12.魔女との対決 前編
魔女は、わたしが異世界から来た勇者の役割で見ているみたいだ。わたしが異世界に転移した?理由を考えているとアーサー先生が話しかけて来た。
「ユキ!まず治癒魔法でリーリエの父親を助けろ。」
「はい!」
わたしは、アーサー先生の指示で岩場の上にいるリーリエちゃんのお父さんの方へ、向かおうとした。
「助けさせないわよ。今、この子の闇は最高潮なの。だから、その父親も我の野望の生贄になってもらうわ。あら、いっそ死んでもらった方がまたいっそう闇が深くなってくれるかもしれないわね。アハハッ」
魔女は、乾いた声で笑っていた。
魔女と対峙していたわたしだったが、魔女の方に火の玉が飛んでいくのが見えた。
「今よ!ユキ!魔女は、わたし達に任せてあなたはリーリエのお父さんを助けなさい。今、回復魔法を使えるのはあなただけなんだから。」
「ユキちゃん、はやく!」
「うん、わかった。ありがとう。」
わたしは、再びリーリエちゃんのお父さんの方まで走り出した。
「小癪な小娘らめっ!我の野望を邪魔しようというのか?」
魔女がそう言い放つと何やら呪文を唱えていた。
すると、いきなり地面が揺れ、そこから木の根が飛び出してきた。
そしてわたしの背後から襲いかかってきた。
あ、そうか。魔女って全属性だからわたし達が出来ることは、全て出来ると考えていた方がいいのか。わたしは呑気にそんなことを考えながら走っていた。
その時、わたしに迫って来ていた木の根が突然燃えだした。
「ちょっ、熱いよ!なにこれ!」
わたしの背後から迫ってくるのは、ただの木の根ではなく、火をまとった木の根に変わっていた。
「な、何、火をつけてるのよっ!シャーロット!」
「ご、ごめんなさい、ルミアちゃん。木だから燃やしてしまえばいいかなって思って…。い、今から火を消すからっ」
「はやくしなさいよっ!でないとユキとリーリエの両親ごと丸焦げになるわよ」
「そんなこと、言っている暇があるならはやく消してよー」
わたしはシャーロットちゃんを急かした。
するとその時、燃えている木の根とわたしの間に土の壁が発生した、まるで木の根の進行を妨げるように。
「おい、お前らっ。今から言うことをよく聞け」
アーサー先生⁉︎
耳元で囁かれている声
わたしの耳元になにかいる!?
わたしはおそるおそる耳元に視線を向けると蝶がわたしの側にいた。
「これは、土魔法で虫を使って俺の声を届けているんだ。土の壁も俺の土魔法だな。いざって言う時に会話ができないと困るからな、使える虫を探していたんだ。地面の中ならミミズやムカデなんかがいたんだが、お前たちに使うのが気が引けてな。ましな虫を探していたら、蝶を見つけたんだ」
あ、そうなんだ。アーサー先生が黙っていたのは魔女に聞かれないような通信手段を探していたんだ。
でも、昆虫でよかったよ。多足類とかでやられたら、パニックになっていたよ。昆虫も種類によるけどね…
「さっそく本題だが、今から俺は魔女のところに突っ込む。そしたらルミアは、土魔法で魔女を俺ごと土の壁で閉じ込めろ。魔女を少しの間押さえつけてやる。できればドーム型の方がありがたいんだが…出来るか?ルミア」
わたしからはルミアちゃんの声が聞こえない。
何故なら、土魔法を使っているの先生としか話せないからだ。
ルミアちゃん、了承したのだろうか?
わたしが心配しているうちにシャーロットちゃんの両親の元へたどり着いた。
「先生、たどり着きました。」
「そうか、じゃあ俺も行動に移そう、いいなルミア。ユキは、回復魔法に集中しろ。」
そう先生が言うと、地面が揺れて土のドームが出来ていた。この中に先生と魔女が対峙しているのか…。大丈夫かな?
* * * *
「おい、魔女さんよ。リーリエの体じゃなくて俺の体を使わないか?」
アーサーは、魔女にそう問いかけた。
「あなたの体ですか?我と二人きりで話すためにこんなことをしたのかしら?」
「ああ、そうだ。でどうなんだ?俺の問いに答えろ。」
アーサーは、魔女からの返事を急かした。
「答えろと言われても、あなたは属性が欠けている。Noに決まっているでしょ?」
魔女はアーサーを見下すような視線を向ける。
「そうか、ならば力尽くでお前の力を頂くぞ!」
アーサーがそう言うと懐から小さい瓶のようなものを取り出した。
「あなた…その魔術具はまさか!?」
魔女はそれを見ただけで動揺した。
「そうだ、おそらくお前が考えていることであっているかもな。」
アーサーは勝ち誇ったかのように笑みを浮かべているが魔女は冷静だった。
「こうして話している間に、多分この子の親に回復魔法をかけられているかもしれないのに…。せっかくの計画が台無しじゃない。あなたもこの理不尽な世界の滅亡を望んでいるのでは無いのか?どうして我の邪魔をするのだ?」
魔女の問いかけにアーサーは「世界を滅ぼすのは自分だ。他の誰でもない。そして、俺は自分の理想的な世界を作るんだ。」と言った。
その答えに魔女は笑った。
「アハハハ。あなたに、世界を作り変える力があるっていうの?」
「笑うな!その為にお前の力を頂く。リーリエが契約した精霊ごとになるだろうがな。まぁ、リーリエには悪いが…仕方がない。無理やり力を奪うまでだ。」
そうアーサーが言い放つと魔女に向かって走り出した。
「どこまで愚かなのだ、人間。我は滅ぼすだけで世界を作り変える力がないと言うことを知らずに…」
魔女はそう言って何やら呪文を唱えると薄暗いドームの中が白い光に包まれた。
* * * *
「しっかりしてあなた!はっ、あなたは確かユキさん…でしたよね?リーリエのお友達の。よく手紙でユキさんたちのことを拝見させて貰っています。」
わたしは、友達という言葉に少し照れくさくなった。
「はい、リーリエのお父さんを助けにきました。」
わたしがそういうと、リーリエのお母さんは泣きながら請うてきた。
「お願いします!主人が、主人がさっきまで会話していたのに、返事してくれないんです。」
そのことを聞いてわたしは、リーリエのお父さんの脈拍を確認した。脈は弱いが、死んではいない…。これなら回復魔法が使えるかな?
わたしは、呪文を唱えた。
すると血が少しづつ垂れていた傷口がみるみるうちに塞がっていった。
初めての実践だったけど、うまくいったんじゃない?
「もう大丈夫だと思います。回復魔法で傷口を塞いでいますが、流れた血は元には戻せないので一応安静にしていてください。」
わたしはそれだけ言い残し、ルミアちゃんたちと合流するために戻ろうとした瞬間。
ドッカーン
土のドームが爆発した。
え…。先生、大丈夫なの?もしかして先生、魔女と一緒に死ぬつもりで…。そんなはずない先生がリーリエが傷つくようなことするはずない。
わたしは、土煙の中からリーリエちゃんと先生の姿を探した。
すると、煙の中に光の線らしきものが見えた。
しばらくして、煙が晴れると衝撃的な光景が目に入ってきた。
リーリエちゃんが光の剣らしきものでアーサー先生を貫いていた。
「「リ、リーリエ!」」
「リーリエちゃん!」
1番辛いのは、その光景を見ていたリーリエちゃんの両親だと思う。
魔女に体が乗っ取られているとわかっていても、自分の娘が先生を刺したという事実だけが残ってかなり衝撃的だったと思う。
わたしは、足がすくんで動かないリーリエの両親に、その場を動かないようしてくださいと言った。
そしてわたしは、アーサー先生と魔女がいる方向に駆け出したのだった。