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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第一章 旅の始まり
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ⅩⅩⅨ

(さっき助けてくれたのは間違いなくレイチェルだ!彼女はここにいる!)

ロイは子供のような笑顔を浮かべて辺りを見る。

しばらく走り回ると遠くのほうに人影が見えた。

その人はロイに気づくとまたすぐに去ってしまう。

いくら追いつこうとしてもロイを避けるように消える。

「ロイ!」

後ろからアイリスの声。

はっとなって目の前を見た。

そこには不気味な像が立っていた。

「これはいったい…」

追いついたクラークがゆっくりと像に触る。

すると突如として頭に激痛が走った。

おぞましい光景が目を閉じても映る。

とっさに像から手を放した。

「見たのね、クラーク」

上のほうから声がする。

アイリスたちが上を見上げるとそこには悲しげな表情をした女性が像の上のほうに腰かけていた。

「レイ…チェル」

ロイがボソッと呟く。

「久しぶりね、ロイ。元気だった?ってここにいる時点で元気じゃないか」

ロイは黙ってレイチェルを見る。

レイチェルは続けた。

「まさかこんなにも早くこっちに来るなんて。それもこんなに仲間を連れて」

レイチェルの口調は冷たかった。

ロイが話していたような彼女はそこにいなかった。

「この像は…」

クラークが恐る恐る聞く。

「これはね、さっきの男が置いていった“禁書”『ゴッドアームズ』。この中には死の谷で過ごしていた霊魂たちが閉じ込められているの。私は魔法が使えたから一人だけ助かった」

レイチェルは再び暗い顔をする。

この中に魂が入っていると聞いたアイリスが少し後ずさりする。

「そんなに怖がることはないよ。触れなければ何も怖いことなんてないから」

レイチェルはそう言って像から飛び降りた。

「レイチェル…」

ロイがフラフラと近づく。

そしてレイチェルのことを強く抱きしめた。

「ロイ、気持ちは嬉しいけどここにいるということはあなたも死んだんでしょ?それならあまり喜ばしいことじゃないわ」

ロイはレイチェルを離した。

「僕たちは死んでないよ。近くの町で墓守に魂抜きの儀式をしてもらったんだ」

ロイの話にレイチェルは驚く。

「なんでそんな危険なことをしてまでわざわざこんなところに」

「ロイがレイチェルに会いたいって言ってきかなかったからな。連れてきた」

クラークが皮肉っぽく言った。

レイチェルはその話を聞いて表情が明るくなった。

そして今度はレイチェルがロイに抱きつく。

「ありがとう!嬉しいわ、ロイ」

ロイは少し恥ずかしそうにレイチェルの胸の中にいた。

「それで、どうして私に会いに来たの?」

しばらくロイを抱きしめた後、解放してからレイチェルが聞いた。

「ああ、ちょっと謝りたくて」

ロイが下をうつむく。

「その…あの時、守れなくて…ごめん」

「別にロイのせいじゃないわ」

レイチェルは優しい笑顔でロイを慰めた。

その優しさにロイは自然と涙を流す。

「泣かないでよ。私はロイの涙なんて見たくないわ。ロイにはいつも笑っていてほしいもの」

それでもロイは泣き止むことはなかった。

しばらくしてロイが泣き止む。

「もう一つ、レイチェルに会いたかった理由があるんだ」

ロイが赤く腫らした目でレイチェルを見る。

レイチェルは首をかしげた。

「ここにいるアイリスに魔法を教えてやってくれないか」

ロイの提案に快くうなずいた。

アイリスは少し硬い表情でレイチェルを見る。

「あの、貴方のことはここに来る途中に伺っています。何でも最強の魔術師だとか。私、そんな人に教えてもらえるなんて少し緊張します」

レイチェルはアイリスの頭にポンと手を置く。

「そんなにかしこまらなくても大丈夫よ。一応自己紹介しときましょうか。私はレイチェル。かつてロイたちと旅をしていた魔術師よ」

「私はアイリスです。ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

アイリスはガチガチに緊張していた。

レイチェルの指導の下、アイリスの魔法修行が始まった。


「魔法は自分でイメージを固めることが大事なの。そのイメージ通りに魔力を操れればちゃんと使えるわ」

レイチェルは真剣にそして親身にアイリスに魔法を教える。

アイリスも真剣な表情でレイチェルの話を聞いていた。

レイチェルはフフっと少し笑う。

「どうした?」

ロイがレイチェルのほうを見る。

「いや、ロイに魔法を教えたときのことを思い出して」

昔を懐かしむ目でレイチェルが空を見上げる。

その時はここが死の谷だということを忘れてしまうほど平和な時間だった。

「できた!」

アイリスの声が谷中に響き渡る。

レイチェルとロイがアイリスのほうを見るとアイリスの手元のほうが明るくなっていた。

よく見てみるとアイリスの手の上で小さい火の玉が優しい光を放ちながら宙に浮いている。

「それが第四級魔法“タイニーボール”よ。ノーツ以外の魔法を使ったことないって聞いていたから少し不安だったけれど、ちゃんとできるじゃない」

アイリスはレイチェルに褒められて少し嬉しそうに頬を染める。

「それじゃ、次に行ってみましょうか」

レイチェルの教えでアイリスは次々と魔法を覚えていった。

「凄いわ!アイリス。一日でここまで覚えるなんて。もしかしたらロイよりも素質があるかもしれないわ」

「いえ、レイチェルさんの教え方が上手いからですよ」

二人は楽しそうに話していた。

「楽しそうだな」

遠くのほうで見ていたロイにクラークが話しかけた。

「ああ。やっぱりレイチェルはあの方が似合ってる」

「それで、あの話どこまで本気なんだ?」

クラークが真剣な表情でロイに尋ねる。

「どこまでも何も僕は全部本気で言ってるさ。それに、そのほうが彼女たちのためにもなるだろう」

ロイはアイリスたちから目を離さずに返事をした。

「そうか。相変わらずだな」

クラークは立ち上がってレイチェルたちのほうへと向かっていった。

「相変わらずか…僕も結構変わってきたけどな」

ロイは静かに自分の手のひらを見つめた。

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