僕の運命を変えた2人 後編
大さんと奏さんに話をしてすっきりした僕は戦うことを決意する。
最初は何から話していいか分からず電車で学校に通学している話から始まった。そして少しずつ少しずつ話は核心へと触れていく。最初は気のせいだと思っていたことが少しずつ現実だということに気がつかされそして行為はエスカレートして今日の行為に至った事を伝えた。話している途中から吐き気がして涙が流れて逃げ出したい気持ちになったが真剣な顔で僕を見つめている二人からは逃げられず全てを吐き出すように話した。
苛立ち
悲しみ
恨み
不安
良くは覚えていない。汚い言葉も発したかもしれない。自分の今まで溜め込んできたものを全て吐き出すように二人に伝えた。
話し終わった後は涙や鼻水なんかも出ていて酷い顔だったと思うけど、頭は真っ白で心はすっきりして吐き気は消えていた。こんなすっきりした気持ちになったのはいつぶりだろうか。
話し終わった時に僕は挟まれるように大さんと奏さんに抱きしめられていた。痛いくらいに抱きしめられていたけど全然嫌な気持ちにはならなかった。
「よし、明日から同じ電車で行くことにしよう」
「あぁ、もし見つけたら必ず捕まえて死んだ方がいいくらい後悔させてやる」
大さんと奏さんが明日から通学に付き合ってくれることになった。申し訳ない気持ちもあったけど二人が居てくれると想像しただけで体が軽くなって無敵になった気持ちになる。ちょっと大袈裟かもしれないけど。
「じゃあ、連絡先を教えてくれ葉きゅ・・・・・・葉君!!」
奏さんが携帯を僕に差し出してくる。奏さんも機械が苦手らしく連絡先を交換するときはいつも相手にお願いするらしい。
ふふっ、何だか可愛らしい。
「葉君、大のやつも自分で連絡先の登録ができないからな。連絡先の登録ぐらい自分でできるようになれよって感じだよね」
「自分ができないくせに人に言うなよ。それに別に携帯なんてメールと電話ができればいいだろ」
二人が言い合っている姿に笑ってしまう。こんなにお腹の底から笑ったのはいつぶりだろう。二人と居ると幸せな気持ちになる。二人を心配させない為にも僕も強くならないといけない。いつまでも二人に迷惑をかけるわけにはいかないから。
連絡先の交換を終えて明日の電車に乗る時間を決めて家に帰ることにした。泊まっていけばいいと言われたけどさすがに悪いと断った。駅までは二人が送ってくれた。手を振って改札口を抜けて電車に乗り込む。家に着いて部屋に行こうとすると母にリビングに来るように言われて鞄を部屋に置いてからリビングに向かう。呼び出された理由は今日学校を無断欠席したことだった。母は成績の心配ではなくいつも学校に行く時の暗い顔を見ていていじめにあっているんじゃないかと思っていたらしい。
そうか・・・・・・やっぱり隠せていなかった。
毎朝鏡に映る自分の顔を自分でも酷いと思っていたから。母にはいじめにあってはいないから心配しないでと伝える。駅で体調不良になって倒れて、僕を駅の救護室まで運んでくれた人と今まで一緒にいたことを伝えた。心配そうな母にしばらく見せていなかった作り笑顔じゃない本当の笑顔を見せる。そうすると何故か泣き出してしまった。何か悪いことをしただろうかと声をかけると大丈夫だからと母も笑顔を返してくれた。
あぁ・・・・・・僕はこんなにも母を心配させていたんだ・・・・・・
大丈夫だよ・・・・・・僕は負けないよ・・・・・・
僕には心強い友達が二人もできたんだから・・・・・
お風呂に入って布団に入ると。いつも寝付けない僕がすぐに意識が薄れていった。
携帯のアラームが鳴る前に目を覚ます。体を起こして布団を綺麗に直して洗面所で顔を洗う。鏡に映る僕はいつもの自分とは全く違う表情をしていた。リビングに向かうと父が新聞を読みながら珈琲を飲んでいた。挨拶をすると低い声で挨拶を返してくる。自分の席に座ると母が朝御飯を運んでくれる。いつもは心配させないように胃の中に流し込む感じで味なんて分からなかったが今日はゆっくりと味わう。
懐かしい味に少し感動する。食べないと体力がもたない。今日は体力勝負になるかもしれない。いっぱい食べておかないと。トーストを食べ終えておかわりと伝えると母が驚いていたがすぐに嬉しそうにトーストを焼いて出してくれた。ご飯を食べ終えて珈琲を飲み出発の準備をする。
「しっかりな、葉」
ほんんど言葉を発しない父が僕の背中に声をかけてきた。父も心配していたようだ。
「行ってくるよ母さん、父さん」
元気に二人に伝えて駅に向かう。いつもは重い体が少しだけ軽くなったような気がする。駅に着いて改札口を抜けて階段を登っていくと少しずつ足が重くなり息が苦しくなる。やはりこの場所に来ると苦しい。
逃げたらだめだ
何も変わらない
二人も居てくれる
電車を待ちながら深呼吸をして息を整える。電車が到着して扉が開くと僕の体が羽が生えたように軽くなった錯覚に陥る。二人がそこにいるのが当たり前と言うように立っていてくれたからだ。ここで声をかけると痴漢相手に警戒されてしまうかもしれないので挨拶せずに二人の近くに立つ。
電車が走り出す。何分過ぎただろうか?
背筋に悪寒が走る
息が苦しくなる
吐き気がする
間違いない・・・・・・あいつが居る。逃げ出したいけど足が動かない。その直後だっただろうか誰かが後ろにぴったりとくっついてくる。そして手が僕のお尻に触れる。その瞬間に頭が真っ白になり胃の中に入っているものが逆流しそうになる。
情けない・・・・・・変われた気でいただけじゃないか。必死に吐かないように堪えているとお尻を触っていた手がゆっくりとゆっくりと前に進んでいく
まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか
倒れそうになるのを必死に堪える。足が震えて冷や汗が出て意識を失わないのに必死になる。手は膝をいやらしく撫でまわしてくる。耳元で聞こえる息づかいが荒くなる。膝を撫で回して満足したのか手は上へと上がっていく。その手を掴んで止める。そこは絶対に触られたくない。
「ひゃ・・・・・・やめてください・・・・・・叫びますよ」
「へぇ、今日は頑張るねぇ。でも大丈夫?君の学校って進学校だよね。ニュースとかになったら危なくない?男の子が男性に痴漢されたなんてばれたら君が学校に通えなくなるかもよ?」
耳にこびりつくような声に意識が薄れる。でも負けちゃだめだ。ここで逃げたら僕はこいつに一生勝てないし電車に乗れなくなる。
「いいですよ・・・・・・僕は本気ですから」
「ふふっ、その強気がいつまでもつかなぁ。楽しみだなぁ♪」
男の手が僕の手を押し返すように上がっていく。抵抗しようにも力が入らず止められないと思っていると急に動きが止まる。
「お前、いい加減にしろよ!!」
大さんが男の手を掴んで捻りあげて僕から離れさせて出口の扉に押し付ける。
「痛い、痛い、誰か助けてくれ。暴力をふるわれている」
「暴力だと、お前のやっていることは何だ?殺人より罪が重い」
周囲の人がざわついているがその中の女性が声をあげる。
「私、この人に何度も痴漢されました。でも怖くて言えなくて」
「私も、このおっさんに痴漢されそうになったことがある。睨んだら逃げていったけど」
「なんだ、急に、嘘をつくな証拠はあるのか証拠は?」
諦めが悪く叫びだす。次の駅に着いて大さんが無理矢理降ろす。さっき話してくれた女性二人と奏さん、そして僕も降りる。しばらくすると騒いでいる男を不審に思い駅員さんが近づいてくる。男は濡れ衣で暴力をふるわれているか助けてくれと言って助けを求めている。
駅員は状況を整理するために6人を駅長室に行くように伝える。駅長室では痴漢などしていないむしろ乱暴されて怪我をしたと訴える男とこの男が嘘をついていて痴漢したという意見に別れて話がつかなかった。しばらくすると警察が到着する。話が長引くかと思ったが話はすぐに終わることになる。
奏さんが携帯を取り出して動画を流すとそこには男が僕にしていた痴漢行為が音声とともにしっかりと記録されていた。先程まで叫んでいた男の顔が蒼白になる。言い逃れなんてできるわけがない程の証拠が目の前に現れたからだ。男はすぐに警察に連行されていった。
証言してくれた二人の女性に感謝の気持ちを伝えると逆に感謝された。そして僕が一番感謝しているのは大さんと奏さんだ。ふらつく自分を二人が痛いくらいに抱き締めてくる。
「ありがとう二人とも。本当にありがとう」
「よく頑張ったな葉君。かっこよかったよ」
「うーん、愛してるよ葉君」
二人の女性が手を振って離れていく。二日連続で無断欠席をするわけにもいかず遅刻になってしまうけど学校に向かうことにした。二人と一緒にまた同じ電車に乗って学校の近くの駅で降りる。二人が手を振るのに手を振りかえして学校へと向かう。改札口を抜けて学校に向かう僕の体は憑き物が取れたように足取りが軽かった。
かなり遅い更新になってすみませんでした。もしかすると楽しみにしていて人が楽しんでいただければ幸いです。