118話 鍋
鍋の出来上がりを待つ。
鍋がグツグツと音をたてる中に具材が入って更によい匂いが部屋中に広がる。葉君は鍋奉行と言う訳ではないがお父さんの影響か下拵えから具材を入れる順番などしっかり決めている。こだわりは無いが一番美味しい状態で食べてほしい。その気持ちからしっかりと鍋の作り方を伝授されたらしい。味に関しては言うまでもないけど美味しい。
鍋が完成するまでの間に、何故異世界に泊まることになったのか経緯を話し始める。
マスターが行方不明になったこと
山田さんとガリィ達と探索したこと
ミミの屋敷でマスターが無事に見つかったこと
一通り説明を終えると葉君の瞳が輝いていた。普通に考えればおっさんが訳の分からない話をしているだけと思われるだけだと思うのだが葉君は全く疑わないで話を信じてくれる。何で信じてくれるかは分からない。危ない人に騙されないか心配になる。
「ただいま葉きゅん♪」
奏が勢いよく扉を開けて中に入ってくると力いっぱい葉君のことを抱きしめて・・・・・・あれ匂い嗅いでるよな・・・・・・しばらくしてやっと離れて手を洗いに行く。いつもの風景だが慣れというのは怖い。結婚しているとはいえ犯罪行為にしか見えない。
『いただきます』
手を合わせて鍋を食べ始める。そういえばほとんど何も食べていなかった。いつも感じる以上のありがたさを感じながら胃の中に鍋の具材を味わって空腹を満たしていく。心もお腹も幸せな気持ちになる。
奏もいつものように食べるのですぐに具材が無くなるので葉君がまた作り始める。二人でそれを平らげる。それを何回か繰り返して締めのうどんが登場する。普段は俺が作るのだが今回は葉君が頑張って作ってくれたみたいだ。
締めのうどんが出来上がると奏と奪い合うように食べ始める。葉君の料理を食べると現実の世界に戻ってきたんだと再認識できる。
奏にも葉君にも悪いけど、
仕事が終わったら葉君が料理を作ってくれていて
奏と奪い合うようにご飯を食べて
葉君と朝までテレビを見て
奏に殴られて
何でもないそんな毎日が幸せなのかもしれない。俺には何も無いが、側に葉君と奏がいてくれる。今はそれだけで幸せだ。
「大、どうした飲むか?」
奏がストックしている日本酒を取り出してグラスに注いでくれる。
「ありがとう」
そのまま一気に飲み干すと喉から胃に火が走る。今日のお酒は染みる。カクテルもいいけど日本酒もいい。明日の日課もあるので二人で日本酒の瓶を空にするとふらふらとした足取りで部屋に向かう。布団に入るとすぐに意識がなくなった。
ゆっくりのんびり更新します。




