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雪が降った日の話

作者: 涼海 風羽

 雪まじりの風の中で境内の木々が葉を揺らしている。僕がこの町に生まれてもう四十年になる。四十回目の冬は珍しくあたたかな晴れの日がよく続いていた。だけどそれは昨日まで。

 丘の上から町を見わたす鳥居とお社も今日はひさびさに雪化粧をして、赤漆のいかつい普段と違いしもやけ顔のおめかしだ。

 しばらくして友人がやってきた。

「やあ、一年ぶりだね。相変わらず元気そうだ」

「アナタ、また禿げたわね」

「うん、やっぱり相変わらずで安心したよ」

「寒くないの、その恰好」

「いや別に。なんだかもう慣れちゃったからさ」

「あっそ」

「そっちはやけに厚着だね。今年はそんなに寒いんだ」

「見ればわかるでしょ。アナタって鈍い」

「キミが敏感なんだと思うんだけどな」

 風が吹いた。雪は、僕の頭を飛び越えて一本の銀色の帯となった。それはそこかしこに織られては、空のかなたで結ばれる。町で一番高いところはここだから、大きな川が向きを変えつつ流れているような景色が目の前に広がっていた。

「すごいな、きれいだ」

「ありがとう」

「安心して、キミじゃない」

「吹っ飛ばすわよ」

「おー怖い怖い。そうやってすぐ牙をむく」

「こっちだってやりたくてやってるわけじゃない」

「ま、どっちみち倒れるんなら相手がキミでも別にいいや」

「本当、アナタってずぶといのね」

「それがウリな性質(たち)なんでね」

 日が暮れた。さすがにそろそろ疲れてきた。僕の頭や肩は気づけば雪で真っ白だった。丘の上はすっかり夜と雪で埋め尽くされた。

「町の灯がきれいだね」

「そうね」

「そっけないなぁ、もっと眺めを楽しみなよ」

「つめたくてごめんなさいね。でも、アナタこそ飽きたりしないの」

「飽きる? この僕が」

「だってずっと見てきたんでしょう。ここからの景色」

「見てきたよ。ずっと、ずぅっとこの町を見てきた」

「だったらどうして」

「僕の最高の楽しみだったからさ」

 空をおおう雲が晴れた。昼間の雪を天井へそのまま貼りつけたように、たくさんの星が空でまたたいている。とても静かだ。しんとした空気が僕のいる場所に横たわっている。

「うぅ、冷えるな。体の節々にこたえるよ」

「何を言うの。もう少しだけ遊びましょうよ」

「僕は何もしていない。キミが勝手にしてるんだろう。重たいから早くおりて」

「いやよ」

「どうして」

「夜は短いのよ」

「だから何さ」

「でも一年は長いのよ」

「それがどうした」

「アナタって脆いのよ」

「うん、知ってるさ」

「独りぼっちは寂しいでしょう」

「昔はみんないっぱい来たさ」

「昔アナタを知ってた人は今もアナタを覚えてるかしら」

「さあ、どうだろうね」

「じゃあ、もう少しだけいさせてちょうだい」

「まさか朝まで」

「さいごまで」

「…………」

「…………」



 今朝のニュースです。一九××年に建設された△△展望台が老朽化のため倒壊しました。同展望台はかつて観光地としてよく知られていました。







みなさんはどうぞご自愛ください。

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