別離7
「躊躇うのは当然だ。生死に関わることだからな。では具体的に、この後俺たちがとる生存戦略について話を進めよう」
この台詞を吐いた瞬間に、ギャラリーの視線が鋭くも期待を含んだものになるのを感じた。
「我々は主に略奪によって物資の補給を行なう」
「そんなことに手を貸す奴はここにはいない!」
五月蠅い勇者を無視して話を進める。少なくとも、この時点で抗議の声を上げる者は西園寺以外にはいなかった。
「この付近には3つの村がある。我々は、これらの村全ての備蓄食料を確保することで我々全員が余裕を持って冬を越すことができると推定している」
「根拠はあるのか?」
疑問を提示したのは杉下玲。戦中は特記すべき役職に就いていたわけではないが、最高レベルとまではいかないまでもなかなか便利な加護を持っている男だ。
「おい!」と声を上げる西園寺を無視して、俺は杉下の問いに答える。
「勿論ある。この国と決別する直前のことだが、俺はこの地域一帯の最新の税収を調査した。結果、さっき触れた3つの村を含む近隣一帯からの税収は0であったことが判った」
「税収0? それって食料が無いってことなんじゃないのか?」
この国では、農民は税を貨幣ではなく食料などの生産物で直に支払っているケースが多い。であるから、「税収0」は「収穫高0」を意味していると考えるのは無理からぬことである。
「話は最後まで聞け。この地域は確かに税収0だった。しかし、それは収穫高が0だったからではなく徴税に赴いた職員が行方不明になったためだ」
「ははあ! 納めるはずだった税分の物資が丸ごと残っているというわけか!」
「Exactly」
この場にいる大多数がにわかにどよめき立つ。それを聞いて焦ったのは我らが勇者西園寺だ。
「ま、待て! 俺がいる限り略奪なんて許さない! 絶対にだ! そんなことをして生き延びたって、きっと後悔することになるぞ!」
「ということで、西園寺についていく限り近隣の村にある食料にはありつけないわけだ。俺達はこれから自分達の生存を最重要目標として行動する。時には手を血で汚すこともあるだろう。だが、俺達は絶対に生き残る! さあ諸君、ファイナルアンサーの時間だ。どちらにつくか選びたまえ」
「させないっ! 絶対にだ! 高木と一緒に村を襲おうったって、勇者の力で全力で阻止してやるぞお前等ァ!」
対峙する俺と西園寺を隔てて、我らが勇者部隊は二分された。