71話 出勤(葉side)
ただの出勤、だけどいつもと違う出勤。
「大丈夫かい葉君?」
ゴツゴツの大きな手が僕の額に当たる。どうやら考えごとをしてぼーっとしていたみたいで大兄が心配してくれたようだ。大兄は無自覚でこういう事をしてくるから困る。もちろん誰にだって心配をするんだと思うけど。とにかくこのままの体制でいるとまたぼーっとしてしまいそうなので大丈夫と伝えて手を離してもらう。ふらふらと立ち上がり部屋に着替えに向かう。今日は大兄が山田さんと用事があるらしく一緒に商店街に行くことになった。ただそれだけなのに、にやついている僕がいた。
部屋に置いてある立ち鏡を見ながら服を選ぶ。前に大兄に買ってもらった下着は大事にタンスにしまってある。いつか使う日がくるのだろうか・・・・・・
そんな妄想をしながら服に着替える。セーターにマフラーを巻いて黒いタイツの上にだぼっとしたショートパンツを履いて眼鏡をかける。
下に降りて行くと大兄が待っていた。一緒に玄関を出て駅まで向かって歩く。駅に着いて大兄が切符を買うのを待って改札を抜けて電車を待って到着した電車に乗り込む。
何で楽しいんだろう。
いつもと同じことをしているだけなのに大兄が居てくれるだけで幸せな気持ちになれる。大兄と奏さんが居なかったら僕は電車に乗れなくなっていたかもしれない。本当に二人には感謝しています。
大兄のつり革を掴む薬指に嵌めてある指輪を見つめる。あれを嵌める時は異世界に行く時だけだ。大兄はお店を開く為の準備として向こうに住んでいる前のオーナーさんに色々お店のことやお酒のことなどを聞いているらしい。アニメや漫画の世界のような話だけど大兄が嘘をつくわけもないし本当のことなんだろう。危ない場所じゃないといいんだけど。あの指輪をつけている理由は異世界での安全の為らしい。何でも大兄みたいな体型の人がもてるらしく指輪をつけていることでそれを避けられるらしい。山田さんが契約前に危険に晒されても困るということで嵌めるように貰ったらしい。ふふっ、一応相手は僕ってことになってるらしい。
えへへっ・・・・・・しょうがないなぁ大兄は。
でも毎回嵌めていくってことはもしかして異世界で言い寄られている相手が居るってことかなぁ・・・・・・そういえば大兄にその話は聞いていない。今度詳しく聞いてみないと。そう考えている間に電車が目的の駅に着く。改札を抜けて外に出る。
「葉君、しっかりね」
「大兄も気を付けてね。帰って来なかったら怒るから」
そういうと大兄はいつものようにごつごつの大きな手で頭を撫でてくれる。これだけで僕は幸せになれる。手を振っていつもより元気に職場に向かう。
ゆっくりのんびり更新します。




