1話目
―――ナゼン王国の南方、国内でも3番目に訪れる人が多い等と言われている
アゼイルの街、その街の冒険者ギルド・アゼイル支部、には真っ当に
生きている常人はその大きな建物へと足を運ぶことはない。
そこに足を運ぶ連中は腕っぷしを飯の種とするゴロツキばかりだからだ
建物内部での喧嘩というじゃれあい、稀に殺し合いまでいってしまう
ことも珍しくもない、冒険者、と呼ばれる連中。
しかし、このゴロツキ達のおかげで手が回らない騎士団や兵士連中への
魔物討伐を代わって引き受けてくれるため、この街の住人達はもちろん
小さな村の自警団など、ありがたく思っている人もまた多かった。
万人に好かれているわけではない冒険者、そんな彼ら、彼女らの多くが
集まる冒険者ギルド・アイゼル支部は、本日も建物内部は騒がしかった。
「依頼の達成お疲れ様でした。ラーナさんとそのパーティの方々、それと
Eランクソロのアランさん。」
ギルド内部、依頼達成用窓口と書かれ、しきられたその内部に、座りながら言ったのは、ギルド嬢、などと冒険者からは言われている
冒険者ギルドでの事務等を担当とする女性の一人
「ふん、私が受けた依頼だもの、失敗なんて、ありえないわ。
で、今の達成でDへと上がるための貢献ポイントは達したんでしょ?」
己の力に絶対の自信を持っているのだろう。そう感じさせるような言葉を返したのはラーナという茶色く長い髪をツインテールにし、魔術の学徒のような格好をした少女だ
「あはは、ラーナ、今日はお疲れ。これでやっと僕らも
Dランク冒険者だね。
ポイントは十分だと思うんですけど、どうですか?受付嬢さん」
やわらかな雰囲気で口を開いた男、アランはEランクソロという
個人での依頼の達成をそこそこの数こなしてきたラーナの友人だ。
茶髪の髪を短く切りそろえた女性受けのよさそうな甘いマスクが特徴の
騎士もどきのような格好をした青年だ
「お言葉の通りDランクへと上がる為の貢献ポイントは今回の依頼で
満たされました。
Dランクへと上がる為の依頼はいくつか御座いますが、ご希望は
ありますか?」
「一番貢献ポイントが上がって、達成報酬の金額もでかいのがいいわ。
そういう依頼、あるでしょ?それを受けるわ。私はほかの
雑魚とは違うの。
どんな難易度でも簡単にこなしてあげる。」
「でしたら明日の早朝までが受注期限のパーティーズ・パーティが
ございます。最低受注制限はDランク~その上のランクまで
となりますが、昇格依頼として受けるのであれば
EランクでもDランクとして扱われます。」
軽く息継ぎをしてそのまま説明を続ける
「パーティーズ・パーティはそう多くある依頼ではなく受注したことが
ない方も多い依頼です。複数のパーティや、ソロランクが集まり
極めて危険な個体の群れを殲滅する依頼です。今回ですと
パーティは八つまで、対象モンスターはCランク中位とされる
緑森熊八頭、あるいは十頭まで、と予測された魔物の
殲滅となります。」
それから・・・と続け
「依頼遂行中でのパーティとパーティの不和から起こりうる危険は
自己責任でお願いします。ギルドへ泣きついてきても対応する気は
ございませんので、ご了承ください。」
と、そう締めくくった。
「ふん、Cの中位とパーティとパーティの集まり、ね。
いいわ、どうせ冴えない連中の寄せ集めでしょ?緑森熊なんて
全て私の魔法でなんとかしてあげようじゃい。ね?アラン。」
「あはっ、そうだね。未来の英雄たる僕等です。失敗なんて
ありえませんので、僕等に、任せておいてください。」
と、アランはウインクをしてギルド嬢へと言う
左様ですか・・・と冷めた目で言うギルド嬢
「では、依頼の受注、たしかに承りました。明日の時計台が九へと
回る少し前にアゼイルの東門外口での集合となります
今回のパーティーズ・パーティの総リーダーはCランクパーティー
宴と糧、のリーダー、ゴランさん、となります。なにか言うべきこと等
あればそちらのほうにお願いします。
では、依頼の成功を願っております。」
そう締めくくるとギルド嬢は下を向き書類の整理を初める
言うべきことは言った、さっさとどっか行け、と
言外に行動で表す。
それを見た彼、彼女らは話は終わった。と出口のほうへと歩きだす。
ラーナとそのPT達、そしてアランが親しげに会話をしながら出口へと
向かう途中、併設された酒場、あるいは食堂などと呼ばれる方から
大きな声で騒ぐ下品なごろつきの会話が聞こえてきた。
「んでよぉっ!!!昨日行った娼館の姉ちゃんがよっ!!!
エ~ロいのなんのっ!て、気がつきゃあ朝になっちまってたぜ?
ギャハハハハ!!!」
「ダズの野郎よぉ、金がねえから飯はパスだなんて言っていたのによ
食費削って娼館行ってやがんだぜ?こいつの娼館好きにも
困ったもんだろう?レイル。」
「ダズっつったらぁ娼館狂いだぁ、いつも通りで俺ぁ和むぜぇ?
それより、ダズ、おめぇよぉセイレン亭のなんたらちゃんに
お熱だったじゃあねえか?ありゃどうなったんだよ?」
レイルという若者が問い、ダズと呼ばれていた山賊のような男が答える
「ハッハッハ!!ありゃあ!だめだぁ!俺のような性豪にゃあ
ついてこれねえみてぇでよ!?金が勿体ねえからよぉ
もうあの姉ちゃんは、いいさぁ、はははは!」
ダズの隣に居る男はレイルへと耳打ちをする
「ダズの野郎、手前が性豪なのが自信だったのを、セイレン亭の
姉ちゃんが2時間でノックアウトさせちまったらしくてよ、
恥ずかしくていけねえんだとよ、アホだろう?」
レイルはブゥッ!と少し吹き出すとにやにやした顔でダズへと言葉をかける
「ハッハッハッハ!可愛いとこあんじゃねえかよ?ダズよぉ、俺ぁ
陰ながら応援してるぜぇ?・・・・・・っ!だめだぁ~っ!
腹いてぇっ!!」
その席の男3人は馬鹿みたいに大笑いして心底楽しそうであった。
聞こえてきた会話を耳にし、笑い合ってる彼らを目にして不快感を
顔にだしたラーナは、ふん!と言うと
「これだから冒険者連中ってのはいけすかないのよ、私達は、人を助ける
仕事をしているのよ?もっと上品に振る舞って、誇りってのを持って
欲しいわね?クズばっかだわ、ほんと」
アランはラーナをまぁ、まぁと諌めつつ
「しょうがないさ、彼等には僕等のような高潔さ、というのがない
ドブ川の近くで休息する野犬とでも思っておけばいいさ。」
「ふふっ、そうね。くだらない連中なんて放っておいて、さっさと
帰りましょう。気持ち悪い・・・。」
彼と彼女らは酒場にいる連中を見下した目で見やると、鼻を鳴らし
冒険者ギルドから去っていった。
―――旦那からのプレゼントとやらでここ、ナゼンの南方に位置する
アゼイルに辿り着き俺ぁ、すぐに仕事ってやつを探した
ぶっ壊すことが得意な俺だ、手前の身分を発行してもらったはいいが
武器屋の店番や、パン屋の売り子などと務めてみたが
どうにも俺にゃあ合わなかった。刺激、ってやつが全然ないから
どうにも、退屈で、俺にゃあ合わなかった。
冒険者ギルドで金を得て生活しようとなったのは、俺の性格じゃあ
ある意味当然の結果だったと言えた。
もとが毎日訓練だの、実戦だの、模擬戦だのとやってきた俺だ
村に被害が出る前に、この魔物をやら、死の危険がある場所での
よくわからん草なり葉っぱだったりだのの収集して依頼主へと渡すとか
こりゃあきつい、と思った依頼はなに一つなかった言える
冒険者ギルドは依頼主がギルドへと手紙で依頼、あるいは直接頼むやら
騎士団で手が回らないかので委託など、といったやり方で仕事は回ってる
基本的に討伐依頼なんかは殺した魔物の、動かない状態でなければ
切断が難しい部位などを証拠として依頼主へと証明しサインをもらい
その紙をギルドへと渡し依頼達成、としてはいるが、確認のために
現場へと護衛しつつの案内やらという例もある。まぁ大体こうなるのは
ランクが低い、あるいは同ランクでのギルドからの信用度だったり
色々とある。
この国ナゼンでは、今存在する最高ランクはB+とされている
俺ぁDランクなんでC→B-→B→B+と4つ上ってわけだな
とはいえ、B-は0人、Bも0人、B+は一人だけ、となっている
実質はCランクが最高ランクと言ってもいいだろう。
Cランクもナゼン全体で多いわけじゃあねぇ、なんせ実質最高ランク様だ
上げるにゃあ手前やPT共のリスクってやつを秤にかけなきゃあならねえ。
Cからは得られる金銭も中々でかい依頼やら、指名依頼やらとかがある
しかし名が売れてきちまうってのもあり、面倒くせぇことも少々増える。
俺ぁDで十分な満足度の飯も食えるし、安宿よりゃよっぽどいい宿を
選べるってのもあり、Dの貢献度ポイントはとうに超過してはいるが
面倒毎が嫌い、一人でランクを上げ続けるなんぞ、つまらない、とはいえ
上のランクを共に目指してみようなんて仲が良く、実力も飛び抜けてる
なんて奴ぁ現状いない、なんで、Dで止めているのだ、刺激がなく毎日が
やや退屈、ではあるがダズなどとクソみてぇな会話をするのぁ結構好きだ。
昨日依頼をこなしたので今日は休みであり、退屈だった俺ぁ暇つぶしに
ダズのPTとの談笑を楽しんでいた。
「もう俺をいじんなぁ十分だろう!?悪かったよ!、手前の一物に自信が
あったから・・・、よ?、見栄くらい、はりたかぁなんだろう?」
この娼館狂いの野郎はダズ、という、荒事大好き、酒も大好き
女が一番大好きってぇ、よくいるチンピラ冒険者だ。
その山賊みてぇな面に、手入れはされちゃいるが汚え軽防具と服ってのもあり
同ランクでも一緒に仕事でもしねえかぎり、敬遠されがちではあるが
話してみると中々面白い野郎である。
「おう、それはいいけどよダズ、俺は金、貸さねえからな?
同じPTだからってそこまで面倒は見切れねえからな?」
ダズへと金は貸さねえと言ったこいつは、レクス
ダズのたった一人のPTであり切れて暴走しがちなダズのストッパーだ。
こいつはダズと違いちょいと小綺麗な格好に少々ゴツい面、と
ダズと長いことPTを組んでる野郎だ。
わかってるよぉ・・・とダズは言うと、俺を見てちょいと真面目な面をする
「そういやよぉ、お前を誘おうかって思ってたんだけどよ。
パーティーズ・パーティの依頼がきたみたいでよ?緑森熊っつぅ
ちょいと危険なヤツだがよ、一PT金貨6枚の報酬に、総リーダーは
ゴランの旦那だって話だ、どうだ?お前もこねえか?
何度か共同で依頼をやってきたお前が入ってくれるなら
リスクも減らせるし、不和もおこりそうにねぇ、どうだ?」
(パーティーズ・パーティか、前に受けたなぁ、随分前だったなぁ
ゴランの旦那にダズのPTもいるとなりゃあ依頼中の話し相手にゃあ
困りそうにねえな・・・・)
「おうダズ、レイルは、いると便利だぜぇ、斥候がメインの俺らみてな
連中が楽できるからなぁ。道中、気楽にいきてえからな、俺からも
頼まぁレイル。」
レイルは数秒考えて、了承する
「金貨6枚たぁ随分でけぇ金額だな、俺も昨日もらった報酬でちょいと
金つかいすぎたしな、参加してぇとこだがよ、まだPT枠は
空いてんのか?」
「おう、多分空いてると思うぜぇ?なんせ緑森熊だ。
Cはしばらくは旦那のPTしか残っちゃいねえし、リスク管理が
できてるベテランは金につられて
命を投げ出すような真似はしねえ。俺は旦那がリーダーって聞いたから
受けたけどな。たしか、あと3枠だったはずだぜ?」
と、ダズにしちゃ珍しくそこそこ詳しく教えてくれた
「なら、さっさと受けてくるかね。美味しい仕事に誘ってくれたぁ礼だぁ
この場ぁ俺が持ってやるよ。」
レイルはそう言うと銀貨を15枚、丸テーブルへと置くと受付窓口へと
向かった。
「ありがとよ~レイルゥ。明日はよろしくたのむぜ~?」