別離3
「で、でも補給線をわざと薄くしたってのは暴論だろう! 俺達が魔王のところまで辿り着かなければこの国だって困ったんだ! そんなことをする意味が無い!」
「お前はひとつ勘違いをしている」
ぴっ、と指先を立てて、思い切り勿体ぶってそれを勇者の鼻先に突きつけてやった。
「国は『俺達が魔王の元へ到達しなければ困る』のではない。『勇者が魔王の元へ到達しなければ困る』のだ」
「同じだろう!」
「いーや、全然違うね」
本当に苛つく男だなこいつは。自分を特別視しないというのは、元の世界では美徳ととれないこともなかったが、今は己を客観視できないただの愚か者でしかない。
「当時、俺達が約120名だった頃から、俺達に送られてくる物資はどれだけ多く見積もっても60名分程度しかなかった。ではここで常識的に考えてみようか。『あるところに120人の人間がいました。食料は60人分しかありません。さて、一人当たりの食料はいくつでしょう?』」
「それは……0.5人分じゃないのか?」
「だからお前は馬鹿なんだすっとこどっこい。お前の飯が一度でも半人前になったことがあったか? 無いだろ? そりゃそうだ、だってお前は勇者だからな。お前が戦えないとどの道俺達は生き残れない。だから食料があったら、優先的にお前に回すしか無い」
送られてくる食料が頭数の半分というのが陰湿だった。たとえば1人分しか食料が無ければそれを持って逃げ出す方がいいと考える者もいただろうが、60人分というどうにか分けられそうな量があったことで、飢餓感に耐えて安全な勇者の側にいた方がよいという考えになっていた者も少なくないだろう。
「ちなみに、だが。俺はおよそ60人の仲間が死んだ責任もお前にあると思っているからな」
「なっ……!」
勇者は、今度こそ完全に絶句した。