平和的交渉4
「隊を3つに分けてそれぞれの村へ派遣する」
「俺も同じ考えだ」
加藤の回答に杉下が同意した。
なるほど、悪くない答えだ。戦力を分断することは兵法上は悪手だが、この場合、少なくとも相手方のリーダーにこちらと殺し合いの戦闘をする気は無い。であれば、ひとつの部隊に俺達が無視できない程度の戦力があればよい。更に言えば、この戦術は西園寺の完璧主義的な性格と噛み合っている。奴ならどこかの村の防衛を最初から諦めることはしないだろう。
「お前ら思ったより頭いいじゃないか! 60点くれてやる!」
「その微妙な点数と前半の評価は俺達を貶める巧妙な三段論法になっていやしないか?」
「は、は、は」
「おうコラこの山賊未遂! なんだったら今すぐお前の首ちょん切って西園寺に届けてやろうかコルァ!」
「おっと、斉藤も答えを出したんだったな? 聞かせてくれ」
冗談の通じない杉下を無視して斉藤に回答を促す。斉藤は「聞いてんのかァ!」という杉下の喚きを遮るのを躊躇いながらも、小さな声で答えを絞り出した。
「僕は……西園寺君は1人で僕達が向かっている村に来ると思う」
「ほう? その心は?」
予想外の答えに目を丸くする。ここに辿り着く者がいるとは思わなかった。偶然か、はたまた――。
もはや杉下の事など眼中に無かった。斉藤が紡ぐ言葉だけに集中していた。
「西園寺君にとって、他の皆は例外なく足手纏いになるんだ。レアスキル持ちの皆だって例外じゃ無い。例えどこかで匹敵できたとしても、それ以外では足を引っ張ることになる。僕達は戦争の時も何の役にも立てなくて、必死についていくことしかできなかったけど、それでさえ西園寺君の足を引っ張っていたんだ」
「具体的には、どのように?」
「僕達がいたことで、西園寺君の移動が遅くなってしまった」
斉藤は悔しそうに俯いた。