姉が消えた日
昔、僕には姉がいた。
五つ違いだった。
弟思いで面倒見が良くて、よく笑う姉だった。
両親が仕事に出ている間、姉はいつも僕を誘って近所の神社へと出かけた。
そこでかくれんぼをしたり、だるまさんが転んだをして遊ぶのが僕らの日課だった。
それがいつの日か、姉は忽然と姿を消した。
何の前触れもなく、本当に突然、どこにも姿が見えなくなってしまったのだ。
「おねえちゃん、どこいったの?」
僕が尋ねても、両親はただ不思議そうな顔をして、
「なに言ってるの。あなたにはお姉ちゃんなんかいないでしょ」
「夢でも見たんじゃないのか?」
と、笑って返すだけだった。
僕は納得がいかなかったけれど、それ以上何を言っても、まともに取り合ってはもらえなかった。
結局そのまま、姉は帰って来なかった。
誘拐されたとか、神隠しに遭ったとか、そんな風に騒ぐ人はいなかった。
どころか、姉のことを覚えている人さえ誰一人としていなかった。
僕を除いて、皆が皆、姉のことをすっかり忘れてしまったようだった。
「子どもの頃の記憶ってのは曖昧だからな。現実と願望とがごっちゃになってるんだろう」
父は冗談っぽく笑いながら僕にそんなことを言った。
もともとは誰よりも姉を溺愛していた父。
そんな父が姉を蔑ろにしたのを見て、僕はいよいよ姉という存在がこの世からきれいさっぱり消えてしまったことを悟った。
いなくなった、というよりは、そもそも姉という人間が初めからここに存在していなかったかのようだった。
僕はもともと一人っ子で、両親が家にいない間は、たった一人で神社へ出かける――そういうことになっていた。
姉が消えた後も、世界はまるで何事もなかったかのように続いた。
僕の身体は少しずつ大人へと近づき、次第に、姉と過ごした時間は遠い過去のものとなっていく。
段々とおぼろげになっていく記憶の中で、姉の存在だけがまるでしこりのように、僕の中に居座り続けた。
僕だけはこんなにも覚えているのに。
僕だけを残して、姉のことを思い出す人はやはり誰一人として現れなかったのだ。




