167話 勤務(鈴side)
鈴君の勤務の様子。
「なぁなぁ、聞いてるのか鈴?」
誰かが何かを言っているみたいだけど全く頭にも耳にも入ってこない。頭の中で考えていることは仕事が終わったら買い物をして直ぐに家に帰ることだけだ。だから相談にくる人じゃない元同僚の上司の話には全く興味がなかった。
「もぅ、うるさいっ、休みだったら彼女とかと出かけなよ」
書類を取り出し確認しながら帰れと手で振り払うようにジェスチャーする。
「何だよ冷たいなぁ鈴。同期なんだから邪険に扱うなよ」
全く帰る様子を見せない元同僚の轟に少し苛立ちを覚える。本人は同期と言っているけど高卒と大卒のキャリアとを一緒にしないでほしい。
「なぁ鈴、お昼どうするんだ?奢るから一緒に行こうぜ」
「はぁ、もうしつこいなぁ。自分は今日早く帰りたいから仕事を済ませておきたいんっす。だから轟警部とは食事に行かないっす」
仕事が進んでいないのに轟の相手なんてしていられない。話が長いので面倒くさいし、そもそも何で警部が休みの日に交番に来るのか分からない。彼女とデートしたり友達と遊べばいいと思うんだけど。
もしかすると友達がいないのかもしれない。いかにもお坊っちゃまで自尊心が高いからあまり近づきたくない感じだからなぁ。
「お疲れ様です轟警部」
同じ交番勤務の太巡査がパトロールから戻ってくる。太ちゃんは轟警部が抜けてから入ってきた警察学校で一緒に勉強した同期だ。見た目は少しぽっちゃりしていて雰囲気はおだやかで優しいのだが言いたいことを隠さず言ってくれるしっかりしたやつなんだよ。
「太ちゃんお帰り。お茶淹れようか?」
「ありがとう鈴君」
椅子に座り書類に目を通しはじめる。そういえば轟にお茶を出してなかったなぁ。これで太ちゃんにだけお茶を出すと愚痴愚痴言いそうなだなぁ。自分だけなら無視しておけばいいけど太ちゃんが巻き込まれると可哀想だし。溜め息をついて二人分のお茶を淹れることにした。
「はい、お待たせ。轟警部もどうぞ」
二人の前にお茶を置く。
「なぁ、鈴・・・・・・何で太巡査が『太ちゃん』で俺が『轟警部』なんだ?」
「何を言ってるんっすか?同期だとしても上司に向かって名前を呼び捨てにしたりしないっすよね?」
「そうかもしれないけど、今日は俺は休みなわけだから、名前で呼んでも大丈夫だから」
必死に名前で呼んで欲しがっている理由がなんなのか分からない。好きな人になら名前で呼んでほしいけど自分は轟のことを邪険に扱っているから好かれる理由がないからなぁ。
「鈴君・・・・・・名前で呼んであげるんだよ。多分呼んであげないとまだ居座る気だよ?」
「えっ・・・・・・まじっすか?意味不明でかなり面倒くさいんっすけど」
小声で話してくる太ちゃんの意見を聞いて、溜め息をついて覚悟を決めた。
ゆっくりのんびり更新します。




