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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第二章 魔法院
49/64

ⅩLⅨ

魔法院編完結(短め)

翌日、アイリスたちはムドウとトラズに見送られて魔法院の正門に立っていた。

昨日のうちに身支度を済ませておいたおかげで、出発までの時間を各々有意義に過ごすことができた。

みんな満足そうにカバンを覗く。

「短い間、お世話になりました」

アイリスは深々とお辞儀をする。

ムドウとトラズはこういうことに慣れていないのか少し照れくさそうにしていた。

「そうだ、これを渡しておくのを忘れてた」

ムドウはそう言って一枚のカードを取り出す。

「このカードはコネクトカードといって、魔法院に登録している魔術師たちが連絡に使うものだ。相手の番号、もしくは名前を書くことでその人と連絡が取れる。一度連絡したら書いた文字は消えるから何回でも使えるよ」

アイリスは受け取ったカードをまじまじと見る。

何の変哲もない白いカード。

試しに“02”という番号を書く。

すると、トラズの懐に淡い光が灯った。

トラズは光を放つカードを手に取り、すらすらと文章を書いていく。

そして、アイリスにカードを見るように促した。

そこにはトラズの文字で、

「こういう感じで使える。何か困ったことがあれば連絡してくれ」

と書かれていた。

「おお」

仲間たちが感嘆の声を上げる。

「ありがとうございます」

アイリスはそのカードを懐にしまい、改めて二人のほうを向く。

「それじゃあ、行ってきます」

丁寧に頭を下げ、まっすぐ前を見る。

そこに広がっているのは草原だった。

アイリスはその先にある王都を見据えて一歩を踏み出す。

「気を付けて行ってらっしゃい」

ムドウが我が子を見守るような眼をアイリスたちに向けながら言った。

アイリスは足を止めて振り返る。

そして目一杯の笑顔をして手を振った。

しかし、その心の奥底に何か黒いものがいるような気がした。

その黒いものは少しずつ大きくなり、やがてアイリスの脚を止めるほど重たくなった。

「落ち着け、アイリス。アイリスに何があっても私たちがいるんだ。安心して旅を続けよう」

ネジ子がアイリスの不安を払拭するかのようにそう声をかける。

アイリスはその言葉に少し救われた。

きっとあのままだとトーラの存在に押しつぶされていただろう。

「ありがとう」

アイリスはそう言ってまた歩き出した。

さっきの一歩よりも力強く。

「…本当に大丈夫だろうか」

ムドウはまっすぐ前を見たまま、トラズに話しかけた。

「アイリスたちだぜ?大丈夫だろ」

トラズのその返事を聞いてムドウはふっと表情を緩めた。

「さてと、俺たちも戻るか」

「そうだな」

短く答え、二人は魔法院の中へと戻っていった。


時を同じくして、魔法院 上層会議室

魔法院を一望できる位置にあるこの部屋は現在、カーテンを一枚挟み外の世界から隔絶されていた。

その暗い部屋をランタンが炎を揺らめかせながら照らす。

部屋には六人の人物が椅子に腰かけていた。

「その話は本当なのか?」

シルクハットをかぶった男が落ち着いた声で言う。

「ああ、ムドウの報告ではな。それと、アノーグスで一人やられているらしい」

今時珍しい水タバコを吸いながら、一人の女性が返した。

「それじゃあ…」

メガネをかけた男が不安そうに身を縮こまらせる。

「ロイ・ブラッドがまだ生きている、そういう事になる」

細身の男が磨いていた銃を構えた。

「だから、我々がそろった。魔法院上層会議団がな。のう、院長」

立派なひげを蓄えた男性がしわがれた声でそう言う。

「そうだ。この件は私の一任で決めるにはことが大きすぎる。君たちの判断を仰ぎたい」

小奇麗な服を身にまとい、深々と椅子に座る女性。

声色は落ち着いているものの、どこか焦っているような印象だった。

「判断も何も…」

「決まりきったことを…」

皆答えは同じだった。

「私が聞くまでもなかったな。全魔術師へ通達しろ、『ロイ・ブラッド及びアイリス・ブラウンを発見次第拘束、それが不可能と判断した時は抹殺せよ』とな」

女性は椅子を回転させ、五人に背を向ける。

会議が終わったことを示す合図だ。

五人はまるで最初からいなかったかのように姿を消す。

その場所に一人残った女性はカーテンを少し開け、外の景色を見る。

下に見える魔法院は人々が思い思いにせわしなく歩いている。

しかし、みんな満足そうな笑顔を浮かべていた。

「私はこの景色、この笑顔を守る為ならばどんな試練だって乗り越えてきた。

だが、どうしてお前は私の前に立つ…。どうしてお前は、私に罪を犯させる…。どうして…」

女性はその場に泣き崩れた。

小奇麗な服が涙で濡れていく。

それでもお構いなしに泣き続けた。

顔をぐしゃぐしゃにして、泣いた。

テーブルに置かれたランタンの炎がゆらゆらと揺れながら、その様子を照らし出す。

しばらくして涙をぬぐって立ち上がる。

その眼には覚悟の炎が宿っていた。

「お前が私の前に立つならば、私はお前を切り捨てるだけだ。私はこの国を守ると約束したのだ、約束は果たさなければならない」

そう言って、女性はランタンを消し、部屋を出ていった。

第二章魔法院編 完

次回、新章突入―

???編開幕

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