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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第一章 旅の始まり
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今回ロイの出番少ないです。

サイフォートを発って数日、二人だけの旅団“ノーツ・アクト”に早くも危機が訪れていた。

「サイフォートを発つときに食料のこと考えていなかったわ…」

アイリスは腰に着いた袋から木の実を取り出す。

それをロイに渡してもう一個取り出そうとしたときに気づいた。

木の実が底をついたのだ。

「君は準備が悪いな。次の街まであと少しだからこれ食べな」

ロイは木の実をアイリスに返した。

アイリスはそれを受け取り、袋にしまう。

「しかし、ここまで遠くないはずなんだけどな…」

ロイはぼやきつつ足を進める。

その時だった。

道の横の茂みがガサッと揺れて、何かが飛び出してきた。

ロイはとっさに上半身をそらして避ける。

「チッ、外したか」

茂みの中から声がしてそこから数人の男が出てきた。

「旅人さんよぉ、今持ってる物全部よこしたほうが身のためだぜ?」

リーダーと思われる人物がにやにやとしながら言う。

アイリスたちの周りを囲んだ男たちが下品に笑った。

「盗賊ども、喧嘩を売る相手はちゃんと考えたほうがいい」

ロイはノーツを発動させ、地面を殴った。

地面がえぐれたように無くなり、土埃すら立たない。

驚きを隠せない盗賊に対してロイがニヤリと笑う。

「さてと、今持ってる物全部よこしたほうが身のためだぞ?」


「いやぁ、あいつら結構いっぱい持ってたなぁ」

笑顔を浮かべて干し肉を食べながらロイが言う。

アイリスは少しだけ罪悪感を覚えたが袋に金貨をしまう。

「それに、もう街が見えてきてる」

ロイが前を指さした。

アイリスが指の先を見ると町の門が見える。

街が見えたことによる安心感からか、疲れが来る。

二人はフラフラと町に吸い込まれていった。

「ようこそホットヤードへ!」

門の上にそう書かれた看板が掛けられている。

門をくぐるとサイフォートとは違ったにぎやかさがあった。

サイフォートは市場の人の呼び込みの声が響いていたのに対してホットヤードは落ち着いた温泉街のようだった。

二人は入り口近くの店に入ることにした。

店の中を見る限り土産物屋と飲食店が一緒になった店のようだった。

「いらっしゃいませ!」

元気な店員の声が店に響く。

奥から店員が水を持ってくる。

「旅の方ですよね?疲れたでしょう、どうぞゆっくりしてください」

二人は店員に会釈をした。

「この町、ホットヤードは温泉街として有名だ」

ロイが水を飲みながら説明する。

「何でも治ってしまう温泉と言われていて、遠くのほうからも人が来るらしい」

「何でもって?」

アイリスは首をかしげる。

「何でもは何でもですよ」

二人の後ろにさっきの店員が立っていた。

「例えば、病が治ったり、肥満が解消されたり、身長が伸びた人もいましたよ」

アイリスは勢いよく立ち上がって、驚いているロイの手を引っ張った。

「温泉行くよ!」

そして脱兎のごとく走り去っていった。

店員は微笑みながらその後姿を見送った。


「申し訳ありません、お客様。ただいま温泉の量が少なく営業をしていないんですよ」

宿の主が申し訳なさそうに言う。

アイリスはわかりやすく肩を落とした。

さすがに哀れに思ったロイが肩をさすりながら慰める。

「そう気を落とすなよ。身長なんてすぐに伸びるさ」

アイリスは無言で宿を出た。

「ねぇねぇ、お姉さんたち旅人さん?」

落ち込んだアイリスの後ろから子供の声がした。

振り向くとロイと同じくらいの背の男の子が立っていた。

「そうだけど、君たちは誰?」

アイリスがそう聞くと、今度は前から声が聞こえた。

「俺たちはこの町の住民だよ」

アイリスが前を見ると後ろにいる子供と同じ顔をした男の子が立っていた。

「だから僕たちはお姉さんにいいことを教えてあげられる」

後ろに立っていた男の子が前に回ってきてそう言った。

「いいこと?」

アイリスが首をかしげる。

すると少年たちはニヤッと笑いアイリスに耳打ちした。

アイリスは少年たちから話を聞き終わるとしっかりと握手を交わした。

そのままロイを振り切る勢いで三人は走り去っていった。

「…僕はどうすればいいんだ…」


三人はロイを置いてホットヤードのはずれの山を登っていた。

「ねぇ、ほんとにこの先にあるの?」

アイリスが息を切らしながら尋ねる。

少年たちは息を切らす様子もなく答えた。

「まぁ安心してついて来てよ。ちゃんと僕たちしか知らない秘湯があるからさ」

三人がしばらく歩くと木々の間に小さなクレーターのようなものが見えた。

「嘘だろ…?」

少年たちはその場で立ち尽くしてしまった。

アイリスは少し不思議がりながらクレーターの中に入っていく。

クレーターの中心部には小さな穴が開いていて、その周辺が濡れていた。

「もしかして…」

「そうだよ。ここが僕たちの秘湯だった場所だ」

少年の片方が下りてきてそう説明する。

「ついこの間来たときはしっかり温泉が湧いていたのに…」

少年は肩を落とす。

「何だ、そういう事なら私に任せて」

アイリスは胸を張ってそう言う。

少年の目には希望と期待の光がともっていた。

「まぁ見てて。過去へ戻れ、“ウル…」

「待って!」

少年はアイリスの手を取って止める。

その気迫にアイリスはたじろぐ。

「ここの温泉は魔力に反応して酸化が始まってしまうんだ。魔法を使うつもりならやめてほしい」

アイリスはうーんとうなりながら考える。

「そうだ!温泉って地下にたまっているものよね?そして最近まで沸いていたのなら上のほうにひびが入っているはず。ならそこを砕ければ一気に噴き出してこないかしら」

口に出してから気づく。自分が無茶なことを言ったことに。

アイリスはその場に座り込んでしまった。

少年は驚いた顔をしている。

(ああ、私がばかなことを言ったから固まっているのか)

「それだ!」

上のほうに立っていた少年が叫びながら降りてくる。

「それだよアルヴィン!その穴を砕いてみよう!」

アルヴィンと呼ばれた少年はもう一人の手を取る。

「そうしようか、アルヴァ。でも、どっちがやる?」

アルヴァと呼ばれた少年が腕を組んで考える。

アイリスはその様子を口を開けてただ見ていた。

「よし、コイントスで決めようか。表なら僕、裏ならアルヴァだ」

アルヴィンはポケットからコインを出して弾く。

手を開くとコインは裏になっていた。

「よし、じゃあやるか!」

アルヴァはそういうと腕を前に出して呪文を唱える。

「固まれ“ロック”!」

アルヴァの拳が岩を纏う。

その拳をアルヴィンのほうに向けた。

アルヴィンは頷き、近くの岩を触る。

「共鳴しろ“チューン”」

アルヴィンの手の甲に模様が浮かび、触っていた岩がボロボロと崩れ去る。

そしてアルヴァが勢いよく地面のひびを殴った。

しばらくして岩の穴からちょろちょろと温泉が湧き出てきた。

アイリスが口を開けて驚いているとアルヴィンは少し悲しそうな眼をした。

「驚いたでしょ?これは悪魔の力だよ」

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