目が覚めると生まれ変わっていた
嗅ぎ慣れない青臭い匂いで目が覚めてしまった。なんだこの匂い。体を起こし目を擦る。皮の質感がして少し痛い。・・・皮?手元を見ると見慣れない皮の手袋が俺の手を包んでいた。
「な、なんだこれ!?」
よく見ると俺はゲームの世界のような格好をしていた。さながらヨーロッパの青年、しかも俺好みのクール系に仕立ててある。辺りを見回す。周囲は俺の部屋ではなくただ広い広い草原になっていた。星の位置が普段見ているのよりもずっとずっと高かった。腰のカバンの中には鏡が入っていて、覗くと金髪に青い眼をした美形の青年がいた。思わず飛び上がりそうになる。まさしく理想の俺じゃないか。昨日までのいるかいないか分からないようなモブ顔の俺は消えて、主人公のような凛々しい顔をした俺がいる。
「生まれ変わってる・・・。」
そう実感したとき、俺は叫んだ。今まで出したことも無いような大きな声で。遂に、遂に夢にまで見たことが起きたのだ。俺は草原を走り出した。足元がチャラチャラ五月蝿い事なんて気にもしなかった。今までの自分よりも速いスピードで走れる事に気づくとまた嬉しくなってぐんぐんと加速させた。次第に、遠くに暖色の光が見えた。町だ。反射的にそう感じた。俺は自らの足を更に加速させた。心臓の高鳴りがどんどんと激しくなっていくのが心地良かった。どんな冒険が待っているんだろう。期待が胸にドクドクと込み上げた。ああ、ああ、俺は新しい人生を生きれるんだ。
グイッ
突然、右足が引っ張られた。余りの急な事に思わず顔面から倒れる。そして不幸にも其処には大きな石。なんだ今日のお楽しみはこれで終わりか、これからだったのに。何の抵抗も出来ず、顔を打ち付ける。起き上がるといつもの場所、いつもの格好。
「10分の麻薬浴びは終了だ!すぐに持ち場に戻れ!」
指示に従い持ち場に戻る。あれがあるから僕達はここで働かされてても逃げない。あれは次は3ヶ月後。早く、早く浴びたい。右足の鎖がチャラチャラ五月蝿い。