平和的交渉2
「くそっ! 逃げられたっ!」
俺――西園寺玲央は閃光を直視してしまった目を押さえて視界が回復するのを待った。数秒後には周囲が問題無く見渡せるようになったが、俺以外のメンバーはまだ回復していない者が大半だった。
「誰か! 地図を持ってきてくれ!」
「地図は全部高木君が持って行っちゃったみたい。物資も魔道具を中心にごっそり持って行かれてるわよー」
運搬の大半を引き受けている貴女島文乃が手際よく物資を確認してそう言った。
彼女の加護は魔術師であり、それ自体は魔法の扱いが他人より上手いという便利ながらも珍しくないものだが、空間歪曲系の魔法に適性を示したため、デミス王国では便宜上「空間術士」と呼ばれていた。それはデミス王国の人間が独自に定義した加護のひとつで、魔法使いの上位に当たるものらしい。応用範囲の広い便利なレアスキルだ。空間魔法には空間転移系のものも存在するらしいが、残念ながら貴女島は習得できていない。無い物ねだりとわかっていても、今ばかりはそれが悔やまれる。
「昨日物資の整理とかってバッグの中身をごそごそやってたのよねー、そういえば。何か変だなーとは思ったけど、高木君が変なのはいつものことだし、またなんか企んでるんだろうくらいに思って流しちゃってたのよねー。ま、案の定企んでいたわけだけど」
「わかってたなら言ってくれ……。誰か、高木達が言っていた村の場所を知っている奴はいないか?」
向かって左端から順番に皆の顔を覗き込むが、俺と目が合いそうになると決まって目を逸らす。半ばが過ぎたところで既に諦めかけていたが、次の瞬間、ある女と視線が噛み合った。
「あ、あのっ! 私なら地図が作れる! 紙をペンをくれないか?」
そう言ったのは伊藤唯。後方でどこかの部隊の補助をしていた女で、特記事項は無かったはず。加護は……なんだったか。
「私の加護は画家なんだ。絵が上手くなるだけでなく、観察力や視覚記憶力にもたぶん補正がかかってる。この辺の地図は見たことがあるんだ。私ならそっくり同じものを描ける」
俺達もまだ運に見放されてはいないようだ。早速伊藤に紙とペンを与えると、ものの10分程度で簡略化された地図ができあがった。一番遠い村でも、俺の足なら1時間半程度で辿り着くはずだ。
好きにはさせんぞ、高木!
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