別離5
「加藤、俺の言う数字が間違っていないか確認してくれ」
「了解」
俺は加藤正臣に声をかけた。彼は重要度の高い加護の所持者では無かったが、戦中の勇者部隊に於いて重要度の高い役職を全うした。物資や戦果、損害などの数値化と裏付けを行なう役割。俺たちは彼のことを書記長と呼んでいた。
「魔王討伐戦に於ける戦死者数は58名。内4名が戦闘で死亡、24名は病死、1名がその他で残る29名は餓死。これに間違いはないか?」
「合ってるよ」
加藤はひらひらと顔の横で手を振って答えた。
「次、天之川。先程の死者の内、病死に当たる23名が病気に罹った最も大きな要因は何だと考えられる?」
「え、えーと、衛生状況が悪かったりとか、傷を消毒できずに破傷風になったりとかもあったけど、根本的なのは栄養失調じゃないかな? 皆飢餓状態だったから、判断力や免疫力が弱まっていて怪我したり、病気になったりしていた印象が強いかな」
天之川織姫。彼女は希少な加護である「巫女」の持ち主だ。回復や防御に関する魔法の適応力が高く、魔力量も豊富。戦中は衛生兵長のような役割を担っていた。
「つまり、つまりだ。ここまで強調してきたように、我々の中から多数の死者を出したのは物資、特に食料の不足が原因だ。その一端はこの国、デミス王国が満足な補給を行なわなかったことにあるが、もう一端は西園寺が略奪を禁じたことにある。勿論略奪は褒められた行為ではないが、あの状況下では、見知らぬ他人を犠牲にして仲間を生き長らえさせるか、あるいはただ何もせず飢えるかという選択を迫られていた。国に国民を護る義務があるように、集団を率いる者にはメンバーを護る義務がある。西園寺はこの勇者部隊の最高意志決定者だが、俺はこいつにその資格は無いと判断している。部隊員の生存に最善を尽くすことをしなかったからだ。そこで――」
俺は言葉を切り、両手を広げてぐるりと、前後左右にいる全ての人間を見回した。
「俺は勇者部隊から離隊する。そして仲間を求めている。この世界で共に生き抜く仲間をだ。一緒に来る奴はついてこい」