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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第三章 神域ヴァルハラ
50/64

L

???編 始まるよ

魔法院を発って数時間後、アイリスたちは窮地に瀕していた。

「おいおい、そんなもんかよ。せっかく魔法院から伝令が出たから来たのに、そんなんじゃ面白くないだろうが」

見ず知らずの男に奇襲をかけられ、ロイとアルヴァが腕に傷を負った。

発言から察するにこの男は魔術師のようだ。

「伝令って何よ…」

アイリスはそう言って男を睨む。

「まぁ、知りたければ教えてやる。ついさっき魔法院上層からお触れが出た。『ロイ・ブラッド及びアイリス・ブラウンを発見次第拘束、それが不可能と判断した時は抹殺せよ』ってな。嘘だと思うならコネクトカードを見てみるといい」

男はアイリスの懐を指さす。

そこから淡い光が漏れていた。

アイリスはコネクトカードを取り出し、そこに書かれている文字を読む。

そこには男が言った言葉が一言一句たがわずに書かれていた。

「どうして…?」

「どうしてかなんて、お前らが知る必要はないだろ。それで、どうする?ここで大人しく拘束されるか、死を選ぶか」

男の周りに魔力の渦が現れる。

まがまがしく、どす黒い魔力の渦は少しずつ大きくなっていった。

「決まってるだろ、どちらも選ばない」

アイリスが死を覚悟した時、男の後ろから聞き覚えのある声がする。

「喰らいつくせ“イーター”」

黒い獣の顔のようなものが現れ、男を飲み込む。

「な…」

男は何かを言いかけて、その場から完全に姿を消された。

「まったく、面倒なことになったな」

さっきまで負傷して、しばらく回復に専念していたロイが男がいた場所を見ながらそう言った。

その腕に、もう傷はなかった。

「私たち、悪いことしたかしら…」

アイリスは冷静になって今までの旅を振り返る。

サイフォートでは偽物とはいえ、市長を殺した。

死の谷に行ったときは、そこにいた霊魂をすべて肉体に戻した。

「…結構やっているわね。悪いこと」

アイリスは頭を抱える。

「でもそれだとしたら、僕たち二人だけっていうのが気になる。そのことが伝わっているのだとしたら、ノーツ・アクトの全員を対象にするはずだ」

ロイの言うことはもっともだった。

アイリスとロイの二人だけを対象にした伝令。

ノーツ・アクトはその意図が分からなかった。

「とりあえず、ここから先は魔法院からの刺客たちに注意しながら進みましょう」

用心に越したことはない。

周囲を警戒しつつ、草原を進んだ。

「そんなに気張ってたら、すぐに倒れちゃうんじゃないの?」

アイリスのすぐ後ろから声がする。

「誰!?」

アイリスが勢いよく振り返る。

そこには見たこともない男がいた。

しかし、地面に立っていたわけではない。

地上から30㎝程のところに浮き、胡坐をかいていた。

「キャア!」

アイリスは男に驚いてしりもちをついた。

「そんな、暴漢に襲われたような声を出さないでくれよ。俺が悪いみたいじゃないか」

男はふわふわと浮きながらアイリスに手を差し伸べる。

「……」

アイリスは言葉を失った。

「ああ、知らない人の手を取っちゃいけないっていう教育を受けたのかな?君の両親はしっかりと教育しているみたいだ」

男は独りで納得し、自分の胸に手を当てた。

「俺は、ダイ。魔法院に登録している魔術師で、番号は“00”。『死亡遊戯リスキーゲーム』って名前があるけど、長いでしょ?ダイでいいよ」

男はニコニコしながら自分の自己紹介を終えた。

「“00”!?」

ダイが言った番号でノーツ・アクトに緊張が走る。

分類0、無分類のゼロナンバー。

つまり、無分類最強の魔術師が刺客として現れたのだ。

どうあがいても、勝ち目がない。

アイリスはそう悟って、その場から動けなくなってしまった。

(ああ、こんなにも早く旅が終わってしまうのね…。まだ、私にはやることがあるのに…)

すると、ダイはアイリスにゆっくりと近づいていった。

そしてアイリスの顔に手を当てる。

「やめろっ!」

ロイがアイリスに手を伸ばすが遅かった。

「最高のスリルを“遊戯室ゲームルーム”」

台が呪文を唱えると辺りの景色が急に変わる。

さっきまで昼だったはずの空は真っ黒な天井になり、雲一つ見えない。

そこら中に草が生えていたはずの地面は全て、赤いカーペットが敷かれていた。

そしてその真ん中に、スポットライトで照らされたテーブル。

そこにダイがいた。

「ようこそ、俺の部屋へ」

ダイは客人をもてなす店主のような声色でそう言った。

「そう緊張するなよ。俺は君たちを殺すつもりはないからさ」

ダイはテーブルの前に椅子を置き、座るように促した。

アイリスはダイを睨みつけながら、ゆっくりと座る。

ギィと嫌な音を立てて、木製の椅子が軋んだ。

「ほら、君たちも」

ダイはロイたちをテーブルに誘導する。

「改めて自己紹介をさせてもらうよ。俺は“00”、『死亡遊戯リスキーゲーム』のダイだ。俺の魔法は制約と特典の付いた空間を作り出す魔法。魔法院に登録している魔術師の中で唯一空間を作り出せる魔術師だ」

ダイは少し真剣な顔になって話をする。

「この遊戯室での制約は攻撃の禁止。これを破ることはできないし、万が一何かしらの力で破ったとしたら、罰が下る。そして特典。それは“何でも賭けられるゲーム”を行うことができることだ。まぁ、この部屋は君たちと安全に話がしたいからこの制約ってだけだ。気にしないでくれ」

ダイはそう言ってテーブルにいくつかの紙を並べる。

そこに書かれているものは、アイリスたちが今までの旅でやってきたことだった。

ダイはその中から一枚を手に取り、アイリスに渡す。

「このことについて、知っていることはない?」

ダイから渡された紙を呼んでアイリスは目を見開いた。

そこには、死の谷でおきた霊魂復活騒動のすべてが描かれていたのである。

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