2ー2★トラップ
『向こうの木に術式が埋め込まれているぞ』
俺たちの側まで来たアンバーが三人が待機している林の手前の木を指差して教えてくれた。
よく見ると木の表面がナイフか何かで抉られ、その表面には赤い文字のようなものが記入されているように見える。
『なんの術式かは分かりますか?』
エルメダが不思議そうに訪ねた。
『モンスター避けは分かったんだが、どうも一部おかしいんだ』
『一部がおかしいですか?』
『この術式はあそこのお嬢さん(トーレを指差す)から聞いた地点の手前にある。恐らくは湖の近くに住みかを持つ老婆がモンスターなどの侵入を防ぐために仕込んだ可能性がある』
アンバーは魔法に疎いであろう俺や調査員たちに向けて分かりやすく説明してくれている。
『確かに、と言うか…地図で見た上でもその可能性は高いと思いますよ』
調査員の三人も頷きあっていた。
確かに俺もアンバーのその考えに同意だ。
『俺もそう思います。でもそれで何で一部おかしいんですか?』
『普通、その場合は認識阻害も埋め込むはずなんだ。もし埋め込まれているとすると遠くから見て判別するのは不可能なんだよ』
俺はアンバーに言われてなるほどと納得した。
確かにモンスターを含んだ第三者からの侵入を防ぐ場合は、認識阻害も埋め込んだ方がうまく隠れやすいと思う。
『他に狙いがあるってことですか?』
『その可能性もあるが、いまいち術式の後ろの方が理解できなくてな。そこで、この前の自己紹介の時、こちらのお嬢ちゃんが魔法使いっていただろ?』
アンバーの言葉が終わると同時に、みんなの視線はエルメダに集まった。
『えっっ!!私?うんっ…』
彼女は、みんなから一斉に注目を浴びて緊張気味に返事をする。
そして後方で移動していたルーが、立ち止まって話をしていた俺たちに追い付いた。
『アンバーさん、アタルさん、どうしたんですか?』
フェンが話し合いをしている俺たちの様子を伺うように話しかけてきた。
ここでフェンとトーレも交えて、もう一度話すのでも良かったのだが、どうせなら前方の三人の意見も聞きたい。
なので俺とアンバーは、とりあえず全員で情報を共有する方がいいと言う判断になり、一旦前方のドワーフ三人も交えて全員で話すことにした。
『そうですね、確かに一度調べるのがいいと思いますけど…』
フェンがみんなの意見を聞いた後で考えながら言っているのだが、言葉同様で表情も何かパッとしたものではなかった。
『フェン!どうした?』
『いやー、ティバーさん達が見つけた術式って、その一ヶ所だけですか?』
『お坊っちゃん、どういうことでしょうか?』
『その術式って、かなり強力なものなんですか?』
『形式は一般のものだったと思います』
『それなら他にもあるはずですよね?』
『多分あるとは思います。まだ見つけられていませんが…』
『僕なら、トラップ付きの術式とトラップ無しの術式を二つ用意してトラップ付きの術式に認識阻害を埋め込んでおきますけど…誰か調べる方法ってありますか?』
フェンの言葉の後、周囲から音が消えた…
認識阻害を埋め込んでいる場合は、自分達が怪しいものはないかと思いながら探していても気づけなくなってしまう。
木を一本一本触りながら、術式を確かめると言う方法をとれば分かるのだが…
そんな方法をとっているとトラップに引っ掛かるのは、誰が見ても明らかだろう。
対して仕掛けた本人は予め何かに記録しておくことで、どこにトラップを仕掛けたのかを知ることができる。
なので相手を確保するのであれば、フェンの考えが効率的なように思えた。
一名を抜いて誰もが彼の考えに同意するように下を向いて言葉なくうつむいている。
『それは、老婆さんがここにいないかもってこと?』
下を向かなかった一人、エルメダがフェンの考え方に疑問があるようだ。
『ん~、いるかいないかは分からないですけど…』
『もし、この辺にいるなら多分、トラップに認識阻害は埋め込まないと思う』
『どうしてですか?』
『トラップに異常がある場合、気づけないかもしれないから』
『ん~、確かにそうかもしれないですけど…ってことは、ベオルさんには老婆がいない場合には、認識阻害を調べる方法があるってことですか?』
『えっ…それは…あそこの林の木を一本一本調べるってこと??』
エルメダの顔がひきつっていた。
多分、エルメダの方法とは木一本一本に対して魔法を使ってみると言う方法だと思う。
地図で見た感じだと林は結構な広さに見える。
もしかすると自身の心の中では御免被りたいような労力と考えているのかもしれない。
『幸い、調査は始まったばかりですから魔力回復薬は僕のアイテムボックスの方にたくさんあるので、気にしないでください』
エルメダに対するフェンの笑顔が眩しい。
俺を含めた、その他全員の考えもフェンに全くもって賛成のはずだ。
もしもフェンの考えの言うように…
いや、エルメダの方もトラップがないと言う考えではないはず。
もしもトラップがあるとして、それを仲間の誰かが避ける方法を持っている。
ということであれば是が非でも頑張ってほしいのはエルメダ以外全員の思いだ。
この後、明らかに嫌そうな態度を表に出すエルメダに俺たちはご機嫌とりのように必死にお願いし続けた。




