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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第一章 旅の始まり
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ⅩⅩⅩⅣ

ピンと張り詰めた空気にアイリスは汗を浮かべる。

最初に口を開いたのはロイだった。

「知っていたとして、それを話すと僕たちはどうなるんだ?」

墓守は静かにそして厳かに答えた。

「あなた方は禁忌に触れた可能性があります。ただで帰すわけにはいきません」

「禁忌っていったい何のことですか?」

アイリスはしらを切った。

しかし、墓守はそれを見抜く。

「あまり、嘘は感心しませんね。私たちには神がついています。神に誓って正直に答えてください。もう一度だけ聞きます。昨日死の谷で起きたことを説明してもらえますか」

さっきよりもずっと低い声で墓守が詰め寄る。

嘘をついても意味がない。

なら、嘘偽りなく答えるか?

でも、そんなことをすれば恐らく死の谷に送られてしまう。

アイリスは頭を回転させ解決策を探す。

しかし、そうしている間にも墓守は針付きの錫杖を持って近づいてくる。

焦れば焦るほど考えがまとまらなくなってきた。

「昨日、死の谷から魂が出ていきました」

アイリスは観念して正直に話す道を選んだ。


「そのことを詳しく教えてもらえますか」

墓守は周りを囲む錫杖持ちに指示を出し、錫杖を下ろさせる。

「はい。私たちはこの町を発って死の谷に向かいました。しかし、死の谷には魂の気配が一切しませんでした。私たちが困り果てている所に葬儀屋と名乗る人物が現れました。私たちはその男に苦戦、もとい一方的な戦いを強いられました。そこに一人の人物が現れました。

彼女は私たちを助けた後すぐに去ってしまいました。私たちはその後を追いました。

そして、謎の像の上に座る彼女を見つけました。彼女は悲しげな表情でその像の説明をしてくれました。

像は葬儀屋が持ってきたこと、その像の中には死の谷の魂たちが全て入っているということ。

私たちはその魂たちを開放してあげたいと思い葬儀屋を倒すことにしました。

そして、葬儀屋が死の谷に来た時、少し苦戦はしましたがなんとか倒すことができ、像のことを聞きました。葬儀屋は解放の仕方を教えてくれましたが、それと同時に開放した場合どうなるのかを言いました。『像から魂を開放したら死の谷に収まることなく、国中に広がる。国中で死者たちがよみがえることになる』と。

それでも、私たちは魂を開放することに決めました。

目の前の人を助けないと後悔すると思ったからです。

これが、昨日死の谷でおきたことです」

アイリスは話し終わると死を覚悟し、目を閉じた。

そして、仲間に巻き込んでごめんなさいと心の中で念じた。

しかし、いつまでたっても死ぬ気配はない。

目を開けると墓守は口に手を当て考えている。

ぶつぶつと唱えるようにつぶやいている墓守の台詞の中からわずかながらに聞こえてくる。

「…葬儀屋が…しかしどうして死の谷に…」

とりあえずアイリスは自分の命がまだあることに感謝した。

墓守は顔を上げてアイリスたちのほうを見る。

「皆さんありがとうございます。しかし、あなた方はやはり禁忌を犯した。その罪を償わなければなりません」

墓守の言葉に嫌な汗が流れる。

しかし、墓守はアイリスたちの予想に反した行動をとった。

「あなた方が許される方法はただ一つ。神の前に跪き、心の底から反省なさい。そして、神に奉仕するのです」

ロイは少し嫌そうな顔をする。

神という言葉が嫌いのようで拒否反応を示す。

しかし、この町から出るためにはそうするしかない。

アイリスたちは大人しく従うことにした。


「ここです」

墓守はアイリスたちを祭壇の前に連れていく。

そこで跪きアイリスは懺悔をした。

仲間もそれに続く。

ロイは少し抵抗してから懺悔した。

「それではこちらへ」

墓守は淡々とした様子で法衣を用意する。

アイリスたちは法衣を受け取り着替える。

生地が薄いせいか肌寒い。

アイリスたちが着替え終わったのを確認してから墓守がうなずく。

「あなた方にやってもらうことはとても簡単です。その白い法衣が完全に染まるまで働いてください。そうすればきっと神もお許しになるでしょう」

そう言い残して墓守は去っていった。

アイリスたちはお互いの顔を見る。

ロイは納得しない表情でその部屋から出ていった。

「私たちも行きましょう。こんなところで立ち止まっていても仕方ないし」

アイリスたちも祭壇を後にした。


「染まるまでって言っても何をやればいいのかわからないとどうしようもないな」

ロイは法衣を見つつそう言う。

「とりあえず掃除でもしましょうか」

アイリスはそう言ってほうきを持つ。

仲間もそれぞれ掃除道具をもって掃除を始めた。

しかし、建物の中は全て墓守たちが丁寧に掃除をしているおかげで清潔に保たれていた。

掃除を終えて集合したアイリスたちは互いの法衣を見る。

皆見事なほど真っ白のままだった。

「……墓守たちから仕事をもらいましょうか」

アイリスの言葉に仲間はみんな頷いた。

しかし客人に仕事をさせる非情な墓守はおらず、みんな口をそろえて「私どもがやりますので部屋でお休みになっていてください」と返してくる。

親切心が今は憎い。

「どうするんだアイリス?」

ロイはアイリスを見上げる。

アイリスは頭をひねる。

元々考えることが得意じゃないアイリスの頭はすぐに熱暴走を起こした。

バタンという音を立ててアイリスはその場に倒れる。

「またか…」

ロイはため息交じりにそう言ってアイリスを部屋に運んだ。


アイリスが目を覚ますと仲間が安堵した表情でアイリスのほうを見ていた。

「で、倒れるほど考えて何かいい案は浮かんだか?」

ロイが皮肉じみた言い方をする。

しかし、すぐにアイリスは一つの案を出した。

「少し良心が痛むけれど方法があることにはあるわ」

仲間たちはアイリスのほうに耳を傾ける。

「要はこの法衣を汚せばいいのよ」

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