138話 土曜の夜
鈴君のことをぼーっと考える。
どれくらい駅前で立っていただろうか。携帯から着信音が聞こえる。意識がはっきりしないまま電話に出る
『大兄、今何処にいるの?』
葉君の心配そうな声が携帯から聞こえてくる。
『葉君、ごめんね、ちょっと外の風に当たって帰るから少し遅くなるよ。先に寝ていて大丈夫だよ』
携帯を切り駅前の自動販売機で缶コーヒーを購入する。熱い缶コーヒーを手で触り手を暖めてから缶を開ける。ほんのりと香る珈琲の匂いが俺の心を少しだけ落ち着けてくれる。
さっきのは何だったんだろう・・・・・・
いつもの鈴君の悪戯だと思うんだけどいつもと様子が違った気がする。首筋を指先で掻きながらまだ残っている感触を思い出す。
鈴君が飲みすぎてホテルで休んでいた時に言おうとしていた言葉
『大さんのことが大』
もしかすると鈴君は俺のことが・・・・・・
はぁ、ばからしい。何を気持ち悪いことを考えているんだ。そんなことがあるわけがない。鈴君が俺のことを好きになる要素が一つだって思い浮かばない。いつの間にかぬるくなってしまった缶コーヒーを飲み干してゴミ箱に缶を捨てる。駐車場に向かい車に乗りエンジンをかける。家への帰り道を安全運転で帰る。家に着く頃には間もなく日付が変わりそうな時間だった。リビングは電気が点いていて明るかった。もしかして葉君が待ってくれているのだろうか。それともテレビを見ながらソファーでごろごろしているのだろうか。
玄関の扉を開けて腰を降ろして靴を脱いでいるとリビングから足音が聞こえてくる。
「おかえりなさい大兄」
「ただいま葉君。こんな時間まで起きていて大丈夫かい?明日は朝から仕事だったと思うけど」
「うん、そうなんだけど・・・・・・」
葉君の瞳の色が無くなりゆっくりと近づいてくる。身体中の細胞と筋肉が危険信号を出して逃げろと訴えかけてくるが何故だろうか、力が入らず、金縛りにあったように動けなくなる。そして玄関に腰かけている俺の首筋に触れた後に抱きついて鼻を当ててくる。
えっと・・・・・・あれっ・・・・・・葉君もしかして・・・・・・匂いを嗅いでらっしゃいますか?やめた方がいいですよ、加齢臭が凄いですよ、汗の臭いも酷いですよ・・・・・・
「ねぇ、大兄、今日って誰とどこで何をしてたの?」
「えっ、いや、それって、気になったりする?」
体から冷や汗が溢れ出して喉がからからになる。
「うん、気になる。だから教えて・・・・・・ひ・ろ・し・に・ぃ♪」
鈴君と一緒にリビングに向かうことになった。
俺が何か悪いことをしただろうか?
ゆっくりのんびり更新します。




