意の属性がわからないゆえに首をかしげていた。


「ふむ、お主等は自分の得意の属性がわからぬのだな。そうじゃの…少し調べるとするかの。お主等どちらが姉かの?」


その問いかけにおずおずと後に助けられた少女が手を挙げる。その表情は少し困惑しているようだがそれも無理ないだろう。助けられたとはいえいまだにウェアウルフは周囲におり、二人が戦っているとはいえ、一緒にいる玲と瑠衣は呑気に魔法の授業を受けており、その教師は喋るネズミだ。困惑せずにはいられないだろう。


「ふむ、本来なら落ち着いてからのほうがよいのじゃろうがついでじゃ。ちょっと手を出してくれるかの」


おずおずと差し出された手にのり、そのまま腕を使って肩から頭の上へと飛び乗った。


「ふむ…」


頭の上でモゾモゾとしてから何かを探るような声が聞こえてきた。


「よし、次は妹の方じゃな」


そういってピョンとジャンプして今度は妹の頭の上へと乗った。


「…ふむふむ、なるほどの。適性が分かったぞい」


そういって妹の頭の上から飛び降り、先ほどまでいた岩の上へと戻っていった。


「姉は玲と同じ水属性じゃ。癒しの力が強い傾向があるから回復魔法などが得意じゃの。妹の方は風属性じゃ。地形把握などが得意じゃの」


姉妹がそれぞれ自分の両手を見つめて首をかしげていた。

そんなやり取りの間にも瑠衣と玲の手の間にはそれぞれの属性が浮かんでいた。


「ふむ、二人はすんなりできたようじゃの」

「これからどうしたらいいの?」

「魔法の原理は己が内から出した魔力に空気中の魔素を混ぜ合わせることで発現する。お主等がやった属性の具現化が第一段階。そこに新たにどういう効果が発動するかイメージすることで、空気中の魔素を混ぜ合わせて現象を具現化させる。それが第二段階。あとはそれをほぼ同時にできれば魔法を扱えるようになるかの」

「イメージ…そうねぇ~…」


どういった魔法を発動させようか思い浮かべて、真っ先に浮かんだのは先ほど敬が言っていた防御の魔法だった。


「それなら…こんなのはどうかしら~」


そういって手の間の水球を真上へと飛ばす。水球はある程度上昇すると止まり、そこから大量の水を展開してドーム状の形で和也を含めた玲達を覆った。


「む?」


土壁をいじくりまわしていた和也は唐突な水の壁に首をかしげていた。


「ほう…まだ扱い始めたというのにこれだけの水を生み出すか…」


突然現れた水のドームにウェアウルフがとびかかるが、水に触れた瞬間、水の壁へと引き込まれ、そのまま地面へとたたきつけられた。そこに怒涛の勢いで水が叩き込まれていき、ウェアウルフはそのまま溺死してしまう。


「…玲…すごいね」

「私も思っていた以上だったわ~…」

「これは俺も負けてられないな!」


そう言って和也は盾から手を放し、腰を落として正拳突きの構えをとった。


「はっ!」


息を吐くと同時に突き出された拳が盾の裏側にぶつかり、土の壁から伸びていた槍がドームを突き抜け、一斉に残っているウェアウルフ達へと突き刺さっていった。


「よし、これで地上の奴らは片付いたな。あとは…」


上空で戦っている敬へと視線を向ける。

上から攻めてこようとしていたウェアウルフ達はすでに残り2匹となっており、敬は2匹の攻撃を回避しながら何もないところで剣を振っては首をかしげていた。


「なにやってんだあいつ」

「おそらく風で斬撃を飛ばそうとしておるのじゃろう。いわるゆかまいたちというやつじゃな」

「それでうまくいかなくて首傾げているのね~」

「おそらくの」

「う~ん…私も少しやってみようかな」


そういって一本の矢を手に取り、番える。

空中を飛び回るウェアウルフの1匹に狙いを絞る。本来なら動き回る獣に対し、扱ったことがほとんどない弓で当てるのは至難の業…というよりもほぼ不可能といったレベルだ。

だからこその弓術スキルによる補正が入るのだが、それでもしっかり狙わないと当たらない。

呼吸を整え、しっかりと見据え…矢を放った。

放たれた矢はドームを突き抜け、そのまま敬の正面からとびかかっていたウェアウルフの脇腹へと突き刺さった。


「当たった!」


直撃に喜んだ瞬間、刺さった傷口からわずかに火が見えたかと思いきや、一瞬でウェアウルフが火だるまになるレベルまで巨大な炎に昇華した。


「ぬおっ!?」


襲い掛かってきたウェアウルフに矢が突き刺さったかと思えばいきなり燃え出し、熱による筋肉縮小でどんどん丸くなっていくのだ。

チラリと下を見てみると瑠衣が弓を構えたまま呆然としていた。


「あの水のドームは玲だろうし、今のは瑠衣か。二人とも魔法を使えるようになったのはいいがあまりにも強すぎてまだ慣れてないって感じだな」


苦笑を浮かべながら頭を掻く。ま、これから少しずつ慣れて行けばいいだろう。

そう考えている俺の後ろから最後の1匹のウェアウルフがとびかかってきた。


「よいしょっと」


振り向きざまにミスリルソードを振るうが、その刃はウェアウルフへと届いていない。

勢いそのままにこちらへと迫ってくるが、少し体をずらしてそれを避けると、俺の背後でずるりと胴体が動き、綺麗に上半身と下半身の二つに両断されていた。


「…最後の最後でできたな。今まで力み過ぎてたのかね~」


ま、何はともあれ遠距離攻撃もできるようになったし、瑠衣達も魔法が使えるようになった。突発的な戦闘だったが成果は上々ってところかね。

周囲の風を操りながらゆっくりと降りていく。爺さんに教わったのか、すんなりと水のドームも消え、瑠衣達の処へと戻っていく。


「お疲れさん、全員怪我はないか?」

「うん、私達は大丈夫。敬は?」

「俺も問題なし。とりあえず一段落ってところだな。んじゃ周囲の索敵をしつつ場所を移して野営の準備をしよう。ここだと血の匂いとかで別の魔物がきかねないからな」

「この子たちはどうするの~?」


そういって玲が先ほど助けた姉妹の肩に手を乗せた。

姉妹はおどおどと不安そうな表情で俺を見ているが…。


「…とりあえず現状連れていくしかないだろ。そのあとのことは野営場所を見つけてから考える。想定外の事だからな、今後の計画にも影響が出かねないし、どうするか考えて決めないと」


眼前の問題であったウェアウルフとの戦いが終わり、次の問題…助け出した二人の奴隷少女の処遇を考えないといけない。

下手な手を打てば犯罪になりかねないこの二人の処遇。見捨てるか助けるか、どちらか決めなければならないが…。


「一応事前に確認しておこう。見捨てる選択肢は?」

「ない」


三人が同時に発した返事に俺はため息を吐かずにはいられなかった。




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