163話 駅までの道
駅に行くまでに鈴君と話を。
「迷惑をかけてごめんね鈴君」
「自分は全然いいんっすけど・・・・・・体調が悪いのに無理したらだめっすよ・・・・・・何かあったんっすか?」
エレベーターが到着するのを待っていると鈴君が心配そうに尋ねてくる。さすがに葉君や鈴君のことを考えて眠れなくて、朝まで外にいて体調が悪くなったなんて本人を前に言えるわけがない、俺が鈴君の立場でその話を聞いたら気持ち悪く思うだろう。
「いやっ、その、まぁ、色々あってね。でももう体調は回復したから大丈夫だよ」
「むぅ、何か隠してる感じっすよ。正直に言ってほしいんっすけど」
じっと鈴君が見つめてくる。相変わらず目を合わすことができず、直ぐに目をそらしてしまう。エレベーターが到着したので誤魔化すように乗り込む。
「大さん、首筋にケガしてるみたいっすけど大丈夫っすか?」
「えっ!?いや大丈夫だよ?」
手を当て傷を隠して明らかに動揺した態度を示してしまう。
「心配なんで見たいんっすけど・・・・・・じっくり」
鈴君の瞳が細くなる。
まずい・・・・・・
逃げないと・・・・・・
エレベーターの一階のボタンを連打するが無意味だ。
鈴君に手首を掴まれたと思った瞬間に体が床に仰向けに倒され馬乗りにされる。相変わらず動きが早い上に抵抗ができない。
「ねぇ大さん・・・・・・僕のキスマークを上書きしたのって葉さんっすよね?」
傷に指先を這わせながら聞いてくる。確かに首筋に噛みついたのは葉君だけど何で分かったんだろうか?
「上書きって表現はどうかな・・・・・・葉君の悪戯だと思うけど・・・・・・」
手を伸ばして頬を優しく撫でる。どうして鈴君や葉君は俺の心を揺さぶってくるんだ・・・・・・
『バッカじゃないの、私があなたの事を本気で好きになると思った?気持ち悪いから二度と連絡しないでくれる』
脳裏に昔付き合っていた女性の言葉が再生される。自然と指先から力が抜ける。
やめてくれ・・・・・・
鈴君も葉君も俺に勘違いさせないでくれ・・・・・・
拳を握って自分の頬を乱暴に殴りつける
馬鹿だな俺は・・・・・・
奏は前に進んだっていうのに俺は何も変わってないじゃないか・・・・・・
嫌われるかもしれないだって?馬鹿らしい、それは好かれている人の悩みだ。俺には関係ない。もし鈴君に確認して気持ち悪がられても仕方がない。元々好かれているわけじゃない。
「ねぇ鈴君、前に言ってた好きって・・・・・・異性に対する好きなのかい?」
唾を飲む音が静かなエレベーターの中に響く。鈴君がゆっくりと顔を近づけて耳元で囁く。
ゆっくりのんびり更新します。




