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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第三章 神域ヴァルハラ
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LⅧ

トーラはフロストにゆっくりと近づく。

「お願い…許して」

フロストは涙を浮かべ、後ずさりする。

「許して?自分から始めたくせにか?まぁ、安心しろ命までは取らない。約束だからな」

トーラはフロストとの距離を一気に詰める。

「はい、ストップ」

何の前触れもなく、二人の間に一人の男が立った。

「アローン…!」

フロストはトーラから逃げるようにアローンの後ろに隠れた。

「俺は君を助けに来たわけじゃないんだけどな」

後ろに隠れたフロストを見てアローンは言う。

そして、すぐにトーラのほうを向いた。

「初めまして、かな。俺の名前はアローン。色彩の神だ」

アローンはニコニコしながらトーラに近づく。

「チッ」

トーラは舌打ちをすると、そのまま糸が切れたように崩れる。

しばらくして起き上がると、その顔はいつものアイリスだった。

「ふぅん…君、なかなか面白い“色”をしているね」

アローンはアイリスの顔を見てニヤッと笑う。

しかし、当の本人はいまだに何が起きたのか理解していなかった。

「フロスト、とりあえず彼らを解放してあげたら?」

アローンはノルンの神殿のほうを指さした。

「……」

すっかり戦意喪失したフロストは、黙ってロイたちを解放した。

それと同時に仲間たちがアイリスに駆け寄る。

「アイリス!」

アイリスは辺りを見渡す。

その視界に氷漬けになったバーニーを捉える。

「大丈夫、彼女は凍っているだけで命は消えてないわ」

レイチェルがアイリスに耳打ちした。

ほっとアイリスは胸をなでおろす。

「とりあえず俺たちは帰るよ」

アローンはそう言ってすっかり大人しくなったフロストを連れて去っていった。

「あの二人は何だったの?」

「彼女たちは大神の娘です」

ノルンはアイリスの問いに真剣な口調でそう答えた。

「おそらくあなた方を生きて返さぬよう言われているのでしょう。そして、彼女たちの標的の中に、私も含まれていると思います」

ノルンはそう言って悲しげな表情をした。

しかし、すぐに元に戻る。

「でも安心してください。あなた方は私が責任をもって地上に帰します」

「でもそれじゃ…」

心配そうな顔をするアイリスを遮るように口に人差し指を当てる。

「大丈夫、私にも考えがあるわ」

ノルンはそう言ってニコッと笑った。

「それで、どうやってあの大神の攻撃をかわして階段を下るんだ?」

ロイがノルンに詰め寄る。

するとノルンはアイリスを指さした。

「“あれ”を使えばすぐに出口に行けるわ」

ロイたちはノルンの人差し指の先、アイリスがぎゅっと握っている指揮棒を見る。

「あれはいったい何なんだ」

ロイが聞くものの、ノルンは頑なに口を開かない。

「これをどう使えばいいの?」

アイリスが二人の間に割り込んだ。

こうでもしなければ、ロイはずっとノルンの前から離れない気がしたからだ。

「そ、そうね。詳しいことを説明しないと」

ノルンは少し焦りを見せる。

慌てた様子でどこかへ走っていった。

しばらくして一本の木の枝を持ってくる。

「まず、門の形を作りたい場所に描く」

そう言いながらノルンは地面に扉のような絵を描いた。

「次に、通る者の魔力を送り込む」

扉の絵の横に人間の絵を描きこむ。

「最後に、現れた門にその指揮棒を指して回せばあっという間に下界に着くわ」

矢印を書き、その先で喜んでいる人間の絵が描かれた。

「さ、やってみて」

ノルンはアイリスに言った。

アイリスはノルンが言った手順を思い出し、真似してみることにした。

「まず、門の形を作りたい場所に描く…」

頭の中でここに来るとき通った立派な石の門を思い浮かべる。

それを簡略化して地面に描いた。

「これが門?アイリス、君は絵もろくに描けないのか」

ロイはアイリスの絵を見て、深いため息をつく。

「失礼ね!ちゃんと門の形じゃない!ね、アルヴィン?」

アルヴィンは顔を引きつらせて苦笑いをした。

「何よ、皆して」

アイリスは不貞腐れながら自分の書いた門を少しずつ修正していく。

しばらく修正を繰り返し、ようやく門の形になった。

「次に、通る者の魔力を送り込む…」

ここでアイリスは気付く。

「ネジ子はどうやって通るの?」

仲間の目線がネジ子に集まった。

ネジ子は魔力を持たない。その為、この工程ができないのだ。

しかし、レイチェルだけがすべてわかっているかのような顔をしていた。

「簡単な話よ。ネジ子の中には私の魔力の残滓があるから、それがネジ子に定着しているはず。それなら、ネジ子にも魔力があることになるわ」

レイチェルの言うことは確かに理解できた。

だが、ノルンはあごに手を当てて考えている。

そして、少し困ったような顔をした。

「もともと体内で生成された魔力ならわかりますが、そうじゃないとなると私でもどうなるか分かりません。かなり確率の低い賭けですよ」

「確率が0だったらやばかったけど、少しでもあるなら大丈夫だ。なんせ、俺がいるんだからな」

ダイは自信満々に自分を指さした。

ノルンはダイの顔を見て、少し安心した顔をする。

「そうですね。あなたがいるなら問題ないかもしれません」

ノルンからダイへの信頼を感じた。

「そろそろ、準備はいい?」

アイリスがそういうと、仲間たちはみんな門の絵に手を置いた。

そして、一斉に魔力を送る。

全員の手から淡い光が門の絵に流れていく。

だんだんと門の絵自体が発光していき、その輪郭を輝かせる。

次の瞬間、振り払われそうになるほど地面が揺れた。

「まずい、気付かれた…!」

ノルンは階段の上の方を見る。

「皆さん、急いで!」

「分かってるよ!」

ロイは焦りながら、声を荒げた。

少しずつ空が黒くなっていく。

「来た!」

アイリスはそう言って門の絵から手を離す。

すると、その絵から門が少しずつ現れる。

やがて、完全に門が現れると、その中心辺りにある窪みに指揮棒を挿す。

それを鍵の要領でひねると、門がゆっくりと開いていった。

その時、アイリスたちの後ろで激しい爆発音が鳴る。

「逃がすと思うか…!」

「みんな、行くよ!」

アイリスの号令で一人ずつ門をくぐる。

そして、最後にアイリスがくぐろうとした時、

「逃がすか!」

後ろから物凄い勢いで何かが飛んでくる。

それが地面に着くと同時に辺りに轟音が響く。

周囲は砂ぼこりに囲まれ、何も見えなくなった。

「アイリス!」

ロイの声が空しく響く。

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