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プロローグ

初投稿です、お暇な方はどうぞ。

―――深夜、街に住む人々の大半が寝静まった時間に

一人の老いた男の酔っぱらいが帰宅中だった


「は~・・・毎日酒をかっくらって思うまま

 眠れるってなぁ、最高だねぇ~・・・。」


酔った男はふらふらと家路までの途中

何度かなにかにぶつかりながら己が住む2階建ての

ボロい自宅に辿り着くと、目を細めた。 ()()をしつつ

自宅の扉を、ゆっくりと開く。

―――(遂にきちまったか・・・)

老いた男は2階へと階段を登りながら、今までの人生の回想をする―――


(3年か・・・よくもまぁここまで放っといてくれたもんだぜ・・・

 義理を果たしての円満退職ってな訳じゃあねえが・・・あの組織での

 円満退職ってやつは、へまやらかして死ぬのが所属している奴らの

 常識だ・・・。

 俺のような例は初めてだったから結果3年も

 ()()ってのを満喫できたわけだ。)


老いた男はそのことに感謝はしてないし、憤慨もしていない

組織に属してる頃にいつも考えていたのは、仕事をミスなくこなすこと

ばかりだった。


(俺が六の時、親父が死んじまって、ただでさえひもじかった毎日が

 よりきつくなった

 親父がどこからか腐りかけの食い物を持ってきてくれてたから

 どうにか生きてこられた

 六歳の汚え糞餓鬼なんぞに仕事が貰える訳がねえ・・・

 俺はひもじさに我慢ができず露店の食い物の窃盗を繰り返した。

 痛い目を見たのは一度や二度じゃねえ

 そっから一月経ったあたりで、窃盗で食いつなぐ日々は終わりを迎えた

 何度目の痛い目だったか忘れちまったが、悪運が尽きたんだろう・・・

 領主が自領の治安維持の為に雇っているんだろう兵の詰め所みてえなとこに

 連れて行かれて、奴隷商とやらを呼ばれ、その場で俺は

 犯罪奴隷ってやつに落とされた。)


今思い返しても糞みたいな日々だっと思う。

その後も大概ではあったが方向性が違うだけで

糞みてえな毎日、という意味では大して差はない

今はもう死んじまったニクソンの旦那に買われ、殺しの、あるいは壊すための

技術を磨く日々だった。

この日々も大概糞ではあったが利点もあった。飯が訓練してるだけで

貰えるってとこだ。俺が大概糞だと断じたのは、似たような境遇の奴らが

訓練中に何人も死んだからだ。

俺たちゃ使い物になるまで気分一つで殺されるゴミだった

初日に好きなだけ飯を食えと振る舞われ、それに飛びつき

その後の訓練という拷問で全て吐いちまうのは

あの組織での新入りへのお約束だった。クソ、くらえ、だ。


(だが俺は常人よりしぶとく頑丈だった。

 俺より前に訓練を続けている者、俺より後から来た者

 そんな奴らが次々と死んでいく中で、8年あたり経ったころだと

 記憶している。

 一月に一度俺たちを見に来る俺を買った旦那と、似たような立場にいる

 奴らの一人が言った

 「今日の訓練を以て、てめえは合格だ。

  これからは実践で活躍してもらう。」と。)


この糞みたいな拷問を抜けば飯は自分の判断で

好きなだけ食っていいという環境を

俺はそこそこ気にいっていたので喜びが少々、未知の不安が多々といった

複雑な心境だった。


その後は、俺の糞みてぇな人生でも印象深い

初めて人を殺した日だったからだ。


ある程度まともな神経をしている奴なら、一定以上の大きさの

生き物を殺すってのは、初めてで早々できるもんじゃあねえ。

初めてでも躊躇なくそれが出来るってなぁ俺からすりゃ狂人だ。


まずやったことは、訓練という拷問で死んじまった奴を

指定された位置へと刺す、斬る、てなことをやらされた

人を殺す前への慣らしだと、奴は言っていた。

俺は何度目かのその行為で、感触と、その結果で飛び出る物を見て

過呼吸になり倒れ、動けるようになったとこで、刺し、切り刻んだ

ソレをみて胃の中のものを全部ぶちまけた。

出るものがなくなった俺を見て奴は言った「慣れたか?なら次は本番だ」と


俺が初めて殺した奴は、使い物にならねえと、見切りをつけられた

共にあの拷問の日々を過ごしてきた奴だ。会話こそ交わしたこたぁねえが

知ってる奴だ。拷問に長いこと慣れず毎日吐いちまう、放っておいても

死んじまうだろうと、そう思っていたやつだ。

そのガキをその日が終わるまでに殺さねえと、俺にも見切りをつけると

言われ、俺はそいつを――殺し――旦那と似た立場にいる、そいつは言った。

「おめでとさん、たった今から、てめえも斡旋組だ。斡旋組移行後の    

 実践てやつを、今から説明してやるよ。」


実践についての説明は簡単だった。所属する組織がぶっ飛んだ金額で

依頼を受け、クライアントが指定するターゲットを殺すか

あるいは一生喋れず、動けない状態まで

ぶっ壊すだけだ、という、とても簡単な説明だった。


―――この世界は、人の命が軽い。どこにでも漂っているだなんて言われる

魔力ってやつを取り込み変質した魔物と言われる化け物の存在や

奴隷を殺した場合の罰則がそう多くない金銭で

済んでしまうというのも命を軽く思ってしまう要因だろう。

冒険者、なんてごろつきな仕事をしてる奴らなんかは

喧嘩でうっかり殺しちまっただの、組んでる奴を依頼遂行中に

山や森で殺し、魔物に食われちまっただのと抜かし、それが

自己責任だし、しょうがないね。で、問題にならないぐらいに軽い。


そんな俺達のお仕事ってやつは警備で固められた金持ちの殺しや

騎士団長になりたいから騎士団長をぶっ殺してくれ。

なんて福騎士団長様からの依頼もあったな。

簡単に言うと糞ったれ共が主な依頼者で、糞ったれな組織が依頼を請負

手塩にかけた糞ったれを派遣するってことだ。


その後の日々は―――割愛しよう。もう自室の目の前だ。

この扉を開いたら誰が居るのか想像はつく、きっと俺が唯一

情なんて持ってしまった糞ったれな俺の未練だ。

俺は自分自身に未練はねえ、相応の報いではあるし、たった3年だけでも

この糞ったれな人生で感情が2番目に動いた毎日だったからだ。

嬉しいだの、楽しいだのと俺がそう思う日が来るたぁ

―――思っちゃあ、いなかったなぁ・・・。


大きく息を吐き、ドアノブに手をかけ、――開く。

軋んだ情けない音が、なぜだか妙に、耳に響く。


「遅い帰りだったな()()()()の旦那~、待ちくたびれちまったよ。」


窓から差し込む月の光で正面にある机に座り、腕を組んでいる男の姿が映る

(ああ―――やっぱりてめぇかよ・・・()()()・・・)

恐らくそうだろうと予想はしていたが、やはりこいつだったかと思うと

顔がにやけてしまう。


「は!ははは!まさか、最後の未練もこれで無くなるたぁ!

 糞ったれな俺の最期にしちゃあ、できすぎじゃねえか!」


ギリアムは嬉しくてしょうが無いとでも言うように顔を歪めて笑い出す


「帰宅するなりテンションたけーなぁ旦那はよぉう。俺がなんの用事で

 旦那を待ってたいたのか理解してんのかぁ~?」


言われ、にやけていた顔が感情の読めない表情になりギリアムは言葉を返す


「もちろんわかっているさぁ、()()()()()きたんだろう?レイル」


「理解してるなら話は早え、なら、ぶち殺して・・・

 てなる予定だったんだけどよ、ギリアムの旦那がターゲットじゃあ

 俺は殺す気はねえ、律儀にこんな自室で待ってんだから

 察してるだろうけどよぉ。」


再びにやけた顔になりギリアムが嬉しそうに言葉を返す


「嬉しいぜぇ、俺の片思いじゃあなくてよう、大方俺を逃がす為だろう?

 違うか?」


「気色悪いこと言うなよ旦那よぉ

 それで当たってるさぁ、旦那は俺の親代わりみてぇなもんだ

 そんな依頼を俺に寄越すたぁ、上で決定した奴らは意地が悪いのか

 馬鹿なのか、俺にぁわかんねぇわ。」


「簡単な話さ、レイル、俺という一番のベテランを奴らは今でも恐れている

 ほかの奴に任せて、大事に育て上げた商品がぶっ壊されるのが

 嫌なんだよ奴らぁ。だがよ、てめぇだけぁ別よぉレイルぅ

 12で異例の実践起用、15にして斡旋組どもの中で団長なんて呼ばれるように

 なっちまったてめぇだからこそ、上は任せたのさぁ、俺達ぁ力をつけても

 犬みてぇに従順だ、裏切られた例が一度としてねえのさ

 教育者の鏡だなぁ?俺とおめぇは初の例外となるのさ。」


ギリアムの言っていることがよくわからない点があり、レイルは

聞き返すように言葉を返す。


「どういうことだ??俺はギリアムの旦那を逃がすつもりはあるが

 組織にバレるようなヘマぁ、やらかすつもりぁねえぞ?」


「レイル、てめぇは言っていたなぁ?まだ九の時に、ハナタレ小僧だった

 ころによぉ?自由ってなんだ?てよぉ、俺ぁ 「知らねえよ糞餓鬼

 生きるつもりがあるんなら余計なこと考えてねえで今日の拷問を

 乗り切れよ。」 だなんて言っちまったがよ、拾っちまってから

 人形みてぇになんでも従ってたお前が初めて見せた、感情ってやつだ。

 俺ぁ口にゃあ出さなかったが、自由ってやつが、あの頃から

 気になり始めちまった、その代償はてめぇも知ってるように

 このろくに動けなくなっちまった片足さぁ。」


面倒になってきたのかレイルは口を挟もうとする


「ギリアムの旦那よぉ」


「まぁ、待て、待てよ。こんな日が来るかもしれねえだなんてよ

 組織を抜けてからの毎日を過ごしてからよ

 ずっと思ってたんだよ、最期まで言わせろよ。」


レイルはため息を吐きそろそろ尻が痛くなってきた、と楽な姿勢をとる


「俺ぁ今日で人生を終えるつもりだ。未練は、お前だった!

 三十二の時によぉ、向かった先でターゲットの、二歳の

 ガキを拾ってきちまって、俺ぁすこしづつおかしくなっちまった」


今日で人生を終える。などと抜かしているので、レイルは

口を挟もうかと開きかけたが、すぐに閉じる。


(このおっさんは言いたいことを全部言わせねえと、何度でも待て!

 だの言って止まらんからなぁ・・・。) 


「組織を抜けてからの1年後くらいによぉ、自由ってなぁ

 これのことかぁ!ってよ、毎日好きな時間に眠って、起きたくなったら

 起きて、飯を食いたくなったら食って、酒を飲みたくなったら

 満足するまでかっ喰らって、女ぁ抱きたい時ぁ娼館行ってよぉ!」


ギリアムの旦那は語りながらその時のことを思い出してるんだろう

とても楽しそうに喋っている。


(旦那は同じ斡旋組に上がってから女がどうだこうだとよく言っていた

 からなぁ、その娼館に行った時ってやつが思い出深いんだろう。

 俺は生まれつきなのか、性欲ってやつが常人よりなんでだか薄い

 下品な話は嫌いじゃあないが、同調してやるこたぁできねえ。)


悪いなギリアムの旦那、語ってくれるのはありがてぇが

俺からは提供できねえ、などと思いながら話を聞く


「で、だ。俺自身が円満退職の初の例とはいえ、あのクソ組織だ

 このまま仕事で溜め込んだ金で、死ぬまでここで暮らせるだなんて

 思えるわけがねえ、とはいえ現役の時みてぇには動けねえ。

 上も、結局決めかねて俺のようなケースをとなったんだろう。

 んで、案の定やっぱ不安だ殺しちまおうなんてなったのが

 今なわけだ。人生のほとんどを生きてきたクソったれな組織だ

 奴らがどう判断し、誰を向かわすかなんてなぁ、予想はできてた

 だからこそ俺は一つ、何一つ親代わりとしてなにもしてやれなかった

 お前に、俺の死を代償とするプレゼントってのを思いついたのさぁ。」


「プレゼント?なんだ?

 旦那の情婦のおっぱいでも、ちゅうちゅうしろってかぁ?」


「俺に情婦なんぞいねえよぉ、死を覚悟して毎日を生きてきたんだ

 これ以上感情を動かされちまう存在なんぞ、作れるかよ。

 俺の死を代償につったろう?お前じゃあなく別の奴が来てたなら

 俺ぁどうにか生きてる限りぶち殺し返して待ち続けるつもりだった。

 んで、一つ聞いておきたい、レイル、獲物は持ってきたんだろうな?」


「あ、ああ・・・旦那からもらったバスタードソードみてえな変な大剣

 と、組織からの支給品のショートソードだ。いつも通りだぜ?」


旦那はよしっ!と腿を叩く


「なら戻る必要はもうねえな、その獲物がありゃあ、おめぇは無敵だ。

 20年ほど前によ、俺を買った旦那、ニクソンっつぅもう死んじまって

 覚えてるやつも少ねえおっさんからよ、組織内でも3つしか

 所持していないって噂の自爆石ってやつをもらってよぉ

 こいつの特徴がな、起動するときに己の持ちうる全魔力を込める

 したらそいつは2秒後に発動し、大きな爆発を起こして周辺がさらっさらの

 砂みてぇになっちまうらしくてよ、どうだ?ここまで言えば俺の

 プレゼントってのがなんなのかわかったか?」


レイルは少し考えて、口を開く


「いや?わからねえ、俺ぁ旦那を組織にバレずに逃がす為に待ってたんだ

 話し、聞いてたか?」 


「レイル、お前が十六の時によ、一つヘマをやらかしたよな?

 斡旋組の一人がよ、しくじっちまって、使えねえゴミだ殺そうだなんて

 なった時によ、仕事をミスした間抜けを庇っちまった。

 あん時ぁ、お前もまとめて殺しちまうかなんてことになっちまったよな?

 それをフォローしてやってよ、お咎めなしにしてやったなぁ、誰だ?」


随分と懐かしいことを言いだすな。たしかにあん時ぁ俺も

庇った奴もろとも死ぬかな~これ~。だなんて思ったもんだ


「レイル、あん時の借りぁ、俺のお願い事を一つ、絶対に聞く、だったよな?

 おめぇも覚えているだろう?「わかったよ一回だけだからな」とか

 言ってたもんなぁ?」


「似てねえよぉクソが、今回逃してやるんだ、それでチャ『いらねえっ!』」


途中、口を挟んだギリアムがそのまま言葉を続ける


「いらねえんだよ、レイル、そんな俺にとって価値がねえことで

 チャラにされてたまるかよ?俺の、お願いごとってやつを言ってやる。

 レイル、お前あのクソ組織から足抜けしろ。

 南のナゼン王国のほうに行ってよぉ、お前なりの自由ってやつを満喫しろ。

 クソったれな毎日はよぉ、今日で終いにしろや。」


(俺が組織を足抜け?相変わらず訳わかんねえこというおっさんだ

 プレゼントだなんて抜かしてやるが、俺としちゃあ何一つ嬉しかない

 不満なんて別にねえからだ。そうであれ、と教えてきた男が

 今更何を言っていやがる。)


「わかるぜ?レイル、お前何を言ってんだこいつぁ?と、嬉しかねえよ

 糞ったれが、と、そう思っているんだろう?

 犬のように従順であれと、躾けられてきた俺達だ

 俺がお前の立場ならそう思っちまうだろうよ」


ギリアムはそこで一度小さく息を吐き言葉を続ける


「俺はこのいつか死んじまうだろう日を思いながら3年間

 思うまま、俺の、俺だけの楽しいって毎日を、自由ってやつを、よ、

 味わってみてやっとわかったのさ、できなかったとはいえ

 俺は今まで何やってたんだ、今までの生は糞まみれだったってなぁ

 気づけたのさ。呪詛のように残っていたお前の自由ってなんだ?ってのが

 よお、いまだに耳に残ってるのさ。

 これは俺の未練だ。俺がお前に、与えてやれなかった、未練てやつだ。」


「そんなクソガキの時に吐いた言葉なんざぁ、覚えちゃあいねえよ

 結構なことじゃねえか、その自由?ってやつが楽しくて

 しょうがないんだろ?逃れた先でいくらでも楽しみゃあいい。」


「レイル、お前は俺が親代わりなっちまったせいかよぉ

 俺にそっくりな奴になっちまった、その汚え言葉使いなんざぁ

 最たる例だろうよ。お前は俺そっくりだ。だからこそ

 あの糞ったれな組織からは、足抜けしてもらう。

 俺が楽しくてしょうがなかったんだ。お前も同じ気持ちになるだろうよ。」


ギリアムは自爆石を取り出し嬉しそうに言葉を紡ぐ


「自由ってなぁいいもんだぜぇ・・・俺ぁそれに気づくのが遅すぎた・・・

 行動するも、しねえも、手前の気分次第だ。

 やりたいことだけやりゃあいい、気が乗らねえならやらなきゃいい

 なにもかもが、よ、手前次第なんだよ。

 ()()()()()()()()()()()()っ!!!

組織を足抜けして自由になれっ!てめえは俺だっ!俺がまだ糞ったれな組織に

いるなんざぁ!我慢がならねえっ!」


途中、気炎を吐くように言い放ったギリアムに、俺は説得を諦めた


(俺を庇っちまった、あん時にそっくりだ。こうなっちまったら

 何を言おうが無駄だ。時間だけが過ぎちまう。

 汚えおっさんだ、ここまで本気でお願いごととやらを持ち出されちゃ

 もうなんにも言えねえじゃあねえか・・・。)


「わかったよぉ・・・あんたの、最期の願いってやつを、聞き入れるよ・・・

 でもよぉ、俺ぁ金なんぞ持ってきちゃあいねえぞ?ナゼンに行けって

 言われてもよぉ、野垂れ死んじまうぜ?」


「俺の金を全部やるさぁ、道中に掛かる金、身分証明を買える金貨5枚

 ナゼンに着いてからぁ、二月分程度は金は持つはずだ。

 そっからぁ手前で金を稼げ、身分証明持ちに、二月分ぐらいは余裕が

 あるんだ。よほどのヘマさえしなきゃあどうにかなんだろうよぉ。」


「んな大金持ち歩くなんざぁ、初めてだなぁ。

 まぁどうにかやってみることにするさ。

 こうなっちまっちゃあ深夜の今のうちにさっさと行動したほうがいいか。」


レイルは机から降りて立ち上がり、体をほぐし始める


「おめぇの説得が、一番難だったんだよ。朝までかかるかもしれねえと

 思ったが、そうと決まりゃあすぐにでも移動してもらう。

 クソ組織の、監視はついてたか?」


「俺たちゃあ犬のように従順だと、斡旋組が裏切ったことなんざねえって

 旦那も言ってたろう?今まで監視なんざ、ついたことはねえし

 今日も視線は感じなかった。いねえだろうよ」


「そうかよ、なら追われるこたぁ多分ねえだろうなぁ」


「ターゲットの旦那がくたばって俺ぁ帰らず行方不明だ。

 自爆に巻き込まれてくたばったんだろうってなるだろうな。

 で、今すぐか?旦那。」


「今すぐ、だ、てめぇという息子がいるってのぁ

 俺の生涯の、自慢だった。元気でやれよぉ?レイル」


「旦那もなぁ・・・ってなぁおかしいよな?

 いい、散り様をな?ギリアムの旦那よぉ」


最期の言葉を交わし、レイルは背を向けると、窓へと手を掛け

飛び降りる、大剣を背負っていることなど、忘れてしまう程小さな音を   たてて着地すると、音もなく走り出した。


その背をギリアムは見つめながら、20年も昔のことを思い出していた


(ターゲットだった騎士団長様には、当時2歳のガキがいた。

 素晴らしい人格者だのと、噂だったぁらしいが、そいつぁ外面だけだった。

 なんのこたぁねえ、クライアントはクソ野郎だったが、ターゲットも

 珍しくクソ野郎だっただけだ。始末して帰還しようとした俺は、衰弱した

 死にかけの、虚ろな目をしたガキを見た俺は、なんでだかガキの頃を

 思い出した。珍しくねえ話だ。クソったれが己のガキなど、

 どうでもいいと、ぞんざいに扱うなんてな。)


もし、親父が2歳のころに死んじまってたら、俺はきっとここまで

生きられなかった。そんな馬鹿なことを一瞬、考えちまったからだろう

気がつくと俺ぁガキを背負って、組織へと足を運んでいた


「らしくねぇ!このクソガキを組織へと連れ帰ったところで俺の金が

 こいつの3年分の食費に変わり、5歳になったところで、俺のような

 糞ったれを増やしちまうだけだ!俺ぁ!一体何をやってんだぁ!?」


口へと出して己に問うも、背負う腕は緩める気になれず進む足は止まらない。


「足までどっぷりと浸かり、死ぬまでここで一生を終えるこの俺が

 今更ガキの一人を生かそうとしてなんの意味がある?

 ハハッ・・・そうだよ、くだらねぇ、俺ぁなにやってんだ・・・。」


そこで降ろそう、と、力を緩めようとしたとき、ガキが必死に俺の

肩へと、落ちまいと抵抗してきたことで、腕輪に通された小さな四角い

プレートが目に入る


「ハッ!洒落たもんつけてんじゃあねえか?文字入りたぁ生意気だぜ

 おら、正面から掴まれ、そのプレートをちょいと見せろよ。」


背負っていたガキを上へと浮かし、素早く後ろを向き下から抱えるように

やさしくキャッチし、抱え直す


「どうら・・・・売・・約・・済・・奴・・隷?・・ヨ・・ハ・・ン・・?」


(なるほど、クソ野郎ってなぁ衰弱して死にかけだったこいつを見りゃ

 わかってたことだがよ、手前のガキを、2歳で売りにだすかよ。

 前情報で与えられた話だ。こいつがターゲットのガキなのは

 間違いない、手前のガキを死ぬ一歩手前まで放置し売りにだす

 ということは、このガキは望まれて生まれてきたわけじゃねえって

 こたぁたしかだろう、愛人か、娼婦か、スラムの身売りとのガキか、

 いずれにしろ、あのクソ野郎だ、ロクな事情じゃあねえだろう。今日まで

 奇跡的に2歳まで生き延びられたってとこか。)


俺の人生は糞だったと言えるが、それでも親父は俺をなんとか生かそうと

必死だった。こいつにゃ、生きたいと思える、糧ってのがねえ


「ハハ、ハハハ!俺も覚悟を決めたぜぇ!

 たった今からこの俺が、てめぇの親父だっ!この先も・・・

 この先も糞みてえな一生になるかもしれねえが、よ。なにかたった一つ

 てめぇに生きる糧、てのを俺が与えてやるっ!ヨハン、とかいう

 糞みてぇな名前はもう捨てろ、てめぇは俺のガキ、俺のガキの

 そう、レイル、だ。言ってみろ、手前の名前だ。」


「レ・・イ・・ル・・・?」


「そうだ、てめぇの名前さ、ターゲットのガキのお前だ、上はてめえも

 始末しろと言うだろうよ、だがよ、長くもくもくと貢献し続け

 今じゃあ斡旋組の稼ぎ頭のこの俺の息子だ、首を縦に振るまで

 問答を続けてなんとしても俺が生かしてやる、3年後にゃあ

 死にたくなるかもしれねえ、そん時ゃ、俺を恨んでそれを糧にして

 生き延びろ、誰も、祝福なんぞ、してくれなかったろう?だからよ    

 俺が言ってやるぜぇ?生まれきてくれて、ありがとよぉ・・・

 俺の、レイル、よぉ・・・。」




―――20年、クソったれな、毎日を遅らせちまって悪かったなぁ・・・

てめぇのような奴はよぉ、道具として、犬として、生きるべきじゃあねぇ

手前が望むまま、生きてよぉ、幸せってやつを掴んでほしいのさぁ

俺ぁ、掴んだぜぇ?てめぇの父親として会話をする日々はよぉ

俺が一番幸せってやつを、感じられた日々さぁ・・・


「さて、手前で決めてた終わり方だ。華々しく、散ってやろうじゃあねえか」


握っていた自爆石に、魔力を込める。


「あばよぉ、レイル、お前は、ヨハンなんてぇ糞みてぇな名前じゃあねえ

 俺が名付けたっ!俺の自慢のレイルだぁ!

 てめぇの幸せってやつをよぉ!願っているぜぇ!」


そう言い終わるとほぼ同時に

3年間という長いようで短い時間、苦楽を友にしたギリアムの

()()()2()()()()()()()()()()()


大きな爆発音を耳にして、周辺の住人が目を覚まし

ギリアムの家へと、人々が集まり目にしたものは

そこには家があったのかもわからぬ程の残骸だった。


その残骸は砂のようなものと淡く発光している自爆石だけが残ってた・・・。




 











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