第12話
公爵家から帰還した日から数日。その間は特に何かをやる予定もなかったので、それぞれ思い思いに過ごしていた。
瑠衣と玲がノエルとシエルを連れて買い物や食べ歩きにと出かけ、それの護衛を兼ねて和也が同伴し、クーを連れて行こうともしていたが、俺から(物理的に)離れないので、俺も連行されたりと、商会を襲撃した後始末は公爵がやってくれたからか、特に何の問題も起きなかった。
公爵家とはスティクを介して一度食事に誘われたのだが、こちらは礼儀知らず(それを言った瞬間に瑠衣と玲から文句が出たが)の旅人四人に奴隷が三人だと、さすがに問題があるだろうということで断った。
特に何か大っぴらに手柄を立てたわけではないし、必要以上に公爵家とのつながりを持っておきたくないというのが本音だが。
そして今、そんなことを考えつつ何をしているかというと…。
「なあ敬…その数の資料、数日以内に全部読んでライカンスロープの居所のあたりつけれるのか?」
そういって和也がテーブルの上で山積みになっている資料を見て、訝し気な表情を浮かべていた。少し前にスティクが宿屋へと訪れ、皇国付近の地図と共にウェアウルフ関連の被害の報告書すべてとウェアウルフ、ライカンスロープの資料を渡してきたのだ。
まあ、確かにできる限り多くの情報が欲しいから最初の被害が出てからの情報が欲しいとは言ったが、まさか数十年前の被害からさかのぼるとはおもわなかった。
まあ、ライカンスロープがどれくらい前からいたかわからない以上、まったく無関係と決めつけることも出来ないのだが。
「ま、全てを事細かく調べなきゃいけないって訳じゃないし、これだけあればライカンスロープがいつからいたか判断できる可能性もあるからいいんだがな」
「そうなの?」
「ライカンスロープがウェアウルフを配下にしたとしたら、動きが変わってくるからな。統率されているかどうかで動きや頻度がガラッと変わる。そこらへんがわかったら期間を限定すれば拠点の規模がわかるかもしれない」
「長くいればいるほど大きな拠点がある可能性があるってことかしら~?」
「ああ。だがさすがに結構な規模だとしたら皇国が察知していてもおかしくはないとは思うから、よっぽどうまく隠れているってことになるだろうがな」
「たまたま見つからなかったってことはないの?」
「まあ、その可能性も捨てきれない。どれだけ考えても憶測でしかないからどこかで区切らんといけないがな」
そういいつつ話しつつも背中に張り付いていたクーを剥がし、俺は椅子に座って資料を読みだす。降ろされたクーは俺が椅子に座った瞬間に膝の上に乗ってきたが、それもいつも通りになりつつあるので慣れた。
とりあえず大雑把な時期と地域で分けておきたいんだが…。
「何か手伝うことある?」
「ん~…あるにはあるが…瑠衣達もなにかやることあるんじゃないか?」
これに関しては俺が受けた依頼だから俺がやるべきなのだが…。
「敬一人じゃ大変でしょ~?私達にできることがあるならやるわよ~」
「俺は…できることあるか?」
「いや、さすがにできないことをやれとは言う気はないが…。まあ、そう言ってくれるなら頼むか。んじゃあ…」
積み重なっている書類から、被害報告が書かれている書類を取り分ける。
「瑠衣と玲、ノエルはこれを読んで場所と時間で整理してくれ。んで、和也とシエルはその場所に時間を書いてくれ」
「あいよ」
「じゃあやっていこうか。ノエルちゃんはこっちをお願いね」
コクリと頷き、ノエルは瑠衣と玲の間に座った。そして少し離れたところに和也が地図を広げて座り、その隣にシエルがちょこんと腰かけた。
一応玲と瑠衣にはこの世界の文字についてはもう教えてある。ほとんど英語と変わらないが、文字が大分違うので、該当するものさえ教えればあとは簡単だった。
和也に関してはもともと英語が苦手だったからというのもあって、そこらへんはできないのだが、瑠衣達から渡されるのは日本語で書かれたメモだから問題ないだろう。
「一応聞くが、クーは手伝う気は?」
「?」
膝の上にいるクーに問いかけるとキョトンとした表情をしながら、資料の一番上を手に取って俺に差し出してきた。
「…まあ、いいか」
とりあえず突っ込むのを諦め、差し出された資料を受け取って読み始めた。
資料の整理と読破にはおよそ数時間かかったが、何とか全部読み終えた。
地図への書き込みは少し前に終わっており、俺は瑠衣達が見た後の資料から被害状況を確認していた。
「ねえ、被害の時期と場所はわかるけど、被害状況まで確認する理由ってあるの?」
「ん~?あるぞ。例えば死体がそのままになっていて、食料とかも手が付けられていない場合、その場合襲撃だけが目的になる。その場合拠点から遠くても問題ないんだが、これが食料目当てでそれらを奪っていた場合、運ぶ必要が出てくるから拠点から離れているとやりにくくなるんだ」
ノエルとシエルが襲撃された現場も、食料品も死体も放置されていた。ということは食料が目当てというのではなく、襲撃自体が目的か、それ以外の『何か』が目的だったということになる。
「襲撃された時間がわかればいいが、さすがにそこまではわからないからな。被害の状況からある程度推測するしかないのさ」
時間がわかれば夜が主な活動時間であるウェアウルフが、どれだけ移動したかで逆算する方法もあるんだが、この時代は死体の死後硬直や血の渇き位で逆算できるほどの知識は広がっていない。せいぜい数日経過している、とかその程度だ。
「さてと」
最後に読み終えた書類を戻し、クーを膝から降ろして地図の方へと向かう。俺が立ち上がった瞬間にクーが身軽な動きで背中に張り付いてきたが、とりあえずこれはスルー。
「敬君、動じなくなってきたわね~」
「慣れたんだろうねー」
クーに懐かれてからここ毎日、離れていた時間の方が短いからか瑠衣達すらももう当たり前の様な態度を取っている。懐きっぷりが両極端すぎるがまあ、いいや。
とりあえず読んだ資料から地図に書かれているメモに大雑把にしるしをつけていく。
食料などを持ち去られていたところは円で囲み、放置されていたところは四角で囲う。
「こうしてみるとバラバラじゃね?」
和也の言う通り、円で囲まれたすぐ隣に四角で囲まれた場所があったりと、被害状況からだけでは推測できそうにない。
だから…
「ここから時期で絞り込むぞ」
そういって古い部分から一個ずつメモを消していく。
南に、西に、東に、北に。様々なところで被害が出ており、それが順番に消えていくのだが、その消えているメモが大雑把なルートを見せていく。
「これは…」
いくつか消したあたりで気が付いた和也が声を上げた。
「とりあえずここで一区切り」
襲撃時期を調べている間に何度か期間が開いた時期があった。それを区切りとすると、その時点での拠点が見えてきた。
「どうやらこの時点ですでに司令塔の存在はあったみたいだな」
そういって南の森の一部に大きく円を書きこんだ。
一番古い時期では北側はほとんどが食料などが放置されており、南側は食料なども略奪されていた。ここから推測すると南の森の中に拠点があるとみていいだろう。
そしてこの後に時期に期間が開いたということは、拠点を移動させたということ。で、次の拠点の位置はっと…。
そんな感じで一つ一つ消していき、最後の区切りとなると、だいたい予測がついた。
「ここらへんかね」
残っているメモからおおよその位置を割り出した。そこは皇国から北西に少し離れた場所にある森の中だ。その先には地図上では少し小高い丘がある。おそらくこの丘周辺あたりが拠点だろう。
「とりあえず答え合わせでもしますか」
そういって万能の書を取り出した。
「それがあるなら最初からそれ使えばよかったんじゃね?」
「それだと公爵と話す際に説明できないだろ?こうして地図に書き込んでおけば、たどった過程も説明できるしな」
ただ、ここら辺が拠点です。で、話が終れば簡単だが、実際にはそうはならない。何をどうつなげてそこだと考えたかをきっちり説明しないといけないから、こういった手順は必要だ。
そして仕上げとして万能の書で調べてみると、俺の予測通り、小高い丘付近に拠点があるそうだ。
「ビンゴ!よかった、大筋と間違ってなくて」
「間違ってる可能性もあったの?」
「そりゃな。いくら何でも俺が考える事がすべて正しいって訳じゃないんだし」
「だな。ついこの間計画がとん挫したもんな」
「うっせぇ(´・ω・`)」
「それでどうするの?すぐ届けるのこれ?」
そういって外を見るが、すでに陽は暮れ、真っ暗になっている。さすがにこれから行くのは失礼だろう。そもそもの話、公爵家に行くのなら先ぶれを出さなきゃだろうしな。
「いや、さすがにすぐは迷惑になるだろ。とりあえず俺はこれから公爵家に行って、できたから明日持ってきますって伝えてくる。門の方にスティクがいればいいんだがな…」
「一緒に行こうか?」
「いや、瑠衣は玲達と夕飯の用意をよろしく。こっちは軽く話してから帰るから」
「ん、わかった。気を付けてねー」
背負っているクーに帽子をかぶせ、宿屋を後にし、大通りへと出た。
「先に門に行くからなー」
「ん」
背中に張り付いているクーは小さくうなずきつつ返事をする。もともと寡黙な子なのか、クーは必要以上に喋ろうとはしない。短い返事と欲しいものがあれば軽く言うだけだ。(主にお腹すいたとかだが)
帽子と着替えた際に外套を羽織らせているので、耳と尻尾は隠れているが、やはりどことなく他者の視線を気にしている様子が感じられる。無理に外に出す必要はないから、置いてきてもよかったのだが、それはそれでクーは愚図りそうだから放置した。
一応万が一もあるから周囲をそれとなく警戒しているが、特にこちらに意識を向けている存在は見当たらない。ま、襲撃してくる奴は違法取引してた貴族関係の奴だろう。それは公爵が抑えてくれているはずだから、そこまで気にする必要もない。商会関連に関しても会長がこっち陣営なんだ。わざわざ逆らってまで襲撃してくることはないだろう。
そんな事を考えながら歩いていると、スティクがいた門へと到着した。
そろそろ門を閉める頃合いなのか、何人かの兵士が手続きを済ませ、片付けに入っていた。
「すいません、スティク殿はまだいますか?」
「失礼ですが、あなたは?」
「申し遅れました、敬と申します。少しスティク殿に用事がありますので、お取次ぎ願えればお願いしたいのですが」
「わかりました、少々お待ちを」
そういって兵士が中に入っていき、少しするとスティクが出てきた。
「お待たせしました。どうしましたか?」
「すいません、お忙しいところ。実は例の件、ある程度当たりがつけれたので、公爵殿に報告をと」
「もうですか!?」
資料を持ってきてくれたのは昼前だからおよそ半日ほど経ったくらいだ。おそらく向こうとしてももう数日かかると思ってたんだろう。
「瑠衣達が手伝ってくれたのでだいぶ時間短縮できたんですよ。なので、こちらから伺おうにも、さすがに先触れなしはまずいとおもいまして…」
「わかりました、私の方で取り次いでおきます。公爵殿の予定が付き次第ご連絡しますね」
「お願いします。それで、その一件が終りましたらそろそろ旅立とうとおもいますので」
「そうですか…。いささか残念ですがわかりました。また旅立つ時によろしければご挨拶を」
「ええ、ではまた」
「はい、お気をつけて」
一礼してからスティクと別れ、宿屋へと戻る。
皇国でやるべきことはすべて終わった。成果があったかどうかは別として、これ以上いる理由がない以上、そろそろ次の国に行くべきだろう。帰ったらそこらへんの事も相談しないとな。
そんな事を考えながら宿屋へと歩みを進めていった。
今回は少し短いですがキリがいいのでこの辺で。
次回でグランフォール皇国編はラストです。




