LⅩⅣ
王都に向かって歩き始めて数時間。一行は王都を囲む壁を目の前にして立っていた。
王都に入るための門の前には、当然のごとく憲兵と思われる人が二人立っており、中に入る人を審査しているようだった。
「次!そこの奴前へ!」
憲兵はクラークを指さして呼び出す。
クラークは落ち着いた様子で、その呼びかけに応えた。
「名前と職業と用件を述べよ」
「クラーク・エイデン。学者をしております。あそこの者たちと一緒に旅をしている最中でして、その道中で都のほうに立ち寄ってみたいというものがいたので」
それらしいことをすらすらと答えていく。
憲兵はその答えを聞いて、アイリスたちのほうを睨んだ。
しかし、すぐに視線を外す。
「次!そこの子供だ」
アルヴァとアルヴィンはおとなしく指示に従う。
「お前らも来い」
憲兵はロイとアイリスも指さす。
憲兵の態度にアイリスは少しイラついたが、深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
「順番に名前を言え。それと、職業、用件もだ」
「えっと、アルヴァ・コールズです。職にはまだ就いてないです。用件はクラークさんと同じで旅の途中で都を見てみたいと思いました」
「アルヴィン・コールズ。同じく職には就いてないです。アルヴァと同じく旅の途中です」
二人ともぎこちないながらも、疑われないように自然に装った。
「…ロイド・コールズ。職にはついてない、旅の途中だ。てか、ここにいるのはみんな同じ旅団だ。これを聞く意味はあるのか?」
ロイはさらっと偽名を言う。ロイに関しては、記録が残っている可能性がある。アルヴァ達と同じ名前であれば兄弟にみられる。いい判断だと、アイリスは感心した。
「確認のために全員に聞くようにと伝令が出ている。無駄なことなど一つもない」
憲兵は無機質に返事をすると、アイリスのほうを見た。
「お前は?」
「あ、アイリス・ブラウンです。えっと、職業はクラーク先生の助手をしています。この者たちと旅をしています」
アイリスは子供にみられたとはいえ、アルヴァ達よりは年上にみられる。職に就いていないというのは怪しまれる原因になる。とっさに、クラークのウソに乗っかることにした。
「あそこの者は?」
憲兵はネジ子を怪訝そうに見る。
頭に刺さる大きなネジが気になるのだろう。確かに、事情を知らなければあれは異様な光景だ。
「あれは、私たちの旅を護衛するために私が作った自動人形です。気になるのであれば調べますか?」
クラークは微笑みながらネジ子を憲兵の前に突き出す。
「……」
事情を察したネジ子は何も言わずに、憲兵をじっと見つめた。
「い、いや、大丈夫だ。よし、少し待っていろ」
憲兵はそそくさと詰所の中に戻っていく。
しばらくして、一枚の紙を持って戻ってきた。
「これはこの王都に入る許可証だ。肌身離さず持っておけ。くれぐれも問題を起こさぬように」
そう言って、憲兵はもう一人に合図を送る。
すると、王都の門がゆっくりと開き始めた。
「さぁ、入れ」
憲兵に促されるまま、アイリスたちは王都の中へと入っていった。
「今の旅団の名前の紙、俺に渡してよ」
憲兵に話しかける一人の男。
その男は憲兵と同じように鎧を着ているものの、憲兵のものとは違うデザインのものだった。
その男を見るなり、憲兵はビシッとした敬礼をする。
「これでしょうか」
憲兵は男に記録を渡す。
「そうそうこれ。ふーん、アイリス・ブラウンか…」
男はそう言ってニヤッと笑った。
「うわぁ…」
アルヴァとアルヴィンの口から感嘆の息が漏れる。
王都は今まで立ち寄ってきたどの町よりもはるかに大きかった。
アイリスも声には出さないが、静かに興奮していた。
「さて、とりあえず入ることができたがこれからどうしようか」
ロイはキョロキョロしているアイリスに話を振る。
「え!?ええと、そうね。とりあえずは宿探しかしら。それから自由行動にしましょう」
アイリスはそう言うと、近くを通った住人と思われる男に声をかける。
「すみません。私たち旅のものなのですが、このあたりに宿屋はありますか?」
「ああ、それならそこの角を右に曲がれば一軒あるよ」
「ありがとうございます」
「気を付けてね、ブラウン家のお嬢さん」
「え?」
アイリスはその男が歩いて行ったほうを見るが、そこには男の姿はなかった。
アイリスが首をかしげていると、後ろからロイの呼ぶ声が聞こえた。
「どこにあるかわかったかい?」
「え、ええ。そこの角を右に曲がったとこだって」
アイリスはさっきのことは聞き間違いだと流すことにした。
角を曲がると、男の言う通り一軒の宿屋があった。
一部屋当たりの金額もそこまで高いわけではなく、旅人には優しい宿だった。
「さ、自由行動にしましょう」
部屋につくなり、興奮した様子でアイリスは外に出ていこうとする。
しかし、ロイがそれを引き留めた。
「ちょっと待った。僕たちはある意味憲兵をだましてここにいる。個別行動は危険だと思うんだ」
「それじゃ、二人一組にしましょう。これなら、何かあった時でもなんとかなるでしょう?」
アイリスは早く外を見に行きたい様子で、話を切り上げようとする。
「それじゃ、アルヴァとアルヴィンが心配だ」
「ああ、もうめんどくさいわね。それじゃ、アルヴァ、アルヴィンはクラークと。私とロイとネジ子、これで三人一組。これでどう?」
「よし、じゃあ自由行動開始だ」
ロイのこういうところで急に仕切り始める所は正直アイリスは苦手だった。
仲間を守る配慮なのだろうが、急に水を差されたような気がしてイライラする。
(最近、ロイと合わないわね…)
アイリスはそんなことを思いながら、宿を後にした。




