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ノーツ・アクト  作者: 蜂屋 柊楓
第一章 旅の始まり
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ⅩⅣ

「…そしてその時の子供がアルヴァとアルヴィンよ。このお酒はこの家についた時にテーブルに置いてあったわ。『達成記念』と書かれた紙とともにね」

話し終えたデイジーは少し疲れた様子だった。

ロイはゆっくりとデイジーのほうを見る。

「君は、ジュリウスやシンシアにもう一度会いたいと思うか?」

デイジーは少し考える。

やがて顔を上げた。

「会いたいわ。会って素直に謝りたい」

デイジーのその言葉を聞いてロイはニヤッと笑う。

ロイは何やら呪文のようなものを唱え始めた。

「第二級交信術“ゴーストトーク”」

ロイの後ろに一人の人影が現れる。

デイジーはその人影に見覚えがあった。

「ジュリウス…?」

人影はデイジーに微笑む。

「元気かな、デイジー」

デイジーは椅子から立ち上がり、フラフラと人影に近づく。

そっと人影の頬に手を触れようとするが、デイジーの手は空を切る。

人影は少し寂しそうな顔をしてデイジーに話しかける。

「君を騙すようなことをしてごめん。僕は君に罪の意識を持たせてしまった。

でも、僕は君に真実を知ってもらいたかった」

デイジーは首を横に振る。

「謝るのは私のほうよ。ちょっと怖い思いをしたからってジュリウスに会うことをためらってしまったの。本当にごめんなさい」

人影は微笑み、デイジーの頭をなでるように手を動かす。

「さて、事の真相を一つずつ説明しようか。

まず、僕の遺品として持っていったその本は禁書『デビルズホーン』

悪魔との契約、悪魔の力の行使ができる本だ。君は悪魔の力でそんな体になってしまった。

申し訳なないけど、それを治すことはできない。

次に牢の中にいた彼らについてだが、研究日誌を読んだらわかると思う。

あの屋敷では魔法の研究をしていた。毎日のように人を連れてきては薬物や魔力の塊を投与していた。僕はあの非人道的実験を何としても止めたかった。

しかし、研究は最悪の形で幕を閉じた。研究員が全滅したんだ。

それでも僕はあの研究を世に公表したかった。それには君が一番だと思ってあの手紙に書いたんだよ」

人影は真っ直ぐデイジーを見る。

デイジーはあの悲惨な光景を思い出してしまった。

強烈な吐き気で頭がくらくらするが、何とか立っていられる。

「私はあなたを許すわ。だけど、貴方は私のことをいつまでも許さないで。私が死んだときにあなたにもう一度謝るから」

デイジーは人影にそう告げる。

人影は満足したようにうなずき、少しずつその姿を消していく。

「君の未来に幸あれ」

そう言い残して人影は完全に消えてしまった。

デイジーの頬に一筋の涙が伝った。

ロイは黙ってハンカチを渡す。


「そういえば、シンシアはどうなったの?」

目を少し腫らしながらデイジーは聞いた。

「ゴーストトークに反応しなかったから、彼女はまだ生きているよ」

ロイのその言葉にデイジーは少し嬉しそうな顔をした。

すると外からガサガサと草をかきわけて進む音がする。

デイジーが外の様子を見るとデイジーの顔から血の気が引いていく。

その場に座り込み、目の焦点が合わない。

ロイが外を見ると数人の人間が立っていた。

いや、彼らの容姿はもはや人間とは呼べない。

口の端は歪に上がり、黄色くなった目でこちらを見る。

大きく肥大化した腕には見覚えのある模様。

「あれが…人工ノーツマスターか」

ロイは窓から飛び出して呪文を唱える。

「第四級“サイレンス”」

ロイが魔法を唱えると辺りが音を切り取られたように静かになる。

「ここら辺の音を外に漏らさないようにさせてもらったよ…って、理解できないか」

人工ノーツマスターはぎりぎりと歯ぎしりを立てる。

しばらくにらみ合って、先に動いたのは人工ノーツマスターのほうだった。

「グガァ!」

獣のようにうなりながら突進してくる姿はもはや人間ではなかった。

ロイはその方向を見極め、スッと避ける。

(あのノーツ、ただの筋力強化か…つまらないな)

そう考えながらロイはノーツを発動させる。

「空虚へ消えろ、“ヴォイド”」

ロイの手から黒い球体が生まれる。

どんどん大きくなって人工ノーツマスターの肥大した腕を包み込んだ。

「ガァ?」

人工ノーツマスターが腕を見ると肩から先がなくなっていた。

しかしあまり意に介さない様子でロイを狙う。

「っち、面倒だな」

ロイはもう一度魔法を発動する。

「喰らいつくせ“イーター”」

ロイの手から大きな龍の頭が出てきて人工ノーツマスターに食らいつく。

「ウガァァァァァァァ!」

下半身が失われた化け物が叫ぶ。

その声に反応したかのようにぼこぼこと地面から化け物が出てくる。

「下に潜んでやがったか」

ロイはもう魔力が枯渇する寸前まで来ていた。

「まいったな…。どうするか」

ロイは体中に冷や汗をかいていた。

後ろから足音がした。

ロイが振り向くとアイリスが立っている。

しかしいつもと違う。違和感。

「アイ…リス?」

アイリスは無表情のまま歩き続ける。

そして化け物の前に立つと一言だけ言葉を発した。

「煩いんだよ。私は眠いんだ」

いつもと違うアイリスにロイは思わず身を引く。

次の瞬間、化け物は全て消え去っていた。

最初からいなかったかのように。

化け物が消えると同時にアイリスはその場に倒れこんだ。

「アイリス!」

ロイが近づく。

アイリスはスースーと寝息を立てている。

(寝ぼけていたにしては、はっきりとしゃべっていた。それにあの力は…)

ロイは考察をする。

「終わったの…?」

落ち着いたのか中からデイジーが出てくる。

デイジーはロイとアイリスを交互に見て首をかしげた。

「とりあえずアイリスを中に入れるのを手伝ってくれ」

ロイがそういうとデイジーは頷きアイリスの腕を取り、自分の肩にかけて中に入る。


「いったい何があったの?」

デイジーはアイリスをベッドに寝かせてからロイに聞く。

「分からない」

ロイは首を横に振りながら答えた。

「このことは本人には黙っておこう」

ロイの提案にデイジーは頷いた。

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