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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第二章 魔法院
41/64

ⅩLⅠ

「次は?」

トラズは構えを解いて首を回した。

「私が行きます」

アイリスは真剣な表情でトラズの前に立つ。

そしてゆっくり深呼吸をした。

「第3級“フレイム”」

アイリスの魔法の炎はトラズのほうにまっすぐ飛んでいく。

「なかなか筋がいい。だけど、相手が馬鹿正直にまっすぐ立っているわけじゃない」

トラズは最小限の動きで炎を避けた。

「第4級“バレットインパクト”」

ドンッ!ドンッ!

小さな衝撃波をトラズのほうに飛ばす。

「人の話を聞いていたのか?まっすぐ立っているわけじゃないんだ」

トラズはそう言ってさっきと同じ方向に避けた。

バスッ

トラズの頬を衝撃波が掠める。

「なにっ?」

トラズはとっさに避けた。

すると目の前に炎が見える。

(今の魔法は囮か…!)

ボンッ!

アイリスの魔法はトラズの頭を直撃した。

もくもくと煙が立つ。

「なかなかうまいことをするじゃないか」

煙が晴れるとトラズの顔には傷一つついておらず、代わりにフェンリルが出てきていた。

「アイリス。君の考え方はよくわかった。君は魔法のことをよく理解している。だが、自分の中で完結してしまっている。相手の立場に立って考えろ。もし自分が相手だったらどうするかを考え、そこにぴったり当てはまる魔法を打ってやればいい」

フェンリルはアイリスのほうをじっと見つめている。

その鋭い目つきにアイリスは固まってしまう。

やがてフェンリルがアイリスから目をそらすと、アイリスは全身の力が抜けてその場に崩れた。

「よし、じゃあ今言ったことを実践してみよう…」

トラズはそう言いかけて後ろを振り向いた。

そこには憔悴した顔のムドウが立っていた。

ムドウはひどく慌てているようで言葉がちぐはぐになっていた。

「た…大変だ…」

そんな中で聞き取れたのはそれだけだった。

「何があった?」

トラズはムドウに聞く。

ムドウは黙ってトラズの部屋のほうを指した。

トラズは誰よりも早く自分の部屋へ向かった。


「よぉ、遅かったじゃないか」

トラズが部屋につくと一人の男が机に腰かけていた。

「……」

トラズはその男を睨みつける。

「そんな怖い顔すんなって。せっかく旧友が尋ねてきたのに」

男は口角を上げる。

「どうしてお前がここにいる」

トラズは低い声で言った。

「トラズさん大丈夫ですか!?」

アイリスたちが勢いよく入ってきた。

アイリスは男が放つ異様な雰囲気に背筋が凍った。

「どうしてって言われてもな。友人に会いに来たのがそんなに意外なことか?」

男は机から降りてトラズのほうへ寄る。

トラズは額に嫌な汗が流れるのが分かった。

「久しぶりだな。嬢ちゃん」

男はアイリスのほうを見てそう言った。

アイリスは記憶を探る。

しかし、こんな男に会った覚えはなかった。

「おいおい、俺のことを忘れたのか?まぁ無理はないか。あの時は姿を変えてたしな」

男は少しずつアイリスに近づいていく。

「彼女に触れるな!」

トラズは聞いたこともないような怒鳴り声で男を止める。

「アイリス。この男に会ったことがあるのか?」

ロイがアイリスを見上げる。

「ないわ」

アイリスは即答した。

男はがっかりしたような顔をして、首を横に振る。

「悲しいなぁ…。俺だよ、グランだ」

男はそう言って自分の顔に手を当てる。

その手を外すとそこにはアイリスの知っている顔があった。

「え…」

アイリスは驚きで声が出ない。

トラズはアイリスのほうを向く。

「この男のことを知っているのか?」

トラズの問いにアイリスは半ば放心して頷いた。

無理もない。アイリスにとってグランは旅を始めて最初に助けてもらった人なのだから。

トラズはアイリスのほうを少しだけ見てから、ロイたちに向けて説明し始めた。

「この男はグラン。かつて俺と一緒に修行していた仲間だ。しかし、こいつは自分の力に溺れて魔法院を襲撃した。それが原因でこいつはこの大陸中で指名手配されている」

その説明を聞いてアイリスはその場に倒れこんでしまった。

「力に溺れた?違うね、俺は試したかっただけだ。事実、俺の魔法を止められるやつはいなかった。そうだろう?」

グランはトラズの顔を覗き込む。

「お前もあの時内心ではワクワクしていたはずだ。あれだけ強い魔法を見たんだからな。お前みたいな強さを求めることしか頭にないような魔術師にはたまらない最高のショーだったろ」

「黙れ!」

トラズはグランを押しのけた。

「フェンリル!」

トラズがそう言うとトラズの傍らにフェンリルが出てくる。

フェンリルは牙をむき出しにしてグランのほうを睨みつけた。

「俺たちは兄弟みたいなもんだろ?そんな奴に殺意を向けるなよ」

グランは急に真面目な顔をした。

「“レオ”」

グランがそう言うとグランの横には立派な鬣を持ったライオンが座っていた。

「その魔法はお前だけの魔法じゃない。お前が“フェンリル”なら俺はそれすら喰らう“獅子レオ”だ。以前襲撃の際に使った魔法よりもはるかに強力な魔法を見せてやるよ」

グランは気味が悪いほどに口角を上げて笑う。

ロイたちはまるで悪魔でも見ているかのように動けなくなってしまった。

次の瞬間、フェンリルとレオは勢いよくぶつかった。

「アイリスを連れて逃げろ!」

トラズがロイにそう叫んだ。

その言葉で我に返ったロイがアイリスを担いで仲間たちを部屋から出す。

トラズの背中を少しだけ見る。

(死相は見えない…。だけど、嫌な予感がする)

しかし、ロイが今できることは仲間たちの無事を確保することだけだ。

ロイは仲間たちとともに走っていった。

トラズはそれを確認するとグランのほうに向き直す。

「あの時お前を殺しておくべきだった」

トラズの言葉にグランはふざけているような口調で答える。

「お前には殺せなかっただろうけどな」

トラズの部屋に再び何かがぶつかり合う音が響いた。

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