やらかし王子の後始末。 勇者に選ばれた息子がとんでもないことを仕出かしおった…。
お久しぶりです、また誤字脱字が多い作品だろうと思いますが、最後まで読んでいもらえれば嬉しいです。
「何だと!? それは本当なのか、何かの間違いではないのか!?」
豪奢な椅子に座る五十代ほどの男は、部下から報された信じられない情報に思わず大声を上げて怒鳴り返した。
「既に何度も確認しておりますので間違いではないと思われます!」
ハッキリと言い切る部下の姿に、嘘や間違いではないことを確信し男は怒りで顔を真っ赤に染めた。
男はダグステ・ベイム・フラグラム、大陸で最大の国土と軍事力を誇っている大国、フラグラム王国の現国王だった。その彼が怒りを顕にしているのには理由がある。
今大陸では封じられていた魔王が四百年ぶりに復活し、配下である魔王軍を率いて大陸全土を支配しようと動き出していた。そんな魔王に対抗するために大陸中の国々は一丸となって連合軍を結成し、魔王軍と熾烈な戦いを繰り広げている最中なのだ。
ダグステはその連合軍の盟主の地位にいた。それというのも連合軍は人々が篤く信仰している女神によって選ばれた勇者と、同じく女神によって選ばれた四人の女性達によって結成された勇者パーティーの元に、各国が派兵し出来た軍なのだ、そして今回勇者に選ばれたのはダグステの息子でフラグラム王国第三王子であるオロー・カウ・フラグラムだった。
息子が勇者となったことや、連合軍に最大の兵数を派兵していることもあり、ダグステは連合軍の盟主の座に就くことができたのだ。盟主になってからタグステは息子のオローが勇者に相応しい活躍をすることに強く期待を寄せると、オローもその期待に見事に応えてみせた。
勇者パーティーの仲間や連合軍の兵士達を率いては魔王軍を次々と撃退し、侵略されていた地を解放し奴隷にされていた人々を救い出すなど、目覚ましい活躍をしてみせたのだ。
更に同じ勇者パーティーの四人とは恋仲になっており、この戦いが終わったら四人と結婚することを前提に付き合っているという、嬉しい知らせまでもがオローと四人から届いていたのだ。
息子が勇者であり、その妻達が女神によって選ばれし四人ならば戦争終結後その発言力は各国が無視できなものになる、それを利用すれば大陸の覇権国家になることも夢ではない。
そんな取らぬ狸の皮算用をしてはこれから来るだろう明るい未来に思いを馳せていたのだが、そんなダグステの元に思いもよらなかった報せが連合軍から届くことになる。
今まで順調に進軍していた連合軍が、魔王が住む孤島へと進むための橋頭堡を築くため、魔王軍が支配している港町の奪還を図り魔王軍と激しく戦った末に敗北、その際オローは重症を負い連合軍も甚大な被害を出し大きく戦線を後退させることになったというものだった。
その凶報に騒然となったダグステだったが、その報せの中に一つ不審な点があることに気づいた、それは敗北したという結果だけ書かれていたが、どのように戦ったのかが全く書かれていなかったのだ。
直ぐに何があったのかを派兵していた自国の将軍達に問い詰めると信じられないような返答があった。その戦いがあった時、連合軍の中核になっている勇者パーティーのメンバーがオローを除いて、全員が勝手に軍を離れ戦いに参加していなかったのだという。
「オローや多くの将兵が命を懸けて人類の為に戦っていたというのに、その馬鹿どもは一体何をしていのだ!」
「そ、それが分からないのです!」
「っ! 今直ぐに四人と其々の出身国の王に使いを出せっ! 身勝手な行動でこの重大事を引き起こした責任を取らせねばならん!」
「はっはいっ!」
ダグステの怒りの深さを感じ取った兵士は返事をすると転げるようにして駆け出していった。
―― それから一ヶ月後 ――
フラグラム王国の王城には、連合軍の盟主にしてフラグラム王国国王であるダグステに、勇者パーティのメンバーである聖騎士クリス・セムライト、聖女ライラ・ルルト、賢者メディナ・フォウス、聖躬ルミナの四人と、その出身国の王達に各国の連合軍の代表者達、そして女神を信仰している教会の教皇が集まっていた。
円状に並べられた席の一番高い位置に置かれた席にダグステが座り、その横には宰相バカルと大将軍グンシャルというフラグラム王国の重鎮が控え、それより若干低い位置に設けられた席に四人の出身国の王達と教皇が座りっており、さらに下の席に責任者達が座っていた。
そしてこの敗戦の原因とされている四人は中央の一番引くい位置におり、椅子も用意されず立たされたままだった。
「どやら全員が集まったようだな、ではこより査問会を始めよう。さて、まずは問わせてもらうが汝ら四人の身勝手で無責任な行動のせいで、我が息子である勇者オローと連合軍の兵に多大な被害が出てしまったことについて、どのようにして責任を取るつもりでいるのかを答えてもらおうか?」
鋭い視線を四人の向けるダグステだが、当の本人達は全く気にしていないようで寧ろ不服そうに顔を歪めながら口を開いた。
「失礼ですが、私には陛下が何をおっしゃっているのか全く分かりません、貴女達はどう?」
「いや、残念だが私もメディナと一緒で全く意味が分からないな」
「そうですね、せめてもっと具体的に言ってもらわなければこちらも答えようがありませんから困りますね」
「本当にそうだな」
そこには自分達がした事を悪いなどと思っている様子は微塵もなく、逆にダグステに批難するような視線を向ける四人がいた。
「ふっ巫山戯るな! お前達が勝手に連合軍から離れていたせいで、我が息子オローは未だに治らぬ怪我を負ったのだぞ!」
「陛下の仰る通りだ! それに多くの兵士達も命を散らすことになったのだぞ! 貴様等は彼等や遺族に申し訳ないと思わないのか!」
「そうだぞこの恥知らず共が! それでも女神様によって選ばれし者達なのか!」
四人の態度に怒りを抑えることができずに他国の者の目があるのも構わず怒声を上げ、四人やその祖国を罵倒し始めるがダグステ達だったが、その様子を他国の者達がどのような目で見ているのか、そして連合軍に出向いていた自国の将軍達が青褪めながら冷や汗を滝のように流しガタガタと震えていることに気づいてはいなかった。
「お話の途中で申し訳ありませんダグステ陛下。発言したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
罵倒を続けるダグステ達に、一人の兵士が手を挙げ発言の許可を求めた。まだまだ言い足りないことがあったのに途中で遮られたことで、しかめっ面になりながらダグステは手を挙げた者を見た。
「……ああ構わんが、そなたは誰だ?」
「ハッ!私は聖騎士クリス殿の祖国の者であり、連合軍に従事した者の一人です」
「そうか……それで何だ? この痴れ者達に代わってそなたが言い訳でも聞かせくれるのか?」
聖騎士の祖国の者と聞くと不快そうに眉を寄せ、嘲りながらも許可を出すと兵士は礼をしてから口を開いた。
「では許可を頂きましたので発言させていだきます、先程からフラグラム王国の方々が仰っていることには、いくつか間違いがありますので訂正をお願いします。
まず、先程からクリス殿達が勝手に連合軍から離れたかのように話されておりますが、一時的に連合軍から離れることは軍議で話し合いをし、許可されていたことです」
「なっ!? それはどういことだっ、そんな話は聞いていないぞ、それこそなにかの間違いではないのか?」
全く予想外な発言に慌てふためくダグステ達を嘲笑いながら、発言した兵士が共に連合軍で戦ってきた他国の者達に顔を向けると全員が同意を示すように頷いた。
(な、何だと!? 報告では奴等が一言もなく勝手に離れたのではなかったのか!? それとも此奴等全員で嘘をついているのか!?)
(申し訳ありません陛下、私もこの度の一件は四人の勝手な行動によるものとしか聞いておりません、グンシャル将軍は何か聞いていないのか?)
(いや、儂も宰相殿と同じだが……あの様子を見れば、どちらが嘘を言ってるのかは考えずとも分かるかと……)
混乱しながら隣に控えている宰相と大将軍に小声で尋ねるが、普段なら頼りになる二人だが今回ばかりは歯切れが悪かった。
もう一度、出席者の顔をよく見てみれば、彼等が怒りと侮蔑を宿した目を向けている相手は四人ではなく、自分達であることにダグステも気づいた。
どういうことかと、戦地に赴いていた自国の将軍達に視線を向ければ、彼等の顔色は青を通り越し白に変わっており、恐怖のためかガチガチと歯を鳴らし、ダグステの視線から逃れるように俯いてしまった。これで大将軍が言ったようにどちらが正しいのかは一目瞭然だ。
「ど、どうやら少しばかり情報に行き違いがあったようだな。だが連合軍が魔王軍に破れ壊滅的な被害を出してしまったのは、この重要な時期に私事で軍を離れた彼女達に問題があるのではないかということであってだな……その魔王討伐よりも個人の事情を優先させることはどう考えても問題があるのではないか?」
自分でも苦しい言い訳だと分かっているが、盟主であり一国の国王としての立場があるため、素直に非を認めるわけにいかないダグステは何とか話を変えようとするが、今度は賢者メディナの祖国の者が発言の許可を求めた。
なにか嫌なものを感じたが無視するわけにもいかず、仕方なく許可を与えるとその予感は当たってしまう。
「陛下、誠に遺憾ですが今話されたことにも大きな間違いがあります。確かに連合軍は敗北し撤退いたしました、ですが甚大な被害を被ったのは独断で魔王軍に戦いを挑んだフラグラム王国軍のみであり、連合軍が撤退した理由は別にあります」
「「「はあっ!?」」」
もうダグステ達には何が何やらさっぱり分からず、完全に混乱していた。甚大な被害を受けたのは自国の軍だけであり、それもオローが独断専行をしたためであったなど聞いていなかったからだ。
「先に述べられたように彼女達が一時的に軍を離れることは前もって決まっておりました、ですから彼女達が戻るまでは攻勢には出ず、守勢に努めることが軍議で決定いたしました。これは戦続きで肉体的にも精神的にも疲労が溜まっている兵士達を休ませ、次の攻勢に備えるという理由もあります」
だがこの決定にオローとその取り巻き化していたフラグラム王国軍の将軍達は強い不満を抱いた。それは守勢では攻勢に出ているときに比べ、手柄をあげる機会が少なくな何よりも地味だからという実にくだらない自分勝手な理由からだった。
不満を募らせていたオロー達の元に一つの情報が届く、それは港町を含む周囲一帯を守っている魔王軍の名将が本拠地である魔王城に一時的に戻るというものだった。
これを知ったオローは千載一遇の好機と捉え直ぐに軍議を開かせると、全軍で打って出るべきだと激しく主張したが賛同する者は誰もいなかった、明らかにその情報は罠だと理解っていたからだ。
最初の方針通り四人が戻るまで守勢に徹することにしたのだが、オロー達はこれを不服として他国の者達に何も告げず味方の兵士達にすらもこれがオローの独断であることも、四人が連合軍から離れ今この場にいないことも知らせもせずに戦を仕掛けて呆気なく返り討ちにあい自国の軍に壊滅的なまでの被害を出して敗走したのだ。
「これがフラグラム王国軍が壊滅した理由です。次に何故連合軍が大きく後退してしまったかですが、その理由をお教えする前にグンシャル将軍、貴方に一つ聞きたいことがあります」
「う、うむ何が聞きたいのだ?」
突然の名指しに驚きながらも平静を装いつつ返事をするグンシャルだが、その背中には滝のような冷や汗が流れ落ちていた。
「失礼ながら長期の遠征において、兵糧がどれほど大切なものかをグンシャル将軍をはじめフラグラム王国軍に所属している方達は理解していますか?」
「馬鹿にしないでもらいたいな、それくらいは言われずとも分かっておるわ。兵を指揮する者がその重要性を知らぬなら、それはただの愚者であろう」
「そうでしたか、てっきりフラグラム王国の方はその重要性を理解しておられないのではないかと心配になっていたもので申し訳ない」
鼻を鳴らし答えるグンシャルに対して丁寧に頭を下げ謝罪する男だったが、その目は侮蔑に満ちていた。
「実は連合軍の兵糧は、全てフラグラム王国軍が管理していたのですよ」
「はぁっ!? 馬鹿なことを申すなっそんなはずがあるまい! 兵糧は各々の軍が管理するのが決まりだろう!」
「そっそうだグンシャル将軍の言う通りだぁあっ!?」
その瞬間、心臓の鼓動が止まってしまうのではないかと心配になってしまいそうなほどに、強烈な殺気が連合軍関係者からダグステ達に向けて放たれた。
「……ダグステ陛下やグンシャル将軍が仰ることは普通なら間違いありませんよ、そう普通ならばですがね」
肩を震わせながら続ける男の顔に激しい殺意がハッキリと浮かんでいた。それは見守っている他の者達も同じであり、これ以上何かダグステ達が喋れば、その瞬間に殺し合いの場に変わってしまいそうな剣呑な空気が漂っていた。
「だが陛下の息子であり総大将であるオロー殿下が、『兵糧の管理という重要で責任ある仕事は連合軍の盟主国である我等が行うべきだ』、と仰っしゃりましてね。
連合軍最大の兵数を連れてこられていたことと、女神様に選ばれた勇者だったことを理由に私達がなんと言っても聞き入れてもらえず、仕方ないのでオロー王子の提案を採用するしかなかったのですよ」
所々に棘がある言い方だったが、何一つ反論することなどできなかった。何故ならダグステ自身もそれらを理由にして他国に対して強引に物事を進めたことが何度もあるからだ。
「フラグラム王国軍が勝手に馬鹿なことをして自滅……いえ、勇敢にも戦いを挑みながらも情けなくも逃げ帰ってしまったために、今後は其々の軍で兵糧を管理することになったのです。
まず残っている兵糧を再分配しようとし驚きましたよ。なにせ残っている兵糧が記載されていた量よりも遥かに少なかったのですからね」
連合軍が後退した理由は兵士達に大きな被害が生じたからでも、総大将であるオローが深手を負ったからでもなかった、それは単に兵糧がなかったからだ。
補給がなくとも二ヶ月は過ごせるだけの量があるはずの兵糧は、実際には後十日分しか残っていなかった。
これには連合軍の上層部も大慌てになり、逃げ帰ってきたフラグラム王国軍の将軍を捕らえ締め上げると、聴いた誰もが信じられない嘘だと思いたくなるような証言が次々と出てきた。
責任を持って兵糧を管理すると各国の責任者達の前で宣言したオローだったが、地味で目立った功績にならないと知ると投げ遣りになり、きちんと計算もせず適当に配分したり、取巻き達と一緒に宴会を開いて勝手に食べていたりしたのだ。
更に質が悪いことに、解放した村や町の住民に対し、食料を多く渡す代わりとして女を求めたりしていた事も判明した。
ただでさえオローの自爆でフラグラム王国軍が壊滅してしまい、士気が下がり浮き足立っているところに兵糧も足りないのでは戦いを続けることなど出来るはずもなく、やむなく戦線を下げることを決めたが連合軍の人数は多く、必要になる兵糧は膨大なため直ぐに補充出来るはずもなく、せっかく解放した地を見捨てて大きく後退するしかなかったのだ。
「これが今回の顛末です、さてフラグラム王国の皆様はこの件をどう思っておりますか? これまで多くの兵士達が血を流し、命を落としながら切り開いたものがたった一国の馬鹿な行動のせいで全て無駄になってしまったわけですが、この事についてどのように責任を取るつもりです?」
「……それは……そのだな」
しどろもどろになりながら必死に言い訳を探すが何も思いつかず、バカルとグンシャルに助けを求めるが二人共青い顔で視線を逸らすだけだった。
「どうやら何もお答えてしてくれないようですね、遺憾ですが一先ずこの件は後回しにさせてもらいましょう」
「そうですな、あと二つ問わなければならないことがあるのですからね。あ、申し遅れましたが私は聖女ライラ・ルルト様の国から派遣されたものです」
鋭く睨んでくる男にダグステ達は、まだなにかあるのかもう勘弁してくれ……、そう願うのだが寧ろここからが本番だと言わんばかりに先程よりも剣呑な空気が重く部屋の中に立ち込めた。
「うむ……そ、それで聞きたいこととは何だね……?」
「陛下も吟遊詩人達によって唄われているオロー王子の英雄譚はご存知だと思いますが、どうにもおかしな事が多くあるのです、そうですよね? クリス様、メディナ様」
呼ばれて頷いたのは聖騎士クリスと賢者メディナだ、二人は待ってましたとばかりに笑みを浮かべダグステ達に顔を向けると一歩前に出る。
「「「ひぃいっ!?」」」
ダグステ達は情けない悲鳴を漏らし恐怖のあまり後退った。
何故なら二人が浮かべている笑みは、普段浮かべるている優しげな笑みなどではなく、見る者の心肝を寒からしめるような壮絶な怒りを孕んだ凄味のある笑みであり、その体から放たれているのは禍々しいまでの殺意だ。
「ねぇ陛下、貴方もヘグラ城での捕虜奪還作戦はお聞きになっていると思いますがどうでしょうか?」
「むっ無論知っておる、息子であるオローが発案し成功させっ!?」
成功させたものだ、そう言いたかったのだがクリスが剣に手を掛けているのとメディナが今にも魔法を放ちそうになっているのを見て言葉が出てこなかった。
ヘグラ城の捕虜奪還作戦。
それは魔王の側近である四天王の一人が支配していたヘグラ城から、囚われていた各国の要人達を救い出したものであり、唄われている英雄譚のなかでも特に人気があるものだ。
多くの魔族と罠に守られたヘグラ城から捕虜を救出することは、どんな優秀な智者が頭を悩ませて考えても浮かばずに、不可能だとされていたことだ。
だがオローは大胆かつ奇抜な作戦を考え出し、同時にその作戦において最も危険な囮役を自ら買って出ると見事に奪還作戦を成功させ、更にはヘグラ城を支配していた四天王を一騎打ちで打ち倒した、というのがそのないようだった。
「あの愚者が……ではなく、勇者様が考え出した作戦ですか。それはそれは素晴らしいことですわね、貴女もそうは思わないかしらクリス?」
「そうだな、しかも自分で囮役を買って出た上に、四天王までも一騎打ちで倒したなんて本当に凄いよ」
「「アハ、アハハハーーー」」
狂ったように笑い声を響かせる二人だが、ちっとも面白く思ってなどいないのは誰も目から見ても明らかだ。
「でもねぇクリス、少しだけおかしなことがあるのよね」
「へぇそうなのかいメディナ、それはいったいなんなんだい?」
「あの奪還作戦は私が三日も寝ずに考えて考え抜いてようやく発案したものだったはずなのよ。なのにどうしてか分からないけど私の名前は、ほんの少しも出てこないのよね」
肩を竦めて溜息をつきながらそう愚痴るように呟いたそれは、大きな声ではなかったが聞いていたダグステ達には雷が落ちたかのような大きな衝撃を与えた。
そんなはずがない、あれは息子の功績だ! そう口を開きかけるが、これまでオローが行っていた愚かな行為を知った後では、あの馬鹿ならやりかねないと思えて声にすることができない。
「確かにそうだね、オローの奴は最後まで”あんな作戦が成功するわけがないだろう”とか”俺達は忙しいんだから捕虜になんかなった、間抜けな奴等なんか無視して先に行くべきだ”とかみっともなく喚き散らして反対していたはずなのに、いつの間に発案者になっていたから不思議で仕方がなかったんだよね」
言葉が響く度に室内の気温が下がっていくかのような錯覚に襲われるが、体から冷や汗が流れ出るのが止まらず全身をぐっしょりと濡らしてしまっていたが、二人の話はまだ終わらない。
「本当におかしなこともあるものよね~」
「全くだね、そう言えば私もずっと気になっていたことがあるんだけど聞いてくれるかい?」
「勿論良いわよそれでクリスは何が気になっているのかしら?」
「ほら奪還作戦ではアイツが囮になって四天王や魔族の精鋭部隊と戦って、最後には打倒したことになってるだろう? でもさアイツは、いや、フラグラム王国軍の連中は作戦開始の時間を過ぎても誰も、大事だからもう一回言うけど、誰一人も姿を見せなかったじゃないか」
「そうだったわね。やって来たの戦闘も救出も全部終わって、魔族達が敗走を始めた頃だったかしら? 逃げる魔族達相手に勝手に突撃命令を出して、自国の兵士達に無駄な被害を出したのをよく覚えているわね。
あと貴方が一騎打ちで倒した相手の最後の言葉を聞いてあげている最中に、怪我のせいで身動きもできなかった相手を卑怯にも背後から剣で刺したこともね……」
「……ああ、そうだともっ! 敵とはいえ死力を尽くして戦った相手だから、せめて最後の言葉を胸に刻んでおきたかったのに、あの馬鹿は殺したんだ! そんな卑怯者で恥知らずのクズが正々堂々と戦ったように語られているのがっ私には納得がいかないんだよっ」
「その気持ちは痛いほど分かるわよ、私も同じ気持ちだもの。ねぇ王様、貴方はこれについてどう思っているのか、正直に聞かせてもらえせんかしら?」
「そっ早急にだな、じ、事実確認を……してから正式に公表とだな謝罪をする……ではどうだろうか……?」
もしも言葉を間違えれば殺される、そう感じ取り慎重に言葉を選び口にしている姿は、大国の王としての威厳などまるで感じられない情けないものだった、だがフラグラム王国の者達は誰も笑うことはなかった、もしかしたら次は自分達が何か言われるかも知れないと誰もが怯えているのだ。
「それは勿論、この国の者達以外からも話を聞いていただけるのでしょうね?」
「あ、ああ、それは約束しよう……今回のことで派遣していた者達は一切信じられなくなったからな……」
「なら私はこの件についてはもう何もいいませんわ。クリス貴女はどうかしら?」
「私もいいよ、だけど出来るだけ早くしてもらいたいね。何せあの馬鹿やフラグラム王国軍の活躍として語られている話が二十近くはあるんだからね」
「……」
もう言葉もなく黙り込み項垂れることしかダグステにはできない、オローの活躍だと捏造されたものが二十近くもあるということは、伝え聞いていた功績は殆どが嘘だったということになる。
ここに来てようやく各国の代表者達から、どうしてここまで冷たい目で見られているのかをダグステは完全に理解した。
これだけの数の捏造をオローだけで行うことはどう考えても無理だ、間違いなく誰か協力者がいるはず、それもかなりの権力と財力を持った者でなければならないだろう。
早い話が各国の代表者達はこれらは国王であるダグステの指示で行われた、国家ぐるみの捏造劇ではないのかと疑っているのだ。
言いたいことを言い終えたからか、それとも只単に選手を交代しただけなのかクリスとメディナは下がり、代りに前に出たのは聖女ライラ・ルルトと聖躬ルミナだ。
二人はクリス達と同じように静かだが激しく怒りを募らせているのが見て取れた、特にライラは聖女でありながら、その背後には東方から伝わったとされる般若の姿が幻視できるほどだ。
「では私達の番ですね。陛下には聞いておかねばならないことがあります、どうか嘘をつこうなどと思わず、正直に真実のみをお答えになってください。そうすれば私達も余計なことをせずに済みますので、そのつもりでいてください」
暗に自分達が嘘だと感じたらどうなるか、分かっているんだろうな? そう言われたように聴こえ顔を引きつりながらも人形のようにガクガクと首を縦に振るダグステに向かって、今日一番の爆弾発言がライラの口から放たれた。
「ではお聞きしますが、何故私達四人が陛下の息子であるオロー殿下と結婚を前提に付き合っていることにされているのか、その説明をお願いしたいのですが?」
「……そなた等はその……オローと恋仲……ではないのか?手紙でそのように知らされておったからな、そうであろう宰相よ?」
「ええ、その通りです陛下。送られてきた手紙には確かにそのように書かれておりました、それに手紙はオロー殿下からだけでなく、皆様からも同じような内容の手紙が届いており、親密な仲になっているとありっうぁっ!?」
証拠の手紙がある、そうキッパリと告げようとしたその瞬間、室内にもかかわらず突風が吹き荒れた。いや、それは突風などではなく四人が放つ、まるで物理的圧力が発生しているかのように感じてしまうほどに高まった殺意だ。
「寝言は寝てから言えよこのクソ爺が! あまり巫山戯たことを言うと体中を穴だらけにするぞ! 誰があんな馬鹿で節操なしと恋仲になんかなるかよ!」
「本当にそうね、冗談にしても笑えないし不愉快にしかならないわね。あんなのと結婚を前提に付き合う? 考えただけでも吐き気がするわ、まだゴブリンと結婚したほうがましよ」
「この戦いが始まる前から将来を約束してくれていた相手が私にはいるのに、あんな馬鹿に靡くわけないだろうが! 人を馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」
「私にも子供の頃から家が決めた婚約者がおりました。その方とは良好なお付き合いをせてもらっておりますし、互いに女神様に愛を誓い合った仲です。はっきりと言いますが私がオロー殿下と恋仲になったなどというのは事実無根の出鱈目です」
「でっですが此方にはちゃんと貴女達から送られた手紙も届いております! これは間違いなく事実です!」
「宰相の言う通りだ。そなた等の祖国からもオローとの関係を認めてくれるようにと手紙が届いておるし、それには正式なものである証拠に各王家の印もしっかりと押され……てい……るの」
そこまで呟いて最悪な予想が頭を過る。だが流石にいくらなんでもそれはない、ないはずだと恐怖のために激しく脈打つ心臓を落ち着かせるように自分に言い聞かせるが、その努力は無駄に終わった。
「そうですか、あくまでも陛下は私達から送られた手紙があり両者の合意を得てのことだと仰るのですね?
ですが私達は陛下宛にそのような手紙を出した記憶などありません。もしも私達をお疑いなら我等が女神様に私の名をかけて誓っても構いません」
それはこの世界において決して破ってはならない神聖な誓いであり、破った者には女神によって罰が下されることになる、それを持ち出してきた以上嘘ではないことは明白だ。
「大変申し訳ないがその件も一度きち」
「陛下、私の話はまだ終わっておりません、もう少しだけ黙ってお聞きください」
「う、うむ……すまなかったな、つ、続けてくれ……」
本音を言えば今直ぐにでもこの場を離れ、自室で療養中のオローを殴り付ける代わりにこの場に立たせて、自分は引き篭もりたいところだが、誰もが逃げ出すことなど許さないと怒りに燃える目が語っていた。
「実は陛下に送られたものと同じような内容の手紙が、私達の実家や婚約者達の元に送られていたらしいのです。私達の元にも家族や婚約者が書いたものでない手紙が届けられておりました。
その内容は他に好きな娘ができたので婚約を破棄したいや、向こうから婚約破棄の打診があったので仕方なく承諾したなどですね。もう分かっておられると思いますが、誰もこのような手紙は出してなどいないそうです。
そしてもう一つ、実際に書いて出したはずの手紙が何故か全く届いていないということも判明しております、では誰が私達が出した手紙や届くはずだった手紙を偽物とすり替えたのでしょう? 個人でこのようなことが出来ると思いますか?」
「…………」
「またこの偽造された手紙によって、私達四人は勿論のこと家族や周囲の者達、何よりも愛しい婚約者達がどれだけ傷つき被害を受けたかきちんと理解しておられますか?」
「………」
次々と投げかけられる質問にダグステは無言だった、それは分からないからではなく逆に分かっているからこそ、答えることができないのだ。
「私が小国でありますが一国の王女であることは皆様もご存知のはずです、そして婚約者だった方は同じく小国の王太子でした。私達の婚約は両国の仲を深め、より良い関係を築くためのものでしたが、それもあの捏造された手紙のせいで全てが台無しになってしまい両国の関係は逆に険悪なものになってしまい、様々な問題が生じております。
本当に驚いたのですよ? 知らないうちにオロー殿下と付き合っていることにされ既に床を共にしているなどという話までもが、まるで事実であるかのように広まっていたのですからね……」
話が進むに連れてライラの瞳から光が消えていき代わりにそこにあったのは、まるで底なしの穴を思わせるほどに暗く重い憎悪であり、その姿は女神に選ばれた聖女というよりも世界全てを呪おうとしている魔女のようだ。
「魔王を倒したら直ぐにでも結婚式を挙げる予定でしたのに……愛しいあの方には婚約を破棄され、家族や仲の良かった者達からは訳も分からず責められ続け、ようやく理由を知った時には気が触れてしまいそうになりましたわ……皆さんはどうでしたか?」
壊れた人形のような動きで横を向いて問いかけると、三人もライラと同じ暗い目をしながらダグステを睨んでいた。
「私も同じようなものだね。もっとも私の方はきちんとした婚約じゃなくて、親同士が酒の場で決めた口約束だったけどね。相手は隣に住んでいる幼馴染で姉弟みたいに育った仲だったよ。
本当ならもう結婚していたはずだったのに、私が女神様に選ばれたから仕方なく全部片付いたら結婚しようっていうことにしたんだ。終わったら国から報奨金も支払われるはずだから、それを使って村の皆で盛大に結婚式を挙げようって、そう約束してたのにっ」
口を開いたのは四人のうち唯一人だけ平民の出身であるルミナだ。彼女は今直ぐにでもダグステやオローを殴り付けたい衝動を抑えるために固く手を握っており、あまりにも強く握っていたせいか爪が皮膚を破り血が流れ落ちている。
「なのにあの手紙のせいでアイツはショックを受けて村から出て行って何処に行ったのか、今生きてるのかすらも分からないんだよ! あんなに優しかったおじさんやおばさんからは、もう顔見たくないって怒鳴られたっ! 全部っ全部っお前等のせいでだっ! 私のいやっ私達の人生を何だと思ってやがるんだよ! 返せっ今直ぐにアイツを私に返せっ! 返さないならこんな国滅ぼしてやるからなっ」
血を吐くような叫びが広い室内に響き渡り、その後にはカタカタと何かがぶつかり合うような音だけが聞こえてきた。その音の正体はダグステを始めとするフラグラム王国の者達が恐怖に震える音だった。
それはルミナが国を滅ぼすなどという物騒な発言をしたのにもかかわらず、この場にいる誰もが咎めようとしていない、その理由を正確に理解しているからこそのものだ。
つまりダグステ達の返答次第では、出席している全ての国が一斉にフラグラム王国を滅ぼすために牙を剥くことになると無言で宣言しているのだ。
(最悪だ! もう完全に各国の信頼はなくなってしまった! どうする? どうればいいのだ!? このままでは間違いなく儂の代でこの国が終わってしまうぞ!?)
死人のように青褪めながら、何か国を救う術はないのかと必死に考えるダグステに止めの一撃を放つべく、査問会が始まってからずっと沈黙を守っていた老人がゆっくりと立ち上がった。
「すまぬが儂からもダグステ陛下に訊ねなければならないことがあるので、少しだけ時間をもらってもいいかのう?」
「………何でしょうか教皇様?」
老人は大陸にある全ての国で国教とされている女神教の教皇だった。
「実はですな、陛下の息子であるオロー殿下が勝手に兵を動かし逃げ帰った日の三日前にですな、我等が女神マーラ様からお声を頂きましてな。
オロー殿下から勇者の称号と能力を剥奪したとのことでしたが何故今もオロー殿下は自分が勇者であるように語っているのですかな?」
今初めて聞いたのだからそんなことは知らんよ……、そう言いたかったが今日最大のいや、長い人生の中で、まず間違いなく最大の衝撃を受けてしまったダグステは金魚のように口をパクパクさせるのが精一杯で一言も発することができないでいる。宰相と大将軍も目を大きく見開き顎が外れそうなほどに大きく口を開けて固まってしまっている。
長い歴史の中で勇者に選ばれた者は何人もおり、その中には悪名で後世に語られる者も確かにいたが女神によって勇者に選ばれた者が、女神によってその称号を剥奪されたことなど一度もありはしないのだ。つまりこれはオローが各国だけでなく女神の怒りすらも買ってしまったことに他ならない。
「勇者とは女神マーラ様によって選ばれた者だけが、名乗ることが許された称号です。それをすでに剥奪された元・勇者でしかないオロー殿下がまだ自分を勇者であるかのように声高に叫んでいることは、我等女神マーラ様を信仰している者に対する、冒涜であり宣戦布告ともとれる愚行であることを理解しておりますかな?」
「………」
「今この場で宣言しておきますがな、もしも我等を納得させるだけの理由がなく、女神マーラ様の使徒たる勇者様を騙り、その存在を貶めるような所業をしていたのならばオロー殿下や父親であるダグステ陛下だけでなく、フラグラム王国の国民全員に罰が下されることになりましょう。さあ、お答えくださいダグステ陛下」
言い逃れなど許さないとばかりに教皇は鋭く睨みながら追及するが、問われたダグステはただ沈黙するのみで一向に答えようとしない。そんなダグステに各国の者達が苛立ちを募らせ今にも爆発しそうになるなか教皇はあることに気づいた。
「ふむ? どうやらダグステ陛下は気を失っておるようじゃな」
その言葉にダグステをよく見てみると、目を開き椅子に座ったまま気を失っていた。これから覇権国家の王として大陸に君臨できるかも知れない、そんな甘い夢を見ていたところに自分が知らなかったところでオローが行なっていた、あまりにも常識を疑うような愚行の数々を次々と突きつけられたことによって生じてしまった、多大なストレスにとうとう耐えきれなくなり意識を手放してしまったのだ。
「やれやれ……皆よ、仕方ないので先に今後フラグラム王国をどうするのかを決めたいと思うのじゃがどうじゃろうか? 魔王の脅威もあるゆえに時間を無駄にするわけにいかないからの」
各国の代表者達は異論はないとばかりに頷き、まだ気を失ったままのダグステを一先ず置いておき、どのような罰を与え賠償金などをどうするかを決めていったのだった。
この話し合いの末に、フラグラム王国は自国の王子であるオローがこれまで行ってきた、悪行の全てを国内外に正式に発表し謝罪すると同時に、オローの所業によって被害を受けた全ての者に賠償金を支払うことになったが、その金額はフラグラム王国の国家予算の実に三十年分にもなる莫大なものになった。
これはそれだけ多くの者がオローによって被害を受け、人生を狂わされてしまったということである。当然だがタグステをはじめ宰相や大臣達は何とか賠償金額を減額してもらおうと必死になって頼み込んだ。情けなくも恥も外聞もかなぐり捨てて大勢の前で土下座までしたが、冷たい侮蔑の目を向けられ恥知らずと罵られるだけであり、耳を貸そうとする者は誰一人としていなかった。
諸悪の根源であり様々な悪行を行い、最後には女神の怒りを買ってしまった歴史上最も愚かな元・勇者オロー・カウ・フラグラムは生きたまま水晶の中に閉じ込められるという罰を受けることになった。
この罰の恐ろしいところは、閉じ込められながらも本人の意識があるという点だ、指一本すら動かすことができない状態で周囲の様子を強制的に見聞きさせられるのだ。
その上、オローが入れられている水晶は見せしめとして他国を転々とし、晒し者にされその横にはこれまで行ってきた悪行の数々が記された立て札も設置されているため、オローが見聞きするものは自分を嫌悪し罵倒を浴びせる者達の姿のみだった。
水晶に閉じ込められている間は死ぬこともないので刑期が終わるまでオローは大勢の罵倒に心を苛まれながら一人孤独に震えながら過ごさなければならなかった。そして刑期はフラグラム王国が賠償金を全額払い終えるまで続くことが決まっていた。
―― 百年後 ――
フラグラム王国は返済期日を大幅に遅れはしたが、全額賠償金を払い終えることができた。だが、その頃には国土の多くを返済のために削られ、今では大陸一小さな小国に成り下がっており、女神の怒りを買った愚かな国として他国からは見下され、国民達は罪人の末裔として蔑まれている。
そして賠償金の返済をもってオローの刑期も終わり、水晶から開放されるはずだったのだが、それはフラグラム王国の国民達が許しはしなかった。
国民の誰もがオローさえ馬鹿なことをしなければ自分達はこんな目に遭わなかったはずだと怒り狂い、永遠に水晶に閉じ込めることに決めたのだ。
そのためオローが開放されることは永久に無くなり、閉じ込めた水晶は誰もその姿を見たくないという理由から海の底に捨てられ二度とその姿を見ることはなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
余談だが、後に行われたオローの活躍の捏造と手紙の偽造に関する大調査によって誰がオローに協力しこんな愚かなことを仕出かしたのかが判明した。
協力者はオローの母親とその実家である公爵家と取り巻きの貴族達だった。
ダグステには三人の妻と六人の子供がおり、オローの母親は妃達の中では一番家格の高い女性だったのだが、様々な理由があり妻としては一番下の第三妃だった。そしてダグステとの間に授かった子供であるオローも本人の才能と性格から王位継承権は最下位の六番目でしかなかった。
そのことに歯噛みする思いだった第三妃だがオローのことをよく知っているために強く文句も言えずにいたところに、オローが勇者に選ばれたことにより一気に暴走してしまう。
その結果が実家や、オローが王になった暁には陞爵させることなどを餌にして多くの有力貴族を巻き込んだ一大捏造劇だったのだが、これにはいくつか誤算があった。
その中でも一番大きなものは、オローとオローの行動を見張る為に付けていた側近兼見張り達が想像以上に馬鹿だったことだ。どちらも周囲に期待されたことがなかった者達で、急に注目されるようになったせいで自分達は特別な存在になれたんだと思い違いをしたのだ。
オローは自分のすることは全て正しいのだと信じて疑わず歯止めが効かなくなり、自分の欲望のままに行動するようになってしまい、側近達も上からの命令である見張り役など直ぐに忘れ、オローと一緒に馬鹿騒ぎをするだけの存在に成り果ててしまっていた。
そのことに第三妃達は全く気づいておらず、捏造した活躍や偽造した手紙の内容も、少し大げさにした程度のものだろうとしか認識していなかった。それが大間違いだったと知った時は全員が言葉を無くし泣いて謝ったが、当然のごとく許す者はおらず全員が死刑にされた。
因みに、あの会議が行われた日から二ヶ月後。元・勇者パーティーの四人を筆頭にした第二次連合軍が結成されると今度こそ全員が一丸となって魔王軍と戦い、僅か一ヶ月という短い時間で見事に魔王を討伐することに成功した。
そのこともあり誰もが改めて先の総大将だったオローがどれほど無能で周囲の足を引っ張っていたのかを痛感したのだ。
そしてこの時の費用は当たり前のようにフラグラム王国の賠償金に上乗せされてしまい、ダグステは悲痛な叫びを上げたのだった。