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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第二章 魔法院
37/64

ⅩⅩⅩⅦ

「やぁ、お待たせ」

ムドウは自分と同じくらいの背丈のある人形を抱えて部屋から出てきた。

「適正君一号だ。この人形に魔力を注ぐとその魔力の分析をしてくれる」

ネーミングセンスはひどいものだったが、その説明が確かならとてもすごい装置だ。

アイリスは少しわくわくしながら人形に触れる。

荒い糸で作られた布の感触が何とも言えない気分にさせる。

アイリスは我慢しつつ魔力を注ぎ入れた。

次の瞬間、人形が赤い光を帯びた。

「赤…。珍しいこともあるもんだ」

ムドウは物珍しそうに人形を観察し始めた。

「どういうことですか?」

アイリスは不安そうにムドウを見た。

「うん、反応赤っていう事は、君は今ある分類のどれにも属さないということになる。つまり、君はノーツマスターかあるいはまた別の何かということになるわけだが、合ってる?」

アイリスは口をあんぐりと開けて頷いた。

この人形の正確性にも驚いたがこの男、飄々とした態度をしてその奥に鋭いものを持っていることを直感で感じた。

「その反応を見る限り図星かな。どうだい?次に試したい奴は?」

仲間たちも次々に人形に触る。

その結果全員反応赤という結果だった。

「驚いたな。ここにいるみんなが赤なんて」

ムドウにはレイチェルの事は伏せておくことにした。

「よし、君たちはみんな反応赤、つまり分類カテゴリー0だな」

「カテゴリー?」

アイリスは首をかしげた。

ムドウは一瞬だけ眉をひそめたが、丁寧に説明をする。

「ああ。魔法院ではその魔術師の適性に応じてカテゴリー0から4までの5つに分類される。1は属性系魔法、ようは“フレイム”とかを研究している魔術師。2は儀式系魔法、陣を使った魔法を得意とする魔術師。3は呪術系魔法、道具を使って様々なのろいやまじないを使う魔術師。4は魔法工学、魔法を簡単に使えるようにする研究をしている魔術師。そして0は無分類、1から4までのどれにも属さないイレギュラーな存在だ」

イレギュラーという言葉が響く。

いくら自分たちが強くても世間では異端者扱いを受ける。

ノーツマスターはそういう魔術師なのだ。

アイリスは下唇を嚙んだ。

「しかし、そんなイレギュラーの中から一人、歴史に名を残す人がいた」

ムドウはニヤッと笑い、アイリスたちがよく知る人物の名前を言った。

「最強の魔術師、レイチェル・ハイドだ」

驚くアイリスたちを見てムドウは続ける。

「彼女はノーツマスターで唯一その功績が認められた人物。唯一魔術師としての地位を手に入れたノーツマスターだ」

レイチェルは少し恥ずかしそうにしている。

「つまり、ノーツマスターは研究が進んでいないだけで可能性の塊ということだ。あまり、気を落とさないことだね」

ムドウはそうやって話を締めた。


「さて、次は実際に魔法を見せてもらいたいんだけど、できるかな?」

ムドウはアイリスたちを見る。

ノーツがどれほどの威力を出すかわかっていないために少しおびえている感じがした。

「じゃあまずは僕から」

ロイがムドウのほうに近づいていく。

「待った!こっちに来なくていいからそこでやってくれ」

ムドウは後ずさりをする。

ロイはさらにムドウに近づいた。

「消え去れ、“イレイス”」

ムドウはとっさに腕を前に出して防御態勢を取る。

するとムドウの後ろにあった机の上の置物が細かい粒子になって消えていく。

「人間を消すわけないだろ」

ロイはにこっと笑い仲間たちのほうへ戻っていく。

「全く、人の物を消すのもどうかと思うがね。それじゃあ私が直して差し上げましょう」

クラークは机に近づく。

「その姿を再び“リプレイ”」

クラークの手にさっきの置物が現れる。

クラークはそっと机に戻した。

「じゃあ次は僕たちだ。固まれ“ロック”」

「共鳴しろ“チューン”」

床板の一部がボロボロと崩れ、アルヴァの腕に纏わりつく。

そしてそのまま机を思い切り殴った。

机は見事に二つに割れすさまじい音を立てて壊れた。

「人の物を壊しちゃダメじゃない。すみません、ムドウさん。過去へ戻れ“ウルズ”」

アイリスはムドウに頭を下げて机に触れる。

机は淡い光に包まれて少しずつ元の形へと戻っていった。

床板が少しだけ軋んだ気がした。

「……」

ムドウは口を開けて声も出ないくらい驚いている。

立とうと思っても腰が抜けて立ち上がれない。

(こ…これが、ノーツマスター…。なんて力だ。いや、それよりもここまでの魔法を使ったのにもかかわらず、一切疲労の色が見えない。いったいどれだけの魔力を体に納めているんだ…)

ムドウは恐怖とともに別の感情を抱いていた。

好奇心。ただ、純粋にもっと知りたいという気持ちがあふれる。

「それで、魔法を見せたけど次は何をするんだ?」

ロイはムドウに手を差し伸べながら聞く。

「あ、ああ。見せてほしいものはこれですべてだよ。あとは君たちにもう一つの名前を付ければ登録完了だ」

「もう一つの名前?」

アルヴァが首をかしげながら聞いた。

「そうだ。魔術師という者は本名とは別にもう一つの名前を持っている。そうすることで名前を縛られることがなくなるわけだ。まぁ、そんなに気張らずに決めたほうがいいよ。もし決められないなら俺がつけてあげることもできるし」

アイリスたちは腕を組んでしばらく考える。

しかし、いい名前が浮かばない。

ここはムドウに任せておくことにした。

「じゃあお願いします」

ムドウはアイリスに対し一回頷くとしばらく上を見る。

「君のノーツは『調和の印』だから、それに関連したものがいいだろう。それに君は旅団長だから…。よし、君の二つ名は『指揮者マエストロ』だ」

アイリスは少し恥ずかしかったが、意外と考えてくれたのだ。受け入れることにした。

「次、君は物を消す魔法か…。じゃあ、『空虚ヴォイド』だな」

ロイは何か文句を言いたげな顔をした。

「次にあなたはおそらく知ってる物を作るもしくは呼び出す魔法…。よし、『驚異の部屋(ヴンダーカンマー)』にしましょう」

クラークは微笑みながらうなずく。

「最後に君たち、固める魔法と物の性質を共有する魔法かな?君たちぐらいの年頃ならいたずらなんかに使いそうだし…。『悪童プランク』なんてどうだろうか」

ムドウは全員に名前を付け終わると満足げな顔をして頷いた。

「これで登録終了だ。最後にあるものを見せてあげよう」

ムドウは再び奥の部屋へと入っていった。

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