表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第二章 魔法院
40/64

ⅩL

もう四十話です

「あれは魔法院に登録している魔術師が戦う前に名乗りを上げる戦の合図だ」

ムドウはアイリスの後ろに立ち説明する。

「戦…ですか」

アイリスは唾をのんだ。

「まぁ一桁の魔術師の戦いなんて普段見られないからしっかり見ておくことを勧めるよ」

ムドウはトラズのほうを見つめる。

トラズは真剣な顔で魔法を唱えた。

「おいで“フェンリル”」

トラズの横に狼が現れる。

狼はグルルと低い唸り声をあげて男を睨みつけた。

「そんな狼ごときで俺の怒りが収まると思うなよ!」

男は素早く手を前に構えて呪文を詠唱した。

「炎すら凍てつく冷気を、第2級“フリーズ”」

しかしトラズと狼はあっさりと避ける。

「二級の魔法ですら詠唱しないと唱えられないとは…。話にならないな」

トラズは呆れた顔でそう言った。

そして狼に命令する。

「行ってこい」

狼は大きな口を開き、男に噛みつく。

「させるかぁ!」

男は必死に詠唱した。

「何物も通さぬ壁よ今わが前に、第3級“ウォール”」

男の魔法は狼の口の中に壁を出現させた。

しかし狼はいとも簡単に壁を男ごとかみ砕く。

「ぐぁぁ…」

男の声にならない悲鳴が響いた。

「神をも飲み込む狼にそんな柔なものは通用しねぇよ」

ムドウは狼にサインを送る。

男は無傷のまま狼の口から吐き出された。

男はよほど怖い思いをしたのかその場から逃げ去った。

「逃がしてよかったのか?」

ロイがムドウに聞く。

「大丈夫だよ。奴はもう魔法を使えなくなった」

仕事を終えたトラズが説明した。

「俺の魔法“フェンリル”は相手の魔力を奪う。一度噛みついたらもう一生魔法を使えないほどにな」

アイリスの背中に悪寒が走る。

目の前に立っている男が脅威に感じた。

「そんなに怖がるなよ。悲しくなるだろ」

トラズは笑って見せたが、アイリスは子供のように震えていた。

「そんなに強いのに“02”なんだな」

ロイは茶化すようにそう言った。

「上には上がいるって事さ」

トラズはそう言って建物から出ていった。

アイリスたちもその建物を後にした。


「彼に喧嘩を売るなって言った意味がわかったろ。勉強する分には彼について行くことは得策だけどね」

ムドウはアイリスたちにそう言った。

アイリスはさっそくトラズを探す。

しかし、どこを探してもトラズの姿はなかった。

「どこ行ったのかしら?」

アイリスたちは露店で休憩を取る。

「別に彼に教えてもらわなくても僕たちにはレイチェルがいるじゃないか」

ロイは少し呆れたように言う。

「私をかってくれるのはいいけれど、私が最強と言われたのは私が生きている当時の話よ。今は私よりもはるかに強い魔術師がいっぱいいるわ」

レイチェルは謙遜してそう答えた。

「はぁ…どこに行けば会えるのかしら」

トラズを探すアイリスはまるで想い人を探しているようだった。

「あ!」

アルヴィンが人混みを指さす。

活気にあふれる人の波。

その中にトラズの姿があった。

「行きましょう!」

アイリスたちは人込みをかき分けて進む。

そしてトラズの腕をつかんだ。

「うわっ!」

トラズは驚いた顔でアイリスたちを見た。

「何だよ…驚かせないでくれ」

トラズは胸をなでおろす。

「魔法を教えてください」

アイリスはトラズのことなどお構いなしにそう言った。

トラズの頭の上には?マークが浮かぶ。

「アイリスは仲間の力になりたいと必死になっているんだ。教えてやってくれないか」

ネジ子はトラズに耳打ちした。

トラズは「了解」と短く答えた。

「それじゃ、魔法を教えてやろう。ただ、俺は人に魔法を教えたことがないからわかりづらいと思うぞ」

アイリスは力強くうなずいた。

「よし。なら場所を変えようか」

トラズは人込みから外れた場所に歩き出す。

ついたのは空き地のような場所だった。

よく見ると四隅に人払いの式が描いてある。

「ここなら人が来ない。始めようか」

「お願いします!」

アイリスは気を引き締めた。


「これは俺の持論なんだが、人間は理論を叩きこむよりも実際に体験したほうがより覚える。ということで、一人ずつ俺と戦ってみるか」

トラズはそう言って構えを取った。

「じゃあ最初は僕から」

ロイは前に出てトラズと同じ構えを取る。

「喰らえ“イーター”」

黒い獣の顔がトラズめがけて飛んでいく。

トラズはぎりぎりで避けつつ、その辺に落ちていた枝を獣の顔の前に投げた。

獣の顔が枝に噛みつく。

枝は跡形もなく消え去った。

「なるほど、物体を消す魔法か。ただ、当たらなかったら意味はない」

トラズはゆっくりロイのほうに歩み寄る。

「消え去れ“イレイス”」

黒い靄がロイの目の前に広がった。

しかし、トラズはそのわずかな隙間に滑り込み、ロイの腹に拳を当てる。

「ほら、君の負け」

トラズは歯を見せて笑った。

「それで、次は?」

「僕たちが行く」

アルヴァとアルヴィンが前にでる。

「まぁ、二人同時でもいいか。ほら、かかってきな」

トラズは二人を挑発する。

「固まれ“ロック”」「共鳴しろ“チューン”」

アルヴァの腕に巨大な岩の鎧が付く。

アルヴァは力任せに腕を振り回した。

「なるほどね。力だけじゃ、勝てないよ」

トラズは素早くアルヴァの後ろに回る。

「そこか!」

アルヴァが腕を振るが、そこにトラズはいない。

アルヴァが正面を向き直すと目の前にトラズがいた。

「ほら、こんなに近寄られてる」

アルヴァは少し悔しそうにしていた。

「次行こうか」

クラークはトラズの目の前に立ち、礼をした。

トラズもそれにならう。

「第2級“チェーン”」

クラークがそう唱えるとトラズの足元から頑丈そうな鎖が生えてくる。

「おっと、危ない」

トラズは上にジャンプして避けた。

「第3級“ボマー”」

クラークの手の近くが爆発する。

爆風で砂埃が舞った。

「危ないなぁ」

クラークの後ろで声がする。

振り向くとトラズが笑って立っていた。

「後ろを取られるようだったらダメじゃないですか」

トラズはクラークの肩にポンと手を置いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ