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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第二章 魔法院
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ⅩLⅢ

アイリスたちが部屋に戻ることにはもうすっかり夜になっていた。

しかし、そこまで時間をかけたおかげで万全の準備ができた。

「あれだけトラップを張ってるんだ。どれかにかかるだろ」

ロイは自分で仕掛けたトラップをあまり信用していない様子でそう言った。

その気持ちはアイリスも同じである。

トラップはあくまで時間稼ぎ。

いかに相手の体力、魔力を削れるかというだけの気休めに過ぎない。

ただ、ないよりはましだ。

「よし、もう一度仕掛けた罠の確認をしよう。まず魔法院入り口だ。ここには魔力に反応して発動するマジックジャマーという陣が仕掛けられている。魔法院内での魔力の使用は控えるように言ってあるからグラン以外の魔術師がかかる心配はない。次に、メインストリート。ここの罠は至極単純、ただの探知機だ。魔力の波形には個人差がある。それを利用してグランの波形のみを検出するように組んである。これに反応があったらすぐに次のトラップが作動するようになってる。次のトラップは足止め、痺れ陣と呼ばれる部類の魔法陣が設置されているから、これに引っかかったら一斉に攻撃を仕掛ける魔力機械が置いてある。俺たちのところにたどり着いたころには満身創痍になってるはずだ」

ムドウは一個一個のトラップを丁寧に確認していった。

これでいつグランが来ても迎撃できる。

アイリスは少し迷ってはいるものの、悪を倒すという正義の心は忘れていなかった。

「しかし、ムドウがここまですごい奴とは思わなかった。まさかほとんどすべての罠を一人で作るなんて」

ロイは珍しく人をほめる。

「当り前だろ。こいつは“40”、魔法工学のゼロナンバーだからな」

トラズがムドウのほうを指さしながらそう言う。

「それに、極東の国『倭ノ國』の生まれで唯一の魔術師だ」

トラズの説明に、ムドウは少し恥ずかしそうにしている。

倭ノ國といえば魔法が発達していない代わりに特殊な剣技を使う“サムライ”が住む島国だ。

この大陸とも少しだけ貿易をしているが、アイリスたちは本物の倭ノ國の人に出会ったのはこれが初めてだった。

アルヴァとアルヴィンは目を輝かせている。

「よし、あとはグランを待つだけだ」

トラズはそう言って話を終わらせてから自分の部屋に戻っていった。

アイリスの不安そうな顔を見てネジ子が近づく。

「大丈夫、アイリスがそう思っていれば私たちも大丈夫だから」

ネジ子の言葉にアイリスは小さく頷く。

ほんの少しだけ救われた気分だった。

それから数日待ったがグランが現れる気配はない。

「いつになったらあいつは来るんだ…」

ロイは退屈そうにあくびをしながらそう言った。

そこに緊張感という文字はない。

グランは本当にやってくるのだろうか。

そう思いつつも、罠を解除するわけにはいかない。

もし解除したとたんにグランがやってきたら止める手立てはないのだ。

念のためムドウが魔法院に登録している魔術師を何人か手配はしてくれたが、いつまでもここで待機するというわけにはいかない。

彼らにも本来の仕事というものがある。

自分たちの都合だけで止めておくのは申し訳なくなってきた。

「なぁムドウ。俺たちはいつまで待機?そろそろ新作に着手したいんだけど」

ムドウのもとに一人の魔術師がやってきた。

彼は21、“魔術画家ペインター”。魔法陣を自分の作品に取り入れる絵描きだそうだ。

「分からない。新作に関しては描いてもいいから呼び出しにはすぐに応じて動けるようにしといてくれ」

ムドウは少し額に汗を浮かべながら答える。

ムドウも焦っているのだ。

いつ来るかわからないため、常に気を張っている。

アイリスたちの誰よりも無動には疲労がたまっていた。

「分かったよ。何かあったら呼んでくれ」

魔術画家は自分のアトリエに戻っていった。

「ふぅ…」

ムドウはため息をついて椅子に深く腰掛けた。

朝からこの調子で尋ねに来る魔術師が後を絶えない。

こうなることはわかっていたがいざなってみると意外とつらい。

「大丈夫ですか?」

アイリスが声をかけるとムドウは笑顔を向ける。

「大丈夫。君たちは安心してグランと戦うときの事だけを考えてればいいよ」

そうはいってもアイリスは優しさを持っている。

「私にも何か手伝えることはありますか?」

ムドウは少し驚いた顔をした。

そして微笑みながら、

「それじゃあ罠の確認をしてきてもらえるかな」

と言った。

アイリスは元気良くうなずいて外に飛び出した。


「ここも異常なし。これで全部ね」

最後の罠を確認したアイリスは地図を片手に立ち上がった。

アイリス用にとても分かりやすく書かれた地図はムドウのお手製だった。

「あら?」

戻ろうとしたときにトラズの後姿を見つけた。

せっかくだから驚かしてやろうとこっそり後をつけることにした。

しかし、元々入り組んだ路地をすいすいと行くトラズに追いつけずに見失ってしまう。

「仕方ない。帰りましょう」

アイリスは少しだけ残念そうにつぶやいた。


「おかえり」

アイリスがムドウのところに戻るとみんな集まっていた。

みんな真剣な表情で何かを話し合っている様子だった。

「何があったの?」

アイリスはロイに聞く。

「ああ、グランと思われる人物がこの近くの町で目撃された。ここに来るのも時間の問題、だからこうして最終会議をしている」

とうとう来るのか。

アイリスは少し胸が痛くなった。

「みんな一度聞いてくれ」

トラズが手を叩いて自分に注目させる。

「目撃情報とやつの性格から俺は明日か明後日に来ると踏んでいる。あいつはせっかちなんだ、最短で俺を目指してくるだろう。皆には力を合わせてやつを捕獲するぞ!もうあの時のように悲惨な目に会うのはこりごりだ。奴に借りたもの返す時が来たんだ、利子もつけてしっかり返してやろうじゃないか」

魔術師たちは一斉に力強く腕を上に掲げた。

グランが来たら話を聞こう。

そう心に決めてアイリスも腕を掲げた。

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