平和的交渉8
場所を変えようという俺の提案を受け入れたジャンと数人の男達に案内され、俺達は集会所らしき建物へやってきた。集会所といっても普段は物置代わりに使われているようで、農具や用途不明の大きな物体が隅の方に置かれていた。
全員が入るには流石に手狭だったため、俺は加藤と古島には中へ同行するように、それ以外の者は外で待機するように指示を出した。が、何故か杉下も何食わぬ顔で同行しようとしてきたので、こいつは再度簀巻きにしておくように命じた。
「さて、これでよろしいですかな?」
外から聞こえてくる「ぬおおおおおおお!」という杉下の叫びに若干顔を引きつらせながら、後ろに村の有力者と思われる男達を控えさせたジャンが俺達に問うた。
「ええ、ええ、重畳です。ところで単刀直入にお訊ねしますが、どこまでの方が関わっておいでですか?」
「なんのことでしょう?」
「私の予想では、少なくとも村の幹部が全員。多ければ村の全員があの決定に関わっていると踏んでいるのですがね。もし村の全員が関与しているとなると……大変心苦しいが、女子供まで全員が晒し首ということもありえますな」
ジャンは表情筋ひとつ動かさない。動揺を顔に出さない器用さは評価するが、もう遅い。状況証拠と最初の反応で、俺はこの問題について絶対に近い確信を得ている。それに、後ろの奴等の肝はお前ほど太くはないようだぞ、ジャン。
「他国との内通はこの国の法律では国家反逆罪で極刑でしたか。敵国との内通ともなれば、兵士達が地の果てまでも追ってくるでしょうな」
「馬鹿なことを言うんじゃない! 一体どんな証拠があるというんだ!」
ジャンの後ろにいた男達の中のひとりがこめかみに青筋を立ててそう怒鳴った。ジャンが素早く視線を向けるが、その男は気づいていないようだ。
「証拠、証拠ですか。では、2、3、質問に答えて頂きましょう。まずは、そう、あなた方はもう今年分の税を納められましたか?」
それを聞いた途端、男は急に口を噤み、ジャンの方へと目を向けた。ジャンはあくまで表情筋を動かさないように努めながら、一言一言言葉を選んでいることが覗える慎重さで答えた。
「いいえ、まだです。徴税吏が今年はまだいらしておりませんので」