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人間嫌いの親切な山田くん

作者: てん

私と彼が初めて会ったのは小学生の頃でした。


彼…山田くんは私が四年生の時に転校してきた男の子で、最初の自己紹介が印象的でよく覚えています。


『俺の名前は山田。好きなものは、ない。嫌いなものは人間。だからあまり俺に関わってくるな』


山田くんはポケットに手を突っ込んだまま、気だるそうにそういい放ちました。

教室の中が凍りつき、生徒と先生が唖然としていたのを覚えています。


それから徐々に教室がざわめき、先生が生徒たちを落ち着かせいようと、おろおろとしていました。

確か、その先生は私が四年生になったときに転任してきました。


私も私で、隣の席の花子さんに話しかけたら無視されて少し落ち込んでいました。

そういえば花子さんも本ばかり読んで人と関わらない女の子でした。


それからの山田くんは、本当に人と関わろうとせずにいつも自分の席で肘を付いて空を眺めながら『今日も空が青いな』と言ったり(その日は少し曇り空でした)、机に伏して寝たりしていました。


私の中での山田くんの印象は人間嫌いの少しアホな子といった感じです。




山田くんは協調性のない子でもありました。

私たちの学校では6月に運動会があるのですが、梅雨の時期に入っているためよく延期がありました。


その日は雲ひとつもない青空が広がる運動会日和です。

ちなみにですが私たちの学校では、運動会の当日に選手決めをやるんです。

だから誰一人として誰を選手にするのか話し合っていて運動会の挨拶をしている校長先生の話なんて聞いてません。

噂によると、運動会が終わった後の校長室で嗚咽を堪えた泣き声が聞こえてくるらしいです。


私も私で後ろに花子さん、前に山田くんに挟まれて、肩身が狭いというか話し相手が居なくて、心の中で少し泣いていました。


まだ選手が決まっていない私たちのクラスはテントに戻った後も話し合いが続いて、何故か私は山田くんと二人三脚をすることになりました。

せめて、花子さんの方が良かったです。山田くんも山田くんで嫌そうな顔をしていましたが。

それに私は50メートル走は8秒5に対して山田くんは7秒4です。

もう少し、そこら辺のことも考えてほしかったです。


私は、山田くんに「練習しようよ」と言いましたが、「嫌だ」と即答された上にテントの足にもたれかかって寝始めてしまいました。

そろそろ泣いて良いと思うんです。


それから私たちの出番となったんですが、練習もしていないのに一回も転けずにビリでしたがゴールすることが出来ました。

何とも不思議なことが起こるもんだ、と私はその時は思いました。

今思えば、この時に山田くんの優しさに私は触れていたのです。


私の中での山田くんの印象が人間嫌いのアホな子から人間嫌いの協調性のない嫌な男の子に変わりました。

そりゃあ誘ったのに断られた上に拒絶するような反応されたら苦手にもなります。


それから私と山田くんは、6年生になっても同じクラスでした。

その内、席替えをたくさんしたのですが8割くらいの確率で私の隣かひとつ挟んだ場所に山田くんの席がありました。


正直、仕組まれてたのではないだろうか?と何回も疑ったりしました。


修学旅行ではバスと飛行機を使って沖縄に行きました。

皆が『飛んでるー!』って騒いでいるなか私は左に花子さん、右に山田くんとデジャブを感じる並びとなり、本当に泣きそうになりました。


だって、花子さんは持ってきていた本を読んでいるし、山田くんは肘を付いて外を眺めるだけだし、私は何も持ってきていませんし…話し相手が居ないって、こんなに辛いものだったのですね。




山田くんは方向音痴でもありました。


沖縄で班別行動があったのですが、私は山田くんと同じ班でした。

私たちの班では男子二人、女子二人、そして私となっていましたが、前もって決めていた所に回ろうとしていたのですが、山田くんが勝手に一人で先に歩き始めました。


私たちは慌てて「どこにいくの山田くん?」と声をかけると「あ?こっちだろ?その建物があるのは」と言ってきたのですが、山田くんが歩いている方向は反対でした。


私が「そっちじゃないよ、こっちだよ」と教えてあげると山田くんは軽く舌打ちをしてから戻ってきて、私たちの前を通りすぎて、私が言った方向に歩き始めました。


舌打ちをされて、少し嫌な気分になりましたが山田くんが私の前を通るときに小さく「ありがとう」と言ったような気がして、驚いて山田くんの顔を見ると一瞬だけ顔が赤くなってそれからすぐにいつもの気だるそうな顔に戻っていました。


山田くんは、人間嫌いだし少し取っ付きにづらいけどでも可愛らしいところがあって、私の中での苦手意識が無くなりました。



小学校を卒業して、私は中学生になったのですが山田くんと花子さんも同じ中学校で、なんの因果かまた同じクラスになりました。


中学生になった山田くんは相変わらずで、転校してきた時の自己紹介と一字一句違わずに全く同じ事を自己紹介の時に言ってました。

クラスメートたちと先生が唖然としているなか私は「変わってないなー」と思いながら苦笑いを浮かべていました。



中学校生活にも慣れてきて、今日も私は部活動に精を出します。

私は文化系の部活で【手芸部】に入っています。そこで出会った美智子(みちこ)ちゃんとは長年の付き合いをしてきた親友のようなものです。


私はなんとか部活にも馴染めましたが、山田くんはどうなのでしょうか?

そういえば山田くんが何の部活に入ったのか知りません。

あの態度だとあまり馴染めそうにありませんが…ちょっとだけ心配です。




どうやら山田くんは強いようです。


部活動を終えて、私は帰る前にお母さんに買い物を頼まれているのを思い出して、商店街まで来ていました。


買い物を終えて、さぁ帰ろうとしているときに3人組の不良さんたちに私は絡まれてしまいました。

不良さんたちに壁ドンをされました。でもキュンとしません。むしろ萎縮してしまいます。


「なぁ、君可愛いね。一緒に遊ぼうよ」


この不良さんたちはちゃんと目はついているのでしょうか?

私が可愛い?それは無いですね。だってたまに目が合った人に即座に顔を背けられるのですよ。

その人絶対に『やっベー、あんな顔の奴と目が合ってしまったよ…眼科にいかないと…』って思っているはずです。


でも少しヤバイです。

助けを求めようにも、通りがかる人は皆関わりたくないと言わんばかりに顔を背けて通りすぎるばかりです。


…うん。山田くんが人間嫌いになる理由が何となく分かります。

だって私もなりそうなんですから。

あ、でも美智子ちゃんは嫌いになりませんよ。親友なんですから当然です。


って、不良さんたちに手を捕まれてしまいました。

抵抗しようにもビクともしません。怖くて声もあまり出せませんし。


あぁ、私もここで終わりか…と諦めかけたときに聞き慣れた声が聞こえてきました。


「おい」


不良さんがその声に反応してそっちを向いた瞬間、その不良さんは殴り飛ばされました。

殴り飛ばされた不良さんは壁にぶつかって気絶してしまいました。


いきなりのことでビックリしている間に他の不良さんたちも倒してしまいました。


助かったと、わかった瞬間に私は地面にへたりこんでしまいました。


「大丈夫か?」


そう言ってへたりこんでいる私に手を伸ばしてきたのは人間嫌いで無愛想な…


「山田くん…」


そう、山田くんでした。


「でも、どうして?」

「あ?…あー、散歩していたら見知った顔の奴が絡まれていたからな。助けなかったら後味も悪いし、だから助けただけだ」


山田くんはぶっきらぼうにそう言いながら頭を掻いていた。


私は山田くんの手を借りて何とか立ち上がってから山田くんが「家まで送ってやるよ」と言って私についてきました。

さっきのこともあり、私は何も言いませんでした。



それから私は山田くんと一緒に帰っていたのですが、会話なんてひとつもありません。

このちょっと重たい空気が嫌で何か話題を考えていますが何も思い付きません。


と、少し悩んでいると山田くんから話し掛けてきました。


「今回のことで人のことをどう思った?」

「…少し嫌になった」


いきなり話し掛けられてビックリしたが、少し前のことを思い返して、山田くんにそう答えた。

自分勝手の考えだけど、何で誰も助けてくれないの、とか私は思いました。

だけど、逆の立場なら私も他の人たちのようなことをしていたかもしれない、そんな矛盾したことを考えて。


「人間なんて、そんなもんさ」


それから少しして、


「俺には一人の姉が居たんだ」

「お姉さんが?」

「あぁ。姉さんは物凄いお人好しでな、困っている人がいたら誰にでも手を差しのべるんだ。それで自分が痛い目を見ようとな。そして、俺も姉さんから困った人がいたら助けてあげなさい、とよく言われてきた」


そのあと山田くんは怒りを表情に表してから、こう言った。


「でもな、そんな姉さんを馬鹿にするやつらも出てくるだよ。『この偽善者が!』って姉さんが罵られているのを俺は見たことがある。それでも姉さんはへことたれずに色んな人に手を差しのべた。そして、殺された」


私は目を見開いて、山田くんの方を見た。

その時の山田くんの表情は寂しそうだった。


「完全な逆恨みだった。姉さんがいじめられている人を見かけて、助けたら姉さんはいじめていた奴にナイフで刺されてしまった。心臓をひと突きだ。それから病院に運ばれたけど、息を引き取った」


山田くんはいつの間にか涙を流していた。


「俺は、人間を憎んだ、嫌いになった。何で人助けをしていた姉さんが虐げられて、殺されないといけない。そしてそんな姉さんを助けてあげられなかった無力な自分も憎んだ。だから俺は強くなった。姉さんのように人を助けてれるように」

「え?」


私の反応が想定内なのか、山田くんは涙を拭いてから苦笑いをして、


「まぁ、そんな反応も分かるよ。人間嫌いなのに人間を助けるって言うんだからな。確かに俺は人が嫌いだし憎んでいるけど、それでも姉さんがしてきたことを引き継ぎたかったんだ、否定したく無かったんだ」


そう寂しそうに言う山田くんを見て不謹慎ですが私は自分の胸がトクンと高鳴ったのを感じました。


「って、悪いな。こんな辛気くさい話をしてしまって」

「ううん、全然そんなことないよ」


山田くんが頬を掻きながらそう言ってくるが私はそれに微笑みながらそう言いました。



それから私と山田くんは色んなことを話ながら歩いていました。

その中で何の部活に入ったのかという話になりそれで山田くんは【武術部】に入ったらしいです。


話ながら帰ること5分、私の家につきました。


「今日はありがとう、山田くん」

「気にすんな」


私が微笑みながらそう言うと、山田くんは頭を掻きながらそう言いました。

山田くんが「じゃあな」と言って帰ろうとしていたので、私は山田くんを呼んで、「何だ?」って言いながらこっちに振り返った瞬間に私は頬にキスをしました。


口をあけて、唖然としている山田くんに私は顔を真っ赤にしながら「じ、じゃあバイバイ!」と言って慌てて家の中に入りました。


家の中に入って、へたりこんでから両手で顔を覆って「な、何やってんのよ私~!」と悶えていました。

と、視線を感じて顔をあげるとニヤニヤと笑いながら私を見ているお母さんが居ました。


「雪ちゃんも大胆なことをするわね~」

「な、な、な、見てたにょ!」


動揺のあまり噛んでしまいました。


「そうよ」

「嫌~!」


今度は違う意味で顔を覆いたくなりました。


「さっきの男の子、晩御飯に誘っちゃう?」

「そんなことしないよ!お母さんのバカ!」


そのあとも、さっきのことでお母さんにさんざん弄られました。



山田くんは人間嫌いで無愛想だけどとても優しくて親切な私の大好きな人です!





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