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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第二章 魔法院
47/64

ⅩLⅦ

「…そんな…私が」

アイリスは口を押える。

全てを話し終えたムドウが黙って頷く。

「しかし、いったいどういう事なんだろうな」

ロイはグランを見て不思議そうな顔をする。

「トーラが出てきたこともわからないし、何よりトーラの技がよく分からなかった」

彼女が口に出したのは魔法ではない。

“異法”という言葉だった。

この場にいる誰もそんな言葉を聞いたことがない。

「“異法”か…。確か、どっかで見たな」

ムドウはそう言って管理局へと戻っていった。

取り残された八人は各々考察を始める。

「そもそも、どうしてトーラがいるんだ?」

「それは私がトーラの子孫だからじゃないの?」

アイリスは浮かない顔をして答える。

「あなたが責任を感じることはないわ。血筋なんて誰にも選べないものよ」

レイチェルが慰めるように言うが、アイリスの表情は暗いままだった。

「見つけたぞ」

ムドウが一冊の本を持って出てきた。

地面の瓦礫をどかし、本を開く。

その本は今使われている言語とは違うもので書かれていた。

「…何が書かれているの?」

レイチェルがムドウに尋ねる。

「『後世の為にこの戦を記す。もし、これを読む者がいたのならば二度とここに書かれていることをしてはならない』か、大戦の記録みたいだな」

ロイが本を覗いてすらすらと読み始める。

レイチェルは言葉を失った。

「どうした?」

ロイは不思議そうにレイチェルを見る。

「何で読めるの…?」

「僕は大戦の前から生きているんだ。読めるに決まっているだろうが」

それもそうかとレイチェルは納得して、本を見る。

しかし、納得できたのはそのことを知っているノーツアクトのメンバーだけである。

「え?大戦前?」

ムドウとトラズは目を点にして驚く。

「僕は君たちの先祖に会ってるかもな」

「……」

口を開けたまま固まっている二人をよそにロイは本を読み進める。

「『この戦、元は市民による魔術師の迫害であった。それに憤りを覚えた魔術師は市民に宣戦布告、もとい市民の大量虐殺を始めた。これに対し市民は“報復”をした。我らはこの戦を戒めとして後世に遺すことにした』…あれ?」

「どうしたの?」

「ここから先はいろんな言語で書かれてる。その中に今使われているのと同じ言語があった。つまり、この言語を使う人々が生き残り、この大陸の復興を果たしたってことになる」

ロイは自分で言って首をかしげる。

「この言語を元々使っていたのはニール族だ」

ムドウは本を覗き込んでそう言う。

「あれ?でも大戦後の最初の王様って…」

「ああ、最初の王サリバンはニール族じゃない。それどころかニール族を敵対視していた」

「それじゃあどうして…」

「簡単だよ」

ロイが議論に口をはさむ。

「この世界の復興にはもう一人、立役者がいる。魔法院初代院長、チェルだ」

チェル。

アイリスはその名前に聞き覚えがなかった。

しかし、ムドウは真剣な表情でロイの話を聞く。

「確かに君の言う通りチェルはサリバンと協力して大戦後の世界に秩序をもたらした。そして彼女にはニール族の血が混ざっているという説もある。しかし、それはただの仮説でしかない」

「仮説じゃない。僕がこの目で見た事実だ」

「君はチェルにあったというのか?それはあり得ない。彼女は人嫌いで有名だ」

「ムドウ、君に信じろとは言わない。ただ、可能性を頭ごなしに否定するな」

ロイとムドウの間に確執が生まれた。

途端に空気が重くなる。

「…『この戦を終結へと導いた者たちがいる。その中でもトーラ・ブラウンはひと際異彩を放っていた。彼女の使う魔法はもはや魔法とは呼べない。魔法とは異なるようなその絶大な威力から“異法”と呼ばれているその技はひとたび放つだけで辺りを焦土にするほどである。その技が戦の抑止力となり、少しずつ終戦へと向かっていった』」

ロイは静かに本の朗読を再開した。

異法という言葉にアイリスが体を震わせる。

トーラ・ブラウンについての記述はそれだけであったものの、彼女の魔法の才能を垣間見るには十分だった。

そんな彼女がアイリスの身体に宿っている。

ロイは目を閉じて集中する。

(トーラ・ブラウンはその強大な力を抑止力にして、大戦を終結へと導いた。しかし、それがどうして今頃になって現世に戻ってくる?それに、さっきのトーラは異様だった。あれは英雄というより…)

「悪魔…か」

ロイはボソッと呟いた。

その言葉は誰の耳にも届いている様子はなく、それぞれが様々な感情を抱いていた。

「とりあえず、トーラと異法について書いてある書物はこれだけだ。彼女は英雄と言えど、その魔法の圧倒的威力から人々に怖れられていたらしいからね」

ムドウはそう言って本を閉じた。

「一応もう一度探してくるよ」

ムドウが立ち上がると、

「私も手伝うわ」

アイリスはムドウの後について行った。

あの空間はどうも居心地が悪い。

あそこから逃げ出せるのであればもう理由などどうでもよかった。

アイリスとムドウは管理局の本棚の奥へと消えていった。


管理局 情報整理室

「ふぅ…」

アイリスは少し埃っぽい本棚に寄り掛かって一息つく。

あの場所の居心地の悪さから比べたらこの埃の方が幾分かはましだ。

ムドウは遠くの方で本を探している。

それを眺めながら近くにあった本を一冊手に取った。

「開発資料…?」

ムドウの物と思われる字で書かれたその冊子をめくる。

そこには魔法工学の技術を利用した様々な機械の設計図などが載っていた。

魔法工学の知識などないアイリスはなんとなくぺらぺらとめくっていく。

その時、冊子から一枚の紙が落ちる。

「何これ?」

アイリスがその紙を見るとそこには

「移動式大型魔力兵器『レーヴァテイン』」

と書かれていた。

その設計図は複雑な計算式がずらりと並び、ところどころに専門用語が出てきた。

「これは私には難しすぎるわね…」

アイリスが冊子に戻そうとした時、その紙の端っこに違和感を覚えた。

よく見てみると紙が張り付けてある。

悪いとは思いつつ、その紙をはがしてみた。

そこには

「この魔力兵器には“古代魔法”の技術を応用する。現在調査中」

「なんか見つかった?」

アイリスの前にムドウが立っている。

アイリスはとっさにその紙を隠した。

「何もなかったみたいだね。それじゃ戻ろうか」

ムドウはいつも通りの顔で歩き始めた。

アイリスはその手に設計図を握り締め、そのあとについて行った。

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