別離2
「言いなりになるかどこかへ行けって言うのか!? 俺が何をしたって言うんだ!?」
西園寺がヒステリックな叫び声を上げると、その後ろから取り巻き達が白い目を向けてきた。勇者に準ずる稀少かつ強力な加護所有者の殆どと、彼らに服従することで魔王軍との戦争を生き延びたと信じている者達である。
彼らの絶対零度の視線を涼しげに受け流し、俺は淡々と西園寺を糾弾する。
「何をした? 何をしただって? お前がそういう人間だから、俺はお前とこれ以上行動したくないと
いう結論に至ったんだよ」
「だからどういうことだよ!」
「でははっきり言おう。俺達がこうして追われる身となってしまったのは、7割方お前のせいだ、西園寺」
酸欠の金魚のように口をパクパクさせている西園寺の後ろに向かって、「残り3割はその愉快な下僕達のせいな」と付け加える。先程まで絶対零度だった視線が、今度は爆発寸前にまで加熱された気がした。おお、こわいこわい。
「とりあえず黙って聞く姿勢は評価してやろう、勇者殿。君の最大の罪は人を疑わないことだ。ここに召喚させられてすぐのことだが、俺や一部の面々は『この国は我々を使い潰すつもりでいる』という結論に至っていた。根拠は聡明な諸君に対して今更述べるまでもないとは思うが、こちらの要求を当初向こうがすんなり受諾したことや、勇者部隊への補給線構築の杜撰さ等が挙げられる。こちらの要求を安易に呑んだのは最初からそれを反故にするつもりだったから、補給線構築を疎かにしたのは俺達の数を減らしたかったからだ」
「ま、待てよ! 要求を呑んだのが怪しいって、何でそうなるんだっ!」
「敢えて向こうが絶対に呑めないとわかっている条件を提示したからだ。お前の後ろにいる奴等の中にも気づいてた奴いたぞ。あれで違和感持たないのは馬鹿だろ」
忘れもしない、あれは俺達が召喚されてから数日後、この世界についてある程度の知識を得たところで、教師を代表として国側と交渉を行なった。そこである教師が提示した条件のひとつが「全て片付いたら玉座を我々に明け渡し、1年以内にガリア連合国とミドシア帝国へ出兵する」というものだった。最初は俺も教師の気が狂ったのかと思ったが、それに対する宰相の反応を見て狙いがわかった。つまり、この教師は国が我々とまともに交渉する気があるのかどうかを見極めようとしているのだと。
その際、国側は少し迷う素振りこそ見せたものの、その場でその要求を呑んだ。しかも王では無く、王のすぐ横にいた宰相が。あれはどこからどう見ても黒でしかなかった。