表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ムーダゥ物語

魔術師、最後の日~一族の受難~

「魔王様とパティシエール」に登場する封印師、リアレスカのご先祖様の話ですが、一部設定等異なります。

 ここに、1冊の書物が有る。

 古より伝承される、古代語の本だ。


 剣と魔法、魔物と人間が入り乱れる混沌としたこの世界でも、召喚魔法は希有な存在である。

 召喚魔法を操れる者は、世界でも片手で数えるほどしか存在せず、フレイシスカ=オークビレジはその中でも第1人者と称される腕前の持ち主だった。



 フレイシスカは、幼少の頃より好奇心旺盛で、全ての行動に疑問を持ち、その全てを納得し得るまで調べあげることが信条だ。幼いながらも、それこそが己の矜持であると自負していたのだ。

 それ故に、周囲から要領が悪いと囁かれ、改心を促されてもその性質を止めようとは決してしない。頑固者と揶揄されようが、耳にも入れず、自恃を保ち続けたのだった。


 そんなフレイシスカは、召喚魔法と出会い、興味の対象をそれへと注ぎ込み、齢12歳にして国に認められる魔術師として君臨することとなった。

 その地位と実力から、フレイシスカを師と仰ぐ者も増え始めていく。

 彼女の研究は、助手が増えたことにも起因し、飛躍的に進められていった。



 ――そして数年が過ぎ。

 フレイシスカは1冊の本を手にする。


 内容は、まだ解明されていない古代文字で書かれており、解読には困難に困難を極めた。

 寝食を忘れ、あらゆる地方言語のパターンを組み合わせてみたり、魔法言語の歴史を調べ、文字の変化を調査し法則を編み出すなど、自身はおろか、弟子の言葉にも耳を傾け、様々な解読法を研究する。

 思い付く限りの、ありとあらゆる手を尽くし、解読へ全てを捧げるフレイシスカ。国の協力もあり、金銭や探索不可能な場所への侵入などには手を煩わせずに済んだ。


 数年がかりで漸く判明したその言語は、異世界の物を召喚する魔法が書かれていた。


 異世界の何が召喚されるかは、無生物、という以外、詳しくは書かれていない。

 魔法を行使する者の魔力や体調、様々な要因を加味し、召喚される物が決定するとのことだが、それほど大きい物は召喚出来ないらしい。

 しかし、危険性と召喚物の大きさは、イコールではない。

 フレイシスカは万が一のことを考え、弟子達を国に託し、自身から遠ざける。

 更に、人気の無い広い平野を貰い、その中央に小さな小屋を用意してもらった。

 犠牲は、己一人でいい。


 フレイシスカはその小屋に入り、フードの付いた黒い装束に身を固め、本を携えながら、床に半径1メートルほどの魔法陣を床に描いていく。

 描き終えると魔法陣の外に立ち、大きく息を吐いて、本の内容を読み上げ始めた。

「…ウエレモスディスポヵジョンアジェンマーズンジオウン……」


 魔法陣から、淡い光が溢れ出す。

「……ベルンザケンサガケギウポエクセレスザクルゼンジェオ……」


 溢れ出す光は次第に輝きを強め、フレイシスカの体を覆い始める。

「……ラガレチオステカスレイナムゲセテラオケナシルテジャクアエリ……」


 体を覆う不思議な力と呼応するかのように、フレイシスカの長い髪を上空へと押し上げていく。

「……ザクゼムガケルゴレンウェジェフイテウイルガ!!!」


 フレイシスカの叫びが終わると同時に、魔法陣の光は最高潮に達し、目映い光で視界を奪う。

 目映い発光は小屋からも溢れ出し、広範囲に及び、光の持つ魔力の甚大さを知らしめ、緩やかに、その力を失っていく。

 光で麻痺された視界が徐々に回復し、召喚の成功を確信する。


 魔法陣の中央には、黒い固まりが出現していた。

「……こ、れは?」

 フレイシスカは、術の成功を歓喜すると共に、眼前に現れた物体に畏怖する。

 黒曜石を思わせる、1センチほどの厚さの長方形の、黒光りする物体。

 表面は、左右はカーブを描く為、平らに研磨されているようだ。

 一見対称的な形状だが、その体に取り付けられた様々な小さな物体は非対称に取り付けられており、所々に色の違う物も填められている。

 片面中央には、周りとは微妙に質の違う黒で、測った様な長方形が大きく描かれている。


 その、計算され尽くしたと思われる、自然には成り得ない形状に、フレイシスカは感嘆の溜息を吐いた。

「……どうやってこんな形を……?」

 黒曜石は、この世界でも武器などに加工して使われている。

 黒曜石を研磨する時は、それより硬い石を粉にした物で磨く。そうすれば形を整えられることは、フレイシスカも知っていた。

 だが、このような形状にする理由が分からない。

 所々に填められている、小さすぎる石を付けた理由や方法も分からない。

「……もしや、異世界の、魔法具?」

 恐る恐る、異世界の物体を手に取ってみる。

 ひやり、と冷たい感触が、フレイシスカの手に伝わってきた。

 と、その刹那。


 黒い物体に描かれていた長方形の部分に、鮮やかな色彩が浮かび上がる。

 そこには黒いマントを構えた黒尽くめの男が、怪しげな笑みを浮かべてこちらを窺っていた。

『ふはははは! 我は魔王だ!』


 驚き戦くフレイシスカに、更なる衝撃が襲い掛かる。

「しゃ、しゃ喋った??!! しかも魔王だと??!!!」

 平面に浮かび上がった男が、恰も飛びださん勢いでフレイシスカに迫ってくる。


 殺られる?!


 そう判断したフレイシスカは、物体を放り投げ、間合いを取る。

 生半可な魔法が効くとは思えない。

 フレイシスカは、土属性の最高位封印魔法を唱えた。

「……彼の物を封じよ!!!」

 フレイシスカの両手が異世界の物体へと差し出され、その掌から光の束を放つ。

 すると物体の周囲に土色の破片が集結し始め、やがて30センチほどの土の塊と変化させていった。


 物体の動きを監視しながら、フレイシスカはゆっくりと、土の塊へと歩み寄る。

 怪しい動きが一切無くなったことを察し、フレイシスカは安堵の溜息を漏らし、その場にへたり込んだ。


* * *


 ――そして数百年、時は流れ……。

 フレイシスカの子孫は封印を守る者として、ゲーム機の入った土の塊を、今日も見守っている。

実は、「魔王様とパティシエール」より前に書いたものを加筆修正しました。

お楽しみいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ