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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第二章 魔法院
39/64

ⅩⅩⅩⅨ

「へぇ…。そんなに若いのに旅をしてるのか、すごい行動力だな。俺たちとは大違いだ」

トラズが感心した様子でアイリスの話を聞いている。

アイリスは少し照れくさそうに下をうつむいた。

「しかし、ブラウンの家系でさらにノーツマスターとは。数奇な人生だな」

ムドウがアイリスの本を読みながら言った。

「ブラウン家ってそんなに凄いんですか?」

アルヴァがアイリスに聞く。

「いや、私の代にはもうそこまで影響力のある家ではなかったのだけれど、昔はすごかったみたいね」

「すごいなんてもんじゃない。大戦を終わらせた英雄のうちの一人、トーラ・ブラウンの家系だ。影響力が落ちたとはいえ領主ぐらいはあるだろ」

ロイがアイリスの説明を補足する。

仲間たちはそれぞれ驚きの顔をしていた。

「何でそんなお嬢様が旅をしてるんだ?」

ロイがアイリスを見る。

「私は単純に世界を見て回りたいから旅をしているの。特に深い理由なんてないわ」

アイリスはそう言うが、ロイは少しだけ言葉が詰まっていたような気がした。

「そういえばトラズさんはどんな魔法を?」

ネジ子が珍しく人をさん付けで呼んだ。

「俺の魔法が気になるのか。自分で編んだ魔法だから詳しくは説明できないが、それで構わないか?」

ネジ子は頷く。

「俺の魔法は“フェンリル”。簡単に言えば魔法の狼を召喚する魔法だな。ちょっとだけ見せてやろう」

トラズは外を指さして表に促す。

アイリスたちはトラズについて行った。

「それじゃあ行くぞ。いでよ“フェンリル”」

トラズがそう唱えるとトラズの腰辺りに光が集まりだす。

そしてその光は少しずつ形を変え、白い毛並みの狼になった。

「これが俺の魔法、“フェンリル”だ。様々な特性を併せ持った魔法故に分類0だけどな」

トラズはそう言いながら狼の頭をなでる。

凛々しく遠くを見据えていた狼はトラズに頭をすり寄せた。

「彼は“02”。君たちよりもはるかに強いから喧嘩は売るなよ?」

いつの間にか後ろに立っていたムドウはアイリスに言った。

アイリスは数字を聞いて固まる。

02。

アイリスはムドウの忠告を心に刻み込んだ。


「さて、君たちの登録は終わったからもう旅を再開してもいいけど、どうするつもりかな?」

部屋に戻ったムドウがアイリスたちに聞く。

「僕はもう少しだけここを見たいかな」

アルヴィンが言うとアルヴァもそれに乗っかった。

「それじゃあそうしましょうか。みんなもそれでいい?」

アイリスが聞くと仲間たちは当然のようにうなずいた。

「そうかそうか、それなら案内が必要なら言ってくれ。俺は仕事があるからいけないけどトラズなら空いてるはずだから」

そう言うとムドウは部屋を出ていった。

「はぁ~…」

アイリスは安堵の息を漏らす。

魔法院への登録は難なく終わった。

アイリスが抱えていたものは一気に無くなったのだ。

「これで私たちも正式な魔術師ね」

アイリスはベッドに寝転んで嬉しそうな声で言う。

「そうだな。これから先の旅でもしっかり自分を証明できるというのは大きい。立ち寄って正解だった」

ネジ子はそう言ってアイリスの横に座った。

「しかし最強の魔術師に英雄の子孫か。この旅団もなかなか規格外だな」

クラークは腕を組みながら唸る。

アイリスもうすうす感じていた。

果たして本当に自分が率いることができるのだろうか。

アイリスはレイチェルの言葉を思い出す。

「リーダーは堂々と胸を張っていればいいのよ」

アイリスはその言葉を心で繰り返した。

「それじゃあ明日は少し早めに起きてここを見て回りましょうか」

そう言ってアイリスは部屋の明かりを消した。


翌日

朝に弱いレイチェルは頭が働いていない様子でぼーっとしていた。

「早く行こうよ!」

アルヴァがアルヴィンの手をぐいぐい引っ張る。

アイリスたちはその様子を温かい目で見守りながらついて行くことにした。

「そこの旅のお方。守護陣はいかがかな?」

大通りに出ている露店の店主がいろいろな陣が描かれた布を広げる。

アイリスはどれも見たことがなかった。

「一つ見せてもらってもいいかしら?」

アイリスは店主に言う。

しかし、ロイは

「こんな粗悪品で金をとろうとしてるのか。生きるのに必死なんだな」

憐みの目で店主を見る。

店主は怒りで震えていた。

「これのどこが粗悪品だ!適当なこと言って商売の邪魔をするな!」

店主の怒号が飛ぶ。

「まずここ。これは守護の陣に使うべきじゃない式だ。それとここも他の式と相性が悪い。君ここにいるってことは魔術師だよな?まさかこんな簡単なことも知らずにここで商売してるのか?」

ロイは顔色一つ変えずに返した。

どうやら図星だったようで店主は何も言い返しては来なかった。

「さぁ、行こうか」

ロイは店主の前に銅貨を一枚だけおいて先に進んだ。


魔法院は様々な文化が混ざった異様な町だった。

右には藁を積んだオブジェがあるのに左を向けば何を模して造られたのか分からない金属の塊が置いてある。

そんな路がいくつもあった。

「確かにここは迷いそうね」

アイリスは一生懸命道を覚えようとする。

「お、アイリスたちじゃないか。こんなところで何やってるんだ?」

前からトラズが歩いてきた。

「ええ、少しここら辺を見て回ろうかと思いまして。トラズさんは何をしに?」

「俺は少し仕事があってな。そうだ、ついてくるか?」

そろそろ帰ろうとしていたころだったのでアイリスたちはトラズについて行くことにした。


「ここだ」

トラズはとある建物を指さした。

そしてその扉を開け中に入る。

「ふざけるんじゃねぇ!」

建物に入るなり男の怒鳴り声が耳に飛び込んでくる。

「俺たちみたいな貧乏な魔術師に用はねぇってか?てめぇら魔法院はこれだから信用ならねぇ!」

少し頭頂部の髪が少ない男が職員に抑えられている。

「はい、少し通して」

トラズはずかずかと男に近づいて行った。

「アイリス。少しそこで見てな」

トラズはさわやかな笑顔を向けた。

「ナンバー02.“人狼ウェアウルフ”」

名乗りを上げ、トラズは男に宣戦布告をした。

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