第136話
話を終え、司祭さんと瑠衣達が向かった建物へと向かう。
「ここが…そうなんですか?」
建物の前で呆気に取られている司祭さん。それもそうだろう。今目の前にある建物は高さ数十階にも及ぶ俺達の世界で言うところのタワマンに近い物なのだから。
「地底によく建てたよなぁ」
「え、ここ地底なんですか?」
「そそ。どれくらい深いかわからんが、地下深くで魔法やらなにやら使って広く空間作ってるらしい。あんま詳しいことは俺もわからんけど」
「一体ここってなんなんです…?」
「ここは神徒の遺跡。はるか昔、神によって異世界から連れてこられ、この世界に様々な魔法陣や技術をもたらした人たちの遺跡だよ」
「え!?確かにそんな人たちがいるというお話は聞いていましたが、実在していたんですか!?」
「あ、伝承的なのは残っているんだ」
「ええ。かつて、魔族との戦いが始まったころ。勇者が神から聖剣を受け取り、魔族に対抗したそうです。しかし、やはり勇者一人で大量の魔族を相手にするのは困難であり、共に戦える者が必要でした。その時、神によって連れられてきた者達が民に様々な技術を教え、勇者の助けになった。とそんな伝承があるんです」
「へー…」
あまりこの世界の伝承については調べていないからわからないが、それでも司祭が知っているレベルの認知度のようだ。
「まあ、そこらへんの事もあってここの事を下手に漏らすと面倒な輩に狙われかねない。行った事があるという実績だけでその情報を狙うやつもいるかもしれないからくれぐれも口外しないようにな」
俺の言葉にコクコクとうなずいていた。
「さて、瑠衣がしているであろう説明をこっちでもしておく。建物の地下には畑があって、それ以外には様々な施設がある。勉強するための図書館に運動するための鍛錬場やジム。それと食事をするところの食堂。詳しい場所はこの後説明するとして、部屋に関しては子供全員それぞれ個室が用意できる。もし一人が嫌だという子がいれば希望の子は相部屋にできるからそこらへんは安心してくれ」
そんな説明をしつつ自動扉をくぐる。
「扉が勝手に…」
「基本的にここにいるのは俺の知り合いか神徒関係の人だからな。防犯的には問題ないと思うけど個室に関してはそれぞれで鍵をかけてくれよ」
「わかりました」
司祭さんが頷き、共に玄関フロアへと入ると、そこに瑠衣達が集まっていた。
「あれ?どうした」
「んー?皆司祭さんがいなくて不安がってたんだ。どっちにしろ敬が司祭さんに案内する予定だったんでしょ?それなら待っていてもいいかなって」
「そか。んじゃあ一緒に説明しちゃうか」
「おう」
一緒に待っていたカトルとアリカと共にそれぞれの施設を案内し始めた。
施設の案内を終え、カトルとアリカとも別れて俺と瑠衣、クーは和也と玲、シエルとノエル、セレスと真白を呼んで俺の部屋へと集まった。
『全員集まるの久々だよね』
「それぞれでやることが多かったからな」
「あの子達全員国を作った時に呼ぶのか?」
「ああ。まあ国を作った時というか、下地ができて必要な時にだな」
シエルとノエル、真白がお茶の用意をしてもらっている間に軽く雑談を進める。
「さて、それじゃあ話を始めるとしよう」
「そろそろ旅立つって話か?」
和也の言葉に俺は頷く。
「カトルの方も魔物憑きはだいぶ扱えるようになった。そして国を作るのに必要となる人材として子供達を連れてきたし、その教育の下地もある程度できた。そろそろここでやることもなくなってきたと思うんだがどうだ?」
「そうね~。私達にできることもだいぶなくなってきたものね~」
「冒険者になりたいって奴らもいたが、そいつらも試練与えたらほとんどが諦めたからな」
「あの鍛錬してた五人組は?」
「あいつらは見込みあるが、あの鍛錬の後冒険者に関してはまだしばらくはいいって言ってたぞ。実力不足を思い知ったんだろう」
「ほう」
カトルとの戦いを通して自分達の実力不足、そして慢心していたことに気づいたようでもうしばらく鍛錬をすることにしたようで、思わず感嘆してしまう。
「伸びそうだな」
「ああ」
「他はどうだ?問題ない感じか?」
『うん。私もそろそろ魔法陣関連で調べることもなくなってきたからねー。あとは実戦して問題点をあぶりだしてって感じかなー』
「そうか。真白のほうは何かやっていたのか?」
「いえ、私は虚空様のお手伝いをしていましたので。こちらに関しても必要とあらばいつでも敬様についていってよろしいと言われておりますので」
「わかった。シエルとノエルも問題ないか?」
「はい」
「うん」
二人も元気よく答える。
「わかった。それなら今日から準備してそうだな…三日後に旅立つとしよう」
「いいけど次はどこ行くんだ?」
「軍事国家『ヴァンクール』。鉱山から産出される功績による鍛冶や工業が発展してる国で、それに伴って潤沢な武器防具によって軍の力が強い国だ」
「目的は?」
「可能であれば鉱石の安定供給。無理でもそれなりのお偉いさんへのコネを取っておきたいな」
「農業国家のシャンフォレの時とは違うの?」
「あそこは作物とかだからな。植えて育てて増やすことができる。でも、鉱石はそうもいかん」
「俺の力で増やせるぞ?」
「確かに和也の持つ土属性の魔法ならば鉱石を増やすことができるだろう。でも、それが誰にでもできる物じゃないと意味がないんだ」
最初、この世界に来た時に鉱石類は和也に頼ることも考えた。だが、この世界で土魔法で鉱石を生み出せる人はほとんどいない。
それはつまり和也がいなくなったら頓挫する手段ということだ。それは国を維持するとしては下策となる。
「安定供給…とまではいかなくても、少なくとも個人に頼る方法はその個人が消えた時に扱えなくなる。和也自身がどうこうするってわけじゃなく、病気、怪我、何らかの理由による魔法の使用不可。様々な可能性からの供給止めが考えられる以上、そこに依存するのは下策なんだ。しかも、鉄などは消耗品。重要な役職に就くであろう和也にその消耗品の供給を一手に担ってもらうのはさすがに問題がある」
「だから安定供給先を作りたいと?」
「最低でも国が作れるまではね」
国を作り上げて第三勢力となれば魔族領という新たな選択肢が増える。しかし、それができない状況では人間国の領土からもらわなければならない。
「確定で安定供給できるルートが無理だとしても、国を作るための資材を融通してもらうためのコネが必要となる。だからそれをどうにかして作らんといけん」
「できるの?」
「行ってないから何ともだな。まあ、それも踏まえて調査したりだな」
「じゃあヴァンクールについたらいつも通り国の調査ね~」
「そうなる。そして問題があれば解決し、可能だったらそのままお偉いさんとのコネを作る」
「目立たずに?」
「可能な限り、な」
まだ目立つには早い。目立つのはヴァンクールの次の国、防衛国家ブクリエ。それより前だと余計な横やりが入りかねない。
『また大変な形になりそうだねー』
「何をいまさら、さ」
『それもそっか』
俺の言葉にセレスは笑う。
「さて。それじゃあ話は終わりだ。あとはそれぞれ旅立つための準備を。といっても、たまにここに戻ってきて子供達の様子を見に来る。忘れ物があったとしても問題はないからな」
俺のその言葉にそれぞれが頷き、気楽な雰囲気で部屋を出てそれぞれ旅支度をすることにした。
「そう。行くんだね」
それぞれが旅支度をはじめ、俺もその旅支度の一つとして虚空の元へと来ていた。
「ああ、すまんがしばらくの間子供達の事は任せる」
「いいよ。そもそも僕は直接何かをするわけでも無いし、あの子達が自立できるように教えるのが目的だ。それならばこの場所や人材を貸すのだって文句はない」
「すまんな。他に安全に学べる場所がなくてな」
本来ならばすべて俺が面倒を見なければいけない。だがそれができる安全な場所も、それをするだけの時間も、それができるだけの人材もない。
「気にしなくていい。こちらとしても必要な時に君の力を貸してもらうからね」
「ああ、魔神の件だろ?それに関しては文句はないが…」
「何か不満でも?」
「いや、そもそも俺が現役の間に復活するか怪しいだろ」
「ああ、それに関しては大丈夫だよ」
そう言って虚空は不敵に笑う。
「だって『僕達』と同じになるだけだから」
「あ、そっすか」
いろいろと思うところはあれど、それくらいの代償は想定していた。
「ま、こっちとしては魔神の脅威はいまいちわからん。そこら辺への対応はそっち任せになるが問題ないんだよな?」
「ああ、構わないよ。それに関してはあの神と練っているところだから」
「そか。ところで神爺さんはどうした?」
「今は魔神の封印の維持に専念しているよ。それでも焼け石に水らしいけどね」
「そうか。ま、こっちはこっちでやる事やっているよ。必要な時にまた呼んでくれ。あと、また時期が来れば子供達増えるからよろしく」
「ああ、わかったよ」
それで挨拶を済ませ、俺は虚空の部屋を出た。
そしてそれぞれ関わった子達にしばらく留守にすることを告げ、準備を終えて三日後。
「うーし、準備はいいかー?」
確認したところ全員が頷く。
「うし、んじゃあ一度もう一つの遺跡に飛んで、そこからヴァンクールを目指すとしよう。カトル、子供達の事はお前に任せるからな」
「ああ。任せとけ」
「んじゃ行くとしますか」
カトル達に見送られ、俺達は新たな国へと向かうために遺跡を後にした。




