149話 一人で過ごす月曜日(奏side)
今まで目を背けていた現実を見つめる決心をした奏。
電車に揺られながら興味の無い景色を見つめる。一人であそこに行ったことはない。いつもは大が一緒に行ってくれる。母さんと悠君が事故で亡くなったあの日、私の時間は止まってしまった。大が居なかったら私は死んでいたと思う。口に出して言うのは恥ずかしいけど本当に大には感謝している。
目的の駅に到着して電車から降りて改札口を抜けて目的の場所に向かって歩いていく。天気がいいこともあって目的の場所につく頃には体が暖まってほんのり汗をかいていた。
平日の朝ということもあって墓地には誰も居なかった。足取りは重く墓石の前に行くまで少し時間がかかってしまった。
大石家の墓石
父さん、母さん、そして最愛の弟の名前が刻まれている墓石を見つめてあぐらをかくように座り込む。正確には崩れるようにと言った方がいいかもしれない。大が居ると全部やってくれるから墓石を直視しなくてよかったけど一人で来た以上は私が全てをしないといけない。綺麗に掃除をした後に買ってきた花を添える。
「父さん、母さん、悠たん、私は元気でやってるよ。大と葉きゅんが側に居てくれるから私は大丈夫だよ。まぁ、二人が居なかったら今頃、私も3人と同じ場所に居たかもしれないけど」
我ながらつまらない冗談を言う。
手を会わせて3人に挨拶をして駅に向かって歩いていく。電車に乗って自宅に戻り靴を脱いでリビングに向かう。いつもなら葉きゅんと出掛けているか葉きゅんを抱き締めているかのどちらかだけど今頃は大と出掛けているだろう。
いつもはあんなことを言わないのに珍しい。何かあったんだろう。私にとって葉きゅんが大事なように葉きゅんにとっては大が大事なんだろう。初めて葉きゅんに会ったあの日、一目で好きになってしまった。最初は悠たんと重なって見えたと思う。まるで悠たんが自分好みに成長・・・・・・悠たんが無事に帰ってきた。そんな風に錯覚したと思う。
でも今日理解した。
私の溺愛した悠たんはもうこの世にはいないんだって・・・・・・
私さえその事実を認めなければ、『ただいま』って言って目の前に会われるんじゃないかって。そんな馬鹿らしいことをずっと考えていた。
我ながら痛いな・・・・・・
頬を両手で思い切り叩き気合いを入れる。すっきりした。葉きゅんが帰ってくるのは夜だろうか。もしかすると朝帰りかもしれない。まぁ、大ならその心配は無いと思うけど。それまでにしておかないといけないことがある。自室に向かいタンスを開ける。タンスの中にはメイド服やナース服、セーラー服など、色々な服が入っている。もちろん私が着る為のものではない。目の前にある服を1枚取り出して強めに引っ張ってみると簡単に破れる。
ふふっ・・・・・・
ふふふっ・・・・・・
葉きゅんが帰ってくるのが楽しみだなぁ・・・・・・
ゆっくりのんびり更新します。




