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神に頼まれたので世界変革をすることにした  作者: 黒井隼人
魔物憑き

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第102話


龍亜が管理している遺跡へと来てから数日程が経過した。

その間に俺は大雑把な特訓のスケジュールと方法を構築し、瑠衣には魔物憑きに関しての情報をまとめてもらっていた。

和也と玲達に関しては特にやってもらうこともなかったので、自由にしてもらった。

ちなみにクーは同じ部屋のベッドの上ですでに寝ている。


「どう?敬。そろそろ終わりそう?」

「んー…そうだな。ある程度のパターンは組み立てたから…あとは実際にやってみての結果次第ってところかな」


鍛錬など合うかどうかはやってみないとわからない。それこそ、場合によっては怪我などで体を壊したりもするから気を付けないといけない。


「そっちはどうだ?」


俺の問いかけに瑠衣は困ったような表情で首を横に振った。


「情報自体はいくつかあるけど、万能の書とほとんど同じで目新しい情報はなかったよ」

「やっぱそうか…。ちなみに顛末については?」


その問いかけに関しても同じような対応を取られる。


「大概は迫害されてそのままって感じだね。いかんせん、そうなった原因が魔物の襲撃によるものだし、その子は生きていても両親が死んでいたり、両親にも手を負えずにっていうのも多いから」

「そうか…」


何かしらの情報が欲しかったところだが、それに関しては期待できないようだ。

まあ、カトルに関しては実際に他の子供たちにはいじめられ、大人たちには距離を置かれている環境だ。それ自体が普通の対応なんだろう。

しかし救いがあるのはアリカ達一家の存在だ。カトルは彼女たちも鬱陶しく思っているようだが、それでも自分を気にかけてくれる存在がいるというのはかなり大きい。素直になれていないだけか、それともただの無自覚かわからないが、カトルが反発できるだけの勢いがあるのはアリカ達の存在があるからだろう。


「とりあえずは扱えるようにして、その後は要観察ってところか」

「そうだねー」


とりあえずは特訓をしつつ、状態の様子を見るというのが主だろう。魔物憑きに関してはほとんど情報がない。何が起こるかわからない以上、そこらへんは気を付けておかないといけない。


「にしても、やっぱり長生きできてないんだな…」


魔物憑きが発生するのはまだ魔力が安定していない子供だ。迫害されているだけでもまともに生きていくのに苦労するだろうに、能力が暴走して魔物になってしまったらそのまま殺されてしまうことだってありうる。


「…なあ、一つ思ったんだけどさ」

「なに?」

「アリカ達一家、この遺跡に連れてきた方がいいんじゃないか?」

「え?」


ふと頭によぎったのはそんな考え。いじめられ、大人たちから距離を取られているカトル。そのカトルを昔からの付き合いだからという意味もあるだろうが、家族ぐるみで気にかけ、かばっているだろう。

しかし、それは彼女たちも迫害される要因になるのではないだろうか?

大人たちはわかるだろう。カトルは魔物襲撃の被害者だ。その被害の結果、魔物に変身してしまうとはいえあの子は何も悪くない。だが、万が一、それが自分の子供と遊んでいる時に発生したら?それによって子供が怪我を負ったら?それだけじゃなく自分の子供も同じように魔物憑きになってしまったら?

可能性としては低いかもしれない。でも、その『もしかしたら』を意識してしまうと無視することはできなくなってしまう。だから、親は子供に言いつける。『あまりあの子と遊ばないように』と。自分の子供を傷つけないために。自分の子供を守るために。

しかし、それが子供にとって『あの子は仲間はずれにしていい』という考えを抱かせてしまう。それがいじめの元凶になってしまうとも考えずに。

そしてその光景を親が見たとしても、それを咎めることはできない。なんせ距離を置くように言ったのは親なのだから。自分が距離を置くように言ったというのに、いじめ始めたら注意をするなんて子供にとっては理不尽極まりない。

罪悪感を抱きながらも自分の子供を守るためだと見て見ぬふりをする。そんな時に親子共に変わらずにカトルを気にかける存在を見かけたらどうだろうか?

自らが子供を守るためと言い訳して蓋をした罪の意識が沸きあがってくる。それは疎ましく思う感情と混ざり合い、アリカ達一家を迫害する気持ちへと変わるだろう。


「まあ、そんなわけでそういった物から守るためにもカトルもろともつれてきた方がいいんじゃないか?という考えなわけよ」


話している途中で瑠衣が淹れてくれた紅茶を飲みつつそう言い切る。


「んー…考えすぎ…ともいえないところだけど…」

「たぶんだが、実際にあの一家を疎ましく思っている輩はいるぞ」


具体的には村長当たりは少しあの一家に対してよくない感情を抱いているだろう。


「え?なんで?」

「あの村長、俺達に対してかなり懐疑的だっただろ?」

「うん。でも、それは私たちが旅人で目的がわからないからじゃないの?」

「それもあるだろうけど、それだけだったらいわば村の端にでも場所を貸せばいいだけだ。むしろアリサ一家を守るためならそっちの方がいい。だが、村長はアリサ一家の家に行くことを止めず、もし問題が起きても干渉しないと言っていた」

「そっか、何かあった際に解決するのは村長としての仕事なのに、それを放棄してたんだ」

「そ。村の長であるあの人がそれをやったんだから他の人だって手を貸さんだろう。そしてそれをアリサはいつも通りの事のように受け入れていた。似たようなことが他にもあったんじゃないか?」


おそらくはそれはカトル関連の事だろうが。


「表立っての迫害はないだろうが、おそらく何かしらの不便は強いられているってところだろう。そういうことならむしろあの村から離れるのも一つの手じゃないかなというのが俺の考えだ」


カトルのメンタル的な物を考慮しても悪くはないとは思うがな。


「提案するのはいいんじゃない?無理矢理に連れてくるのは問題だけど。でも、それ龍亜さん受け入れてくれるかな?」

「あー…そこが問題か…」


龍亜は虚空と比べどこか排他的な印象を受けた。おそらくだが、不確定な要素を入れて想定外な事柄を起こさないようにするためだろう。つまりあの一家を受け入れさせるにはそれ相応の理由を告げなきゃいけないんだが…。


「理由…理由…」


何かないかと思考を巡らせる。あの一家を受け入れるメリット…。もしくはそれにつながる理由…。考え続けるがなかなかいい考えが浮かばない。


「ねえ、敬。私達って国境のところに国を作るんだよね?」

「んあ?一応現時点での目標はそうだな」


以前虚空がいた遺跡にて話をした現時点での目標。それは魔族と人間の国境の部分に国を作るというものだ。

国境の部分に魔族にも人間にも属さない独立国家を作ることで、魔族からの侵攻も人間の進行もどちらも食い止めて物理的に戦争を止めるのが目的だ。まあ、そううまくはいかないだろうし、そこに至るまでの問題も山積みだろうからどうなるかは不明だが。


「その国を作るのに必要な人材はどうするの?」

「人材?」

「うん、ほら。ジェノ君の村をよくするにしても、虚空さんのところからたくさんの人を借りたじゃん?」

「ああ、確かに」


現在勇者として活動しているジェノの村は疫病によって廃れていた。村人たちはやせ細り、働き手として十分な役割を全うできずにいた。

そんな彼らを助けるために虚空が人材をたくさん貸してくれたので、その時もそのつもりでいたが…。


「でも、それっていつまで借りるの?」

「む」


確かに瑠衣の疑問ももっともだ。

ジェノの村の場合そこまで大きな規模でもないがゆえにそこまで長い期間でもなかったのだが、それでも数か月はかかった。もともと住んでいた村を整備するという目的だけなのにだ。

それが今度は一から国を作らねばならない。となるとその分時間も人材も必要になる。確かにそれを虚空のほうから借りるとしたらいつまで借りないといけないかわからない。


「確かにあまり長期間になるのはまずいな…。とはいえそんな人材なんてすぐにどうこうできる物でもないだろ?」

「うん。だから虚空さんのところで教えてもらえるように働きかけたらどう?」

「…ああ、そういうことか」


つまり、国を作るために必要な人材の育成場所を作ればいいということか。

遺跡ならばいつでも行けるし、教える人はそろっているわけだから、あとは虚空の許可を得ればよしってところか。


「んじゃあさっそく話をしてみるか」

「うん」


立ち上がり、出かける用意をするとクーが気配に気づいたのか目を覚ました。虚空のいる遺跡に向かうことを告げ、ついでに和也達にその話を通してから一度俺と瑠衣とクーの三人は虚空のいる遺跡へと転移した。



「…なるほど、それで僕のところに来たわけだ」


遺跡へと到着したのでセバスへと話を通してそのまま虚空のいる執務室へと向かった。


「ちなみに聞きたいんだけど、その教える人材というのはすでにいるのかい?」

「今のところはいないが、迫害されている孤児あたりでも回収しておこうかと」


この世界には孤児院がある。魔族との戦いで親を喪ったり、捨てられたりといった理由で孤児になった子達がおり、その子たちが身を寄せているのがその孤児院だ。孤児院は基本的に国や貴族によって運営されているが、当然すべてがすべて順調に運営できているとは言えないだろう。中には孤児院を根城に横領などがはびこっていることだってあり得る。そういった部分から孤児を引き取り、技術を教えればいわば国を作るための技術の土壌になりうる。


「ちなみにその孤児を回収するのは?」

「俺らでやる予定だよ。カトルを鍛えるのと並行してそれぞれの国に行って孤児院の様子を見て回収してくるつもりだ」

「ふぅん…てっきり真白あたりに頼むかと思ったけど」

「それも考えたが、一気に大量の孤児を引き取るといろいろと問題が起こりそうだからな。一応それぞれの国ならば俺はそれなりの権力者とコネがあるから、もめ事起こさずに引き取れるかなと」


皇国では公爵と、聖都では教皇と、農業国家では第2王子とコネがある。それぞれかなりの権力者であるから、ちょっとの融通くらいは利くはずだ。まあ、そのコネどこまで使えるかは不明だが、ないよりはましだろう。


「なるほど。そういうことならいいよ。それ用の教師と場所を用意しておくよ」

「ああ、頼む。そういえば龍亜のほうは大丈夫なのか?」

「うん?まあ、大丈夫だよ。彼はあまり外から人が来るのを望まないからね、むしろこっちでやるって言っておけば余計な気苦労しなくて済むから喜ぶと思うよ」

「そういうものか」

「うん、まあ彼には僕から話しておくから、君たちはその魔物憑きの子達と今後について話し合ってきな」

「ああ」


虚空の言葉に頷き、俺達は和也達と合流するために一度龍亜の遺跡へと戻った。


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