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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第四章 王都
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LⅩⅢ

新章突入です。この先アイリスたちを待ち受けるものとは…

「ねぇ、ロイ」

夜も更けあたりが暗闇に包まれたころ、隣で寝ようとしているロイにアイリスが投げかける。

「なんだい?」

「ロイって王様嫌いなんでしょ?」

「そうだけど、それがどうかしたかい」

「いや、なんでだろうと思って」

ロイはしばらく考え、重い口を開いた。

「今の王は魔術師嫌いで有名なんだ。王都に入った魔術師を難癖付けて、牢屋にぶち込むなんてうわさもある。大戦のことがあるとはいえ、いくら何でも投獄はやりすぎだろ」

確かにそれらしいが、それだけではないということをアイリスは直感で悟った。

しかし、ここで言及しても意味がない。それは、今までのロイの言動から理解していた。

「明日も早いんだ。そろそろ寝ないと」

ロイはそう言って話を終わらせる。

「そう、ね。おやすみ、ロイ」

アイリスも目を瞑ることにした。


翌朝、まだ太陽が完全に顔を出す前に、ノーツ・アクトは出発した。

この時間に起きるのが堪えたのか、アルヴァとアルヴィンはまだ、ふらついている。

それは、アイリスも同じだった。

「まったく、だから言ったのに」

ロイはアイリスの腰を少し強めにたたいた。

「ひゃあっ!」

完全に油断していたアイリスは、背後のロイに気づかず、ロイを巻き込んでそのまましりもちをついた。

「うぅ…、なにすんのよ…」

強く腰を打ったのか、アイリスはずっと腰を抑えている。

しかし、それ以上にダメージを負ったのは、ロイのほうだった。

「ア、アイリス…。潰れる…」

その声が聞こえるまで、アイリスは下敷きになったロイの存在に気づくことはなかった。

アイリスははっとなり、急いでロイの上から降りる。

よろよろとしながらロイはアイリスをにらんだ。

「な、何よ…。上に乗ったことは謝るけど、そもそもロイがいけないじゃない…」

泣きそうになりながらも、アイリスはひかない。

「ほら、喧嘩するなって」

ネジ子がロイをなだめる。

「さて、二人とも落ち着いたところで、あれを見てくれ」

クラークが指をさす先には、大きな建物の影が朝霧の奥にうっすらと見える。

それが何なのかはすぐに分かった。

「あれが、王都…」

ここからそう遠くないところに、この国を治める王が住んでいる。

アイリスはロイの話を思い出した。

あそこに住んでいるのは魔術師を投獄する暴君。

(もし、ロイの話が本当だったら私たちも無事では済まないかもしれないわね…)

アイリスはその場で考え始める。

しかし、仲間たちは楽観的だった。

「王都っていうくらいだから、今まで見てきた町よりずっと栄えているはずだよね!」

「ああ、今まで見たことないものがいっぱいある町だ」

アルヴァとアルヴィンは目を輝かせている。

「ロイ、昨日の話の通りだったら私たちがこのまま入るのは問題があると思うのだけれど」

アイリスはロイにこっそり耳打ちする。

「そうだな…。それなら、レイチェルにでも頼んでみるか。レイチェル、ちょっといいかな」

ロイはネジ子に手招きをする。

レイチェルに話をする以上、どうしてもネジ子には聞かれてしまう。

まぁ、別に秘密にしておく必要性もないが。

レイチェルはクラークたちに気づかれないように、こっそりアイリスたちに近づいた。

「あの子たちにはあまり気づかれないほうがいいよね?」

レイチェルはロイの呼び方ひとつで、いろんなことを察したようだった。


「ふーん、それは確かによくないわね…。でも、魔術師が嫌いなら都に入る前に審査があるんじゃないかしら?それなら、何をしてもばれてしまうと思うのだけど」

レイチェルはそう言って顎に手を当てる。

「確かにその可能性はあるかも…。でも、魔力が少ない人が魔術師を判別するなんてできないはずだし、かといって魔術師を雇うっていうのも魔術師が嫌いならしないでしょうし…」

「手っ取り早いのは偽装か。ただ、今の状況で偽装できるものなんて持ち合わせてないよな…」

「それなら、私の荷物の中に入ってるぞ」

「うわぁぁ!」

いつの間にか、アイリスの後ろにクラークが立っていた。

「そんなに驚くことはないじゃないか。君たちがこそこそ話をしていたからね、気になるのは当然のことだろう?」

心配そうにクラークの影からアルヴァとアルヴィンが出てくる。

「あの、僕たち王都に入れないんですか?」

「その心配はないよ。魔法院でちゃんと買い物をしておいたからね」

クラークはそう言うと、おもむろにロイのローブをはぎ取った。

そして、自分のカバンをあさり始める。

しばらくしてカバンから出てきたのは、白いチョークのようなものと、金色の糸だった。

「さて、いつぞやの約束を果たそうか」

クラークは糸を使ってローブに複雑な刺繍を縫っていく。

「これ、防護魔法の式ですよね」

アイリスはその様子を見ながら、感心している。

クラークの技術は繊細で、なおかつ素早い。これほどまでの技術を持っているのは、魔術師の中でも相当少ない。

「よし、まずはこれで大丈夫。あとは…」

糸を置き、チョークに持ち替えると素早く陣を描いた。

「さ、これで大丈夫なはずだ。ロイ、試しに着てみて」

ロイはローブを受け取り、そでを通す。

すると、ロイから出ていた魔力の流れがきれいに途切れた。

「すごい…、こんなにきれいに魔力を遮断できるなんて…」

「ははっ、若いころはこういったものしか研究していなかったからね。さて、君たちもやってあげるから貸して」

それから全員分の防護魔法を仕上げるまでに時間はかからなかった。

寸分の狂いもなく作られた魔法陣は、その役目を十分に発揮している。

「おぉ…」

ネジ子は物珍しいようにローブを見つめている。

「それじゃ、王都に向けて出発しましょうか」

アイリスは気を取り直して、王都を指さした。

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