81話 話し合いに向け
俺の悪い癖が出てくる。
扉を開けて現実の世界に戻ると季節と夜になっているせいか温度差に体を震わせる。先に下に降りて山田さんが鍵をかけて降りてくるのを待つ。話し合いによっては、もしかしたらこの物件を買わなくなるかもしれない。そうなるとここまで付き合ってくれた山田さんにも悪い事をしたことになる。
「お待たせしました。行きましょうか」
「あの山田さん、もしこの物件を買わない場合どうなるんですか?」
山田さんは顎に手を当て少し考えた後に答える。
「うーん、困りますかね。でもそれを決めるのはあなたと葉さんですから。もし契約されなければ次の契約者が来るのを待つだけです」
意外とあっさりとした答えに拍子抜けする。山田さんに無理やりにでも契約させられたいのだろうか。
だめだ・・・・・・また自分の意志で決めようとしない。
ずっとやってきたやり方は簡単には変えられない。体ばかり鍛えて精神を鍛えてこなかったツケが回ってきている。
山田さんは心配はしてませんからと背中を叩き俺を前へと進ませる。ほっそりとスマートな体からは想像できない程の力を感じながらふらふらと前に進む。
商店街の出口へ向かう途中で携帯が震える。画面を確認すると奏からだった。
「大、今日の話し合いは私は参加しないから二人で話せよ。あと葉君に手を出したら殺す!!」
それだけ言って一方的に電話を切られた。奏なりに大事な話だと気がついたのだろう。商店街から出ると駅には向かわず準備運動をする。
困ったり悩んだりした時は体を動かすに限る。走れば30分弱の道のりをお店のことを考えながら走る。肺に入ってくる空気を味わいながら考えごとをする。頭に会社を辞めた時の記憶が甦る。
葉君の落ち込んだ姿を想像する・・・・・・
想像しただけで複雑な気持ちになる。
こんな気持ちになるのであれば最初から話を受けなければよかったのではないだろうか。
考えれば考えるほどわけが分からなくなってくる。
そんな考えを振り払うようにどんどんスピードを上げていく。
家に着き汗を拭きながら準備運動をして息を整える。家のリビングから漏れる光に葉君が居ることが分かる。葉君はどんな気持ちで待っているのだろうか。本来であれば年上の俺が葉君を支えてあげなければいけないのに不安にさせてしまっているのかもしれない。右拳を握り力をいれて右の頬を思いっきり殴り付ける。
ふぅ・・・・・・
気合いが入った俺は玄関を開けてリビングへと向かった。
ゆっくりのんびり更新します。




