60話 商店街にてその10
勝てない相手への無謀な挑戦。
注文した珈琲が届きゆっくりと飲む。味にうるさいわけでも詳しいわけでもないがこの店の珈琲はとても美味しい。胃の中に入る珈琲が俺の心を落ち着けてくれるように感じた。よく考えたら朝から葉君と特に鈴君に振り回されっぱなしな気がする。こんなおっさんをからかっても楽しくないと思うのだが。
この後はからかわれないようにしようと思った時に目の前にパンケーキが運ばれてくる。美味しそうではあるが今日は二人が満足してくれたらそれで大丈夫だ。
珈琲を飲みながら二人を見ていると葉君が心配そうにこちらを見つめている。
「大兄、大丈夫? お腹空かない? 」
「少しだけ。後で何か食べるから大丈夫だよ」
そう伝えるとパンケーキとクリームの乗ったスプーンが目の前に2つ現れた。デジャブだろうか。少し前にこんなことがあった気がする。周りの視線が気になるが断れない雰囲気がある。口を開けてパンケーキの乗ったスプーンを口に入れる。口内に甘い香りが広がる。葉君や鈴君が食べている姿なら見ていたいが、おっさんがパンケーキを食べる姿なんて誰がみたいのだろうか。
そうだ、この後にからかわれない為にも鈴君に反撃しておかないと。テーブルにあったフォークを持ち、鈴君の残りのパンケーキを切りクリームをつけて口に近づける。
ふふっ、どうだ
『おっさんのあーん攻撃』
世の中に需要がない攻撃だ。鈴君が嫌がれば許してあげて俺の勝ち・・・・・・
「んっ・・・・・・ちゅ・・・・・・」
鈴君は何の迷いもなくフォークに乗ったパンケーキを口に含みフォークに残ったクリームを舌先を這わせ綺麗に舐めとる。見た目が清楚に見えるだけに逆にそれが・・・・・・
無言で自分の頬を殴りつける。
おいおっさん、レスラー体型のおっさん、今何を考えてた?頭は大丈夫か?自分の心に呼びかける。
「ふふっ、どうしたんっすか大さん? もしかしたらエッチな事でも考えてたんっすか?」
鈴君がクスクス笑いながらこちらを見ている。
だめだ勝てる気がしない。
油断していると葉君が頬をぷくっと膨らましながら上着の袖を掴んでこちらを見てくる
「大兄、僕も」
・・・・・・何・・・・・だと・・・・・・
死ぬまでにされないことランキングに入っている
『可愛い子に袖を引っ張られながらおねだりされる』だと!?
フォークにたっぷりのクリームを乗せたパンケーキを口に運ぶと小さい口をいっぱいに開けてパンケーキを口に入れる。
「んっ・・・・・・こほっ・・・・・・大兄、美味しいけど口にいっぱい入れすぎだよ」
自分の頬を力任せに二発殴りつける。やはり俺は二人には勝てないようだ。
ゆっくりのんびり更新します。




