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真夏の合宿

作者: 虎猫 真

 なんかミステリー的になった気もしないわけではないですがミステリーではありません。怖いのが本命です。

 高校生活。それは運命の道がどのようなものになるかを決める特別な時間。そんな中、とある高校生達は夏に合宿するために山奥へと訪れていた。


「涼しいぜ!!」

「空気がきれいだね」

「気分最高!」

「だけど泊まる所って……ちょっとぼろいんだね」

「三人とも五月蝿いよ。それと陣内さん、そこは言ってはいけないと思うよ」

「「……」」


 順にテンション爆発を起こしている清水(しみず)高輝(こうき)、テンションはやや高めの本田(ほんだ)可憐(かれん)、テンション高めの鈴木(すずき)星弥(せいや)、寝床にがっくりしている陣内(じんない)めぐみ(めぐみ)、不機嫌でもないが面倒くさそうにしている山本(やまもと)南伊斗(ないと)、眠そうに目をこすりながら歩いてきている五十嵐(いがらし)椎香(しいか)五十嵐(いがらし)椎名(しいな)の双子の計七人。


 場所は山奥も山奥。都市に出るのに車で半日以上かけてやっとといった程の山奥。更に道が悪いので時としてその倍の時間が掛かる恐れもある。だが何故この七人はこんな所に来たのか。それは学校最終日まで時間を遡らなければなるまい。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 時は遡り学校最終日。


「「あの」」


 声を掛けるのは学校でも珍しい双子の椎香と椎名。更に顔も美形でそっくり。違いはほぼ身長の差だけなのだ。ついでに言うと姉の椎香が高くて椎名が低い。そして話しかけられたのは南伊斗。顔は中の上らへんでただ今可憐と絶賛交際中だ。


「なにか用でもあるの?」

「あるから」

「話しかけてるんです」


 一つ問うと二人でコンビネーションをとりながら返してくるのに南伊斗は頭を抱える事しかできない。


「その喋り方はやめてくれるかな?」

「いいですが」

「なんでです?」


 何度言ってもやめる気配すら一向に見えない南伊斗は溜め息混じれの愚痴をボソッと言ったがそれは誰にも聞こえる事はなかった。


「……もういいや。で、なに?」

「26、27、29は」

「空いていますか?」


 先程から椎香が先で椎名が後の構成で喋っているのだが呼吸のスピードから吸う量まで少しもずれていない。


「……デートの誘い?」

「二人でするはず!」

「ないじゃないですか!?」


 南伊斗の一段どころか二段程飛び越えた思考にこれまた息ピッタリで怒りだす。


「だよねえ」

「「……」」

「あ、でも双子だから有り得るかも?」

「「……」」

「すみませんでした!」


 最初は呆れた表情でそして次の言葉を聞いた瞬間に南伊斗に向ける視線が軽蔑の視線へと変化する。それに合わせて南伊斗の表情は最初はちょっとがっくりとした表情で軽蔑の視線が注がれると「うっ」と情けないうめき声と共に瞬時に謝罪へと行動を移した。


「満更でもなさそうだけど?」


 南伊斗の後ろからどす黒い影が出現する。


「そうなんだよねえ。こんな二人からの告白を嬉しがらない人、が……」


 自分でぺらぺら喋りながら誰だろう? と疑問に思い背後へと振り向く。そこに居たのは運の悪い事に可憐。しかも青筋をいくつも浮かべて頭には角をはやした姿はまさに鬼だった。髪は肩に届くか届かないかの長さの鬼。顔は笑っているが目が笑っていない鬼。


 それを見た瞬間の南伊斗の行動は驚く程に素早く、背後から黒板へ視線を向けるとそのまま固まって冷や汗をかきまくっていた。冷や汗を誰がいち早く出せるかを競争したら文句無しの一位になれたであろう。


 そして鬼も女が一番恐ろしいのではないだろうか、と考えたのは可憐に言わない方が良いだろう。


「おはよう、南伊斗くん?」


 その声は普段を装った声のようだがどう考えても怒りが先に出ている。


「お、おはよう。可憐さん……」


 冷や汗が尋常でない程に出ているがこれはこれで良い運動になるのかもしれない。


「……南伊斗ーーー!!!」

「やっぱこうなるんだ!?」


 静けさを持った怒りから一変した激怒の可憐に襟を掴まれて拘束されたまま教室から追い出されていく南伊斗。


「「結局なにも聞けてないんですが……」」




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 と言った形でその後、可憐に無理矢理南伊斗が連れて行かれたりとか高輝と星弥が勝手に入ってきたりとか双子の友達のめぐみ(一応大人)が行く事を知ったりといろいろあり双子の使い古された別荘に来る事になったのだ。


(……高輝と星弥が来てくれなかったら俺だけ男だったんだよな。ありがたやありがたや)


 男子にも種類があって女子ばかりで嬉しいって人も居るが南伊斗はどちらかと言うとそういう場では遠慮してしまう人なのだ。


「「ふわー……着いたのですね!」」

「そこもはもるのかよ!?」


 突っ込んだのは南伊斗ではなく高輝だ。


「皆さん、今回の最大の目的を」

「お忘れじゃないですよね!」

「「「「肝試しー!」」」」

「肝試し……」

「南伊斗さん」

「元気がないですよー」


 今の話で分かったと思うが今の状況は夜は肝試しをしたりといった合宿だ。


 南伊斗が元気がないのは別にお化けを信じているわけではないのだが本当は今頃は家でごろごろしてゲームして暇になったら散歩してといった平凡な日々を過ごそうと思っていたのだ。それが今は電波もろくに通らない山奥で合宿。南伊斗としては溜め息を何回吐いても足りないような事なのだがそんなのは双子とめぐみは勿論高輝と星弥も更には可憐さえも気づく事はなかった。


「ぼろいんだね」

「ボロ過ぎでしょ」

「ぼろいな」

「ぼろい」

「ぼろぼろだろ」


 順にめぐみ、可憐、高輝、星弥、南伊斗だ。


「「ぼろぼろぼろぼろ言い過ぎですよ!」」


 自分の家の持ち物をぼろばっかり言われた双子は涙袋に涙を沢山詰めて声を張り上げた。今にも「心が折れそうです……」とでも聞こえてきそうだ。


「……ごめん」


 何故だか黙り込んだ五人の中で南伊斗が謝る事に決まった。


「さあて掃除始めますか!」


 空気を洗い流すようなめぐみの声で皆の夜までの仕事が決まったのだった。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 着いた時刻は約11時。それから昼食を入れて掃除をした。廊下を隅から隅まで雑巾で拭き、窓を丁寧に拭いた。空き部屋も埃を全て出すようにほうきで掃き、物の整理をした。


「めぐみさんって家事が得意なんですか……?」

「まあ大人だからねえ」


 聞いたのは可憐で答えたのは勿論めぐみだ。そして今は皆で森林の中を移動中、と言うのも現在の時刻は7時過ぎ。まだ日は少々落ちていない気もするが肝試しを始める頃には月が空に昇り、日は完全に落ちているだろう。なによりここは木と木で頭の上を隠されたような場所だ。少々日が落ちていなくても然程気になる事ではない。


「「着きましたよー」」

「着いたってここは……」

「墓地だろ」


 きれいにした別荘から歩いて8分と言ったわりと近くにあった場所は墓地だった。しかもその墓標の数は最低でも300はある。


「実はですねえ」

「ここら一帯は元々村があったのですよ」

「確かに誰かが住んでいた形跡がここに来るまでもいくつかあったような……」


 南伊斗が言っている事はここに来るまでに見た使われていない井戸や何かの残骸などだ。


「じゃあその人達は?」


 尤もな質問をしたのは星弥だ。その表情には墓地に対する「まさか」の結末を予想して徐々に青くなっている。


「いません」

「と言うよりこの世にいませんよ」

「「「「「ごくりっ」」」」」


 双子を除いた五人の背中に冷たい物がすうっと通ったような気がした。


「ここで昔に大量殺人があったのですよ」

「そしてその結果ここの村は全員死亡」

「別荘はそのときに使っていなかったおかげで私たち家族に損害はありませんでしたが」

「と言っても30年以上も前の話ですよ?」

「「「「「……」」」」」


 それを聞いた五人は昔でも今でも関係はないだろうと感じたのか隣の人と「ぎぎぎい」とでも効果音が聞こえてきそうな速度で互いの顔を見合わせた。勿論その顔は引き攣っていて恐怖が込められていた。


「「どうしたんですか?」」

「「「「「危な(くね)(くない)(いよね)(過ぎだろ)(いでしょ)?」」」」」

「大丈夫ですよ」

「犯人は未だに分かっていませんがこの辺はよっぽどの事がない限りもう人は寄り付かないので」


 「そうは言っても……」と反論しそうになっためぐみだが南伊斗の一言で押し黙る事となった。


「じゃあ一応さっさとやって戻ろうか?」


 結局ここまで来たんだからやろうって感じののりでする事になった。もしかしたら今一番乗り気なのは南伊斗なのかもしれない。


「次ー」

「南伊斗君ですよー」

「オッケー」


 皆こんな所でやるのだから緊張で肩の力を抜けていない。南伊斗や双子もその例に漏れてはいない。自分の番が近づくに連れて鼓動は速くなっていく。南伊斗は仮眠をとり、双子は皆の番を伝える事でそれぞれの緊張を誤魔化している。


 ついでに言うと順番はめぐみ、高輝、可憐、星弥、南伊斗、椎名、椎香の順だ。一人が行って5分待つ。それを繰り返すのだ。可憐のときにプラスで5分程かかってしまったが。待ち時間は自由だが主に個人で行動するよりも誰かと行動している人が多い。個人で居たのは少し離れたところで寝ていた南伊斗だけだが。


「南伊斗君はさっきまで」

「どこに居たんですかー?」

「どこってそこの木にもたれて寝てたけど」

「あー、居ましたね。確かに」

「一人だけで寂しがっていると思っていました」

「そんな弱虫じゃないよ」


 強がりと言えば強がりなのだがそれは今日居る誰にも言える事だ。


「じゃあいってらっしゃい」

「また後でな」


 そう言い残すと南伊斗は双子と別れ早足で墓地の中へと消えていった。


 スタート地点は別荘から一番遠い墓地の端。そこから墓地の間を通って森に入り、別荘まで行くというものだ。口では簡単にいえるが思っている以上に恐怖を感じるもので精神力を徐々に徐々にと奪っていくのだ。そんな中、南伊斗が墓地から抜けようとしたところで異変が起きた。


 人の本能が危険だ。と告げるような異変が。


「星弥?」

「……」

「それにめぐみさん?」

「……」


 星弥は尻餅をついた状態だった。めぐみはその星弥に抱きつくと言うよりも意識を失ったようにもたれている。星弥の途切れ途切れにだが聞こえる不規則な息遣いから生きている事は分かる。


 南伊斗の頭の中で何かがおかしいと本能が告げていた。


「な、南伊斗。僕じゃないんだ」

「星弥?」


 星弥の言葉は咄嗟に出て来たものよりも何回も繰り返していたように。「ぼくじゃないんだ」と。


 そんな星弥に少し近づく。懐中電灯を一つずつ皆持っているがそれだけでは今の状況は分からない。もっと近くで見ないと何がどうなっているのか分からない。そんな心境から一歩一歩確実に近づいていく。


 5歩程度歩いた時だったか。突然地面と靴が触れた瞬間にピチャッ、と音を立てた。同時に自分の足下へと懐中電灯を向けるとそこには液体(・・)でできた水たまりがあった。


「水?」


 水たまりの正体を最初は只の水だと思っていた。だがだんだんと分かってくる水とは違う粘りのある感触と鉄分のにおい。


 懐中電灯をもっと足下へと近づけると水たまりの色が分かってきた。



 赤。



 懐中電灯の光で若干変色した感じがあるがその色は正しく赤。しかもその赤はオレンジよりの赤ではなく黒っぽい赤。


 それを見た瞬間に南伊斗は直感した。


「血?」


 そう考えると先程まで水に見えていたものは血にしか見えないものへと変わっていく。理由は分からない。いや、分からないんじゃなくて思考が追いついていないのだ。だがこれだけは分かった。この血と星弥とめぐみは無関係ではないと。


「南伊斗お、救急車、救急車を、呼んでくれぇ」


 震えた声。だが何故かはっきりと南伊斗には聞こえた。緊張を通り越したから感覚が全て敏感になっているのだろうか。


「星弥、なにが―――」


 めぐみに懐中電灯を向けるとそこにあったのは死体の顔(・・・・)


「あ、ああ」


 傷口なんか見なくても分かってしまう。そんな顔を見た南伊斗は無意識の内に言葉を忘れていた。ドラマでよく死体を発見したときに大声をあげる場面があるが現実はそう上手くいかない。


 死。


 頭に直接入ってくるようなこの感覚は普通のものとは少しどころか大きく違った。死とはその生き物の生命が終わった事を指す。そしてその死は今は人の死を指す。そんなもの普通の人ならば滅多に関わる事のないもの。人は必ず死ぬものだが死を何回も見るとこはそうないだろう。家族が死んだ。葬式で死顔を見る。それとはまた違った死を指しているかのよう。


「な、んで」

「僕に、聞くな、よ」


 そんな紡ぎだした言葉でやっと会話をしだした二人の間にまた一人死を見るものがやってきた。


「こんな所で何しているの?」

「椎名、さん……」




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 その後は椎名がまた南伊斗と同じような事になったり、遅過ぎる南伊斗達を探すために可憐と高輝が来たりほぼ同時に椎香が到着したり、女子全員があまりの事実に恐怖で叫んでしまったり、男子はなにもいう事ができずに沈黙と化してしまったりと沢山の事があった。


「星弥、詳しい事実を教えてくれ」


 そして今現在、星弥に事情を聞いているところだ。南伊斗ですら詳しい事情を知らない中、一番事情を知っていると思われる星弥に話を聞くのは言わば当然の事でもある。


「僕は皆と別れて墓地に入ったんだ」



 墓地に入ったときの星弥は怯えていた。墓地という事もあって怖いと言えば怖かったがそれ以上になにか不吉なことが起きるような気がして。


 そして実際にそれは起こってしまった。表面上にも怖いと顔に書いてあったがなにより心の中ではそれ以上に怯えていた。怯えているのはポタポタポタ、と何かが滴り落ちる音に対して。


 水の滴り落ちる音は暗闇で人間の恐怖の部分を最大限まで引き出してくる。その音はどこから聞こえてくるのかは特定できなかった。音が木々のせいで反射し、全方向からその音が近づいてくる気もした。同時に離れていく感じも。距離感が全くと言って良い程掴めない状況下で星弥は遂に立ち止まってしまった。


 高まる鼓動。それと比例して湧き出てくる冷や汗。


 ピタッ。


 あたりにまたその音が響いた瞬間、まさにレイコンマ一秒にも満たない時間の間に頭に何かがあたる気配がした。


 正確には何かが滴り垂れてきた感触だろうか。その二つの現象が全くの無関係とは言いきれない。


 大丈夫と思って上を見た星弥は後に後悔した。


 もしすぐにその場を離れておけばと。


 そこにあったのは一言で表現するならば死体。他の言い方をするならば人であったなにかだ。


 死体の正体は勿論めぐみだ。だが今日見ためぐみとは別人と言っても過言ではなかった。顔はめぐみの血で赤い。そして血が付いていない手は白くなりかけていた。姿は同じだがどこか違う。


「こん、なの有り得る筈が……。だって、違うじゃないか」


 それは星弥も気が付いていた。本当は今日見た瞬間にときめく何かを感じた。それと同時にめぐみに釘付けになった。赤みを帯びた手は細いともいえないが太いともいえない綺麗な手。髪はロングヘアーだった。顔は鼻が高く、目はつり目よりだった。だが今居るこの死体はどこか違う人を思わせる。


 ここまで考えると星弥にもなにが違うのかが分かってきた。違うのは―――


 生気が一切感じられない。赤みを帯びていた手は白くなっている。(やつ)れたとは違った顔の表情。呼吸などしていない心臓。


 それだけで人は大きく変わると実感した。いや、させられた。


 力が抜けた体からは心臓を一突きされた痕がありそこから溢れ出てくる血が星弥に次から次へと流れてくる。


「血?」


 南伊斗の声で星弥は現実に呼び戻され、そしてめぐみの死を実感する事となった。



「「「「「…………」」」」」


 星弥の話を聞いている五人は嫌に静かだった。静かでなければいけなかった。めぐみという人を汚さないためにも。


 だがその沈黙は……五人。一人は死亡。汚す汚さないの前に―――


 人が死んだ。


「分かりました」


 話を切り出したのは椎香だった。その声は震えている気もしない事もないがどこかなれている感じが窺える。だが双子の連携はとれていない。


「そして誠也さん。貴方にはこの場で拘束させてもらいます」


 言葉を繋げる椎香。その言動に微かに驚いた星弥だったが抵抗する気力もないのか、将又仕方ない事だと分かっているのかその表情は浮かないながらも「当然だ」と言っていた。


「それで皆様も宜しいでしょうか」


 椎香の問いに椎名は小さく頷いた。他の三人も肯定の頷きはしないものの否定の意見は出さなかった。


「待ってくれ。本当に星弥が犯人なのか?」


 一人を除いて。反論をしたのは南伊斗。その質問は尤もだった。だがその質問を誰もしなかったのはこの場にいる誰もが分かっている。


「分かりませんが現状一番怪しいのは誠也さんです」


 しっかりとした物言いをする椎香。


「だがそれだけで星弥を拘束するのは―――」

「ですが星弥さんが犯人でないという証拠もありません」


 食いついてくる南伊斗に一歩も狂わない所で「では貴方は証明できるのか」と口では言わないが目で訴えてくる。目は口ほどにものを言うとは良く言ったものだ。


「良いんだ、南伊斗。ありがとう」


 星弥からの押し止めもあって南伊斗も否定の異を唱える事はできない。現状、星弥が一番怪しいのは事実で先程の話も本当だとは言いきれない。何より星弥が犯人なら自分たちが殺される可能性もあるので強く出る事もできない。


 そのまま椅子に星弥を座らせてそこから物置から取ってきたと言うロープで星弥を縛っていった。


 その後、夕食はもう摂っているので明日の起床時刻を確認した後、皆自室に鍵を必ず掛けるようにと注意を受けて就寝する事になった。


(星弥は犯人じゃない。友達っていう観点からじゃなくて……そもそも)


 コンコン。


 ドアをノックする音が南伊斗の部屋に響く。一瞬「犯人か!?」と大声を上げそうになったがそれも次の声で可能性が消え去った。


「私だけど……今入っていい?」


 聞こえてきたのは可憐の澄んだ声。学校の時の怒声に似た声とは表と裏ほどの違いがあるがその声は明らかに可憐のものだった。


(可憐か……。なら犯人って線はまず俺の中じゃ存在しないな)


 恋人だからと言っても流石に信用し過ぎな気もしないではないが彼女を信用しない彼氏などろくなやつではないと南伊斗は断言できる。


「開けてくれてありがと」


 ドアを開けるとそこに居たのは風呂に入ったばかりの可憐の姿だった。それを見て耳から煙が吹き出しそうになるがそこは紳士の見せ所。必死に抑えた。だがどうしても「あれ? これって有名なあのパターンじゃない?」と期待が高まるがそこは高校生。どうしてもそう考えてしまうのを止める事はできない。


 白をベースとした黄と赤が入った涼しげなワンピース。動きやすい焦げ茶のジーパン。風呂上がりで乾かしたばかりの艶があって、さらさらの髪。いつも顔は何故かいつもほんのり火照っているのに更に赤くなっている顔。更に南伊斗の方が背が高いのでどうしても上目遣いになってしまっているので南伊斗に大きなダメージが入る。


「なんだこの可愛い小動物は」

「南伊斗何か言った?」

「……な、なんでもない!」

「?」


 落ち着けー、落ち着けーと可憐に見えないように正常を保とうとするがそんな所からもうなんでもないことはない。今の南伊斗の顔はまさにゆでダコ状態で可憐よりも更に赤くなっている事間違い無しだろう。


「南伊斗ー。邪魔だった?」

「邪魔なわけあるか!」


 ついつい怒鳴ってしまうって後で「しまった!」と感じるのは南伊斗の悪い癖だ。


「……どうしたの? いきなり」

「ごめん」


 そんな十秒に届くか届かないかの短い時間で南伊斗の頭は高温状態から正常へと切り替わっていた。


「とりあえず」

「痛っ」


 拳骨を落とした南伊斗に上目遣いで何でって顔をしているがその行動で惚れるか惚れないかと拳骨はまた別の話だ。


「なんでここまで来たんだ」


 風呂は男子と女子で別れていて男子の風呂は南伊斗の部屋から一番近い場所で女子の風呂は南伊斗から一番遠い場所だ。風呂が二つもある位でかい家なんだからもう少し綺麗に使えと思ったりもするがこの近くにあった村の話を聞いた後では言う気にもならない。


「……南伊斗に会いたかったから」


 南伊斗自身ではそこまで力を入れた覚えはなかったが可憐が少々涙袋に涙を溜めている事から多大な罪悪感に見舞われた。同時に更に赤くなっている顔と涙を溜めたままで上目遣いをしてくる可憐に南伊斗の残りHPが擦り切られた事は言うまでもないだろう。


「……本当になんなのこの小動物」

「?」


 まるで分かっていないような素振りを見せる可憐は余程の策士なのか、それとも只の天然なのか。


(これは多分天然なんだろうなあ)


 そんな一面も南伊斗が可憐を好きになった理由の一つでもある。


「兎に角座れよ」

「ありがとっ」


 南伊斗の提案に「待ってました!」とでも言わんばかりに部屋に入っていき、二つある席のうち一つに座った。部屋に入るなりすぐに部屋中をきょろきょろと見回しだした可憐。


「……何やってるんだ?」

「ん? ここも私の部屋と造りは同じなんだけどー、綺麗だね!」

「いやいやっ、それは可憐の整理能力がないからであって」


 部屋はホテルの一室程度の広さと言えばわかるだろうか。そこに椅子と机がそれぞれ二つと一つずつある。机は勉強机のような物ではなく、テーブルと言った方がわかりやすい。そのテーブルの近くには持ってきたリュックサックが置いている。端っこにはシングルのベッドが一つ。その近くに扇風機が置かれたような簡素な造りだ。だが残念な事にエアコンはない。


 そんな南伊斗のそのままの簡素な部屋とは違い、可憐の部屋は来たばっかりなのに洋服やらなにやらが散乱している。それはもうどこに入れてきたんだ、と思うほどには。はっきり言うと物が置かれた(散乱している)所よりも足場を探す方が難しい。


「ナニカイッタ?」

「すみません」

「じゃあ、明日は私の部屋を綺麗にしてよ」

「可憐……もう少し緊張感持て。それと女子の部屋に男子が入るのは駄目だろう」

「うーん」


 悩む所がまた可愛いなあ、と思ってしまうのは親バカならぬ彼氏バカだろうか。


「南伊斗が居たら安心するから……それに私の部屋なら南伊斗は入っていいよ?」

「ぐはっ、小動物オーラ恐るべし!」


 何故か私の部屋の部分だけを強調させて独占欲を丸出しにする可憐。更に上目遣いのコンボを使って攻めてくる可憐に南伊斗のHPはマイナスまで落ちていった。断じて南伊斗が上目遣いに弱いわけではない。断じて……。


「さっきからどうしたの?」

「落ち着くんだ俺……。よし、何か言ったか?」

「疑問に疑問で返さないでほしいんだけど」

「ごめんごめん。……聞きたい事があるんだが良いか?」

「うん、良いよ」


 急に真面目な顔になって話しだす南伊斗に空気を呼んだ可憐は肯定の返事を返すと黙って質問を待つ。


「可憐は星弥が犯人だと思うか?」

「……私は誠也君とあまり話す事はないけどなにか違うような気がする」

「そっか。そこがあれなんだよな。星弥は犯人じゃないのは俺がよく分かってる。だがかと言って解放すれば解放したでまた誰かが犯人扱いされる。それを避けている節もある」

「皆怖いんだと思うよ。星弥君を解放してその後で殺されるかもってのもあるし、犯人にされるのも嫌だろうし」

「でもそれは間違ってる。それで違う奴が犯人なら死ぬ可能性もある」

「うん。でもそれは皆同じ。誰が犯人かなんて警察でもないのに分からないよ」

「だよなあ。でも星弥が犯人ならあの場で留まっておく利点が見つからない」

「利点で物事を決めるのは良くないかも」

「理論はあくまで理論か。物的証拠には程遠いな」


 少々諦めムードが混じれ込む。


「犯人の足が全く掴めないね。警察は土砂崩れによって到着に2日ほどかかるって言ってたし」

「ああ、そこを考えて誰かが意図的に妨害をしてるなら―――」

「……」

「犯人は第三者の可能性が高い」

「何か怖いよ……」



 その後の話でなにか進展があるわけでもなく時は深夜に移り変わった。


 話をしている途中で寝落ちしてしまった可憐を自分のベッドに移した後、南伊斗は一つであれだこれだと悩んでいた。別に寝たくないわけではない。只眠気がこないのだ。一向に。


「南伊斗ぉ、どこにも……行かないで」


 寝言を言いながら一滴の涙が枕の生地へと吸い込まれていく。言葉では強がっていたようだが心底では怖かったらしい。特に自分の好きな人が居なくなるのが。


「ごめん。できるだけ傍に居るから」


 曖昧な返事とともに溜まっていた疲れをほぐすように眠りについた。


 生き残りは六人。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「……ふわー。良く寝たー」


 最初に起きたのは可憐だった。さらさらの髪を手で軽く解きながら窓の方へとむかう。


「風、気持ち良いなー」


 呑気な声をはっしている可憐の髪を開けた窓から吹いてきた自然の澄んだ空気が撫でる。


「……え? 南伊斗? えっえっえ?」


 ぼやけた感じが抜けていない脳を急遽呼び覚ますと……やはりそこには南伊斗が居た。


「……そっか。私、ここで寝ちゃったんだ……」


 今更ながら記憶を探ってみるとやはり最後の記憶は南伊斗の部屋で終わっているわけであって。


「恥ずかしっ! ……ま、南伊斗だし良いかな」


 呟きながら南伊斗の前髪を撫でだす可憐。これが普通の家に居た時なら恋の成熟確定なのだが残念ながらここは山奥でしかも殺人現場に遭遇中だ。


「寝顔は可愛いのに」

「悪かったな、普段は可愛くなくて」

「うわっ!? お、起きてたの!?」

「当分前からな」

「―――っ!」

「きゃああああ!!」

「「!!?」」


 軽い脅かしに心臓が止まるかと思った可憐に次は悲鳴が更に心臓に追い打ちをかける。


「椎名さんの声だ!」


 椎名の声は南伊斗の部屋に浸透するように良く聞こえてきたのでここからそこまで距離はないと断定して部屋を大急ぎに飛び出る。最悪の場合を考えながら。


 結果、椎名を見つけるのは簡単だった。ドアが開ききった高輝の部屋の前で椎名が腰を抜かして倒れていたからだ。そしてその中にあったのはやはり死体だった。血は一滴も垂れていないがめぐみのように呼吸を感じない。


 誰のかは言わずがもな高輝の死体。部屋の照明に縄を引っ掛けて垂れ下がった縄で首を吊っている高輝の死体。縄が凶器だと思われた。自殺の線は薄い。天井まで2m以上あるのに対し、縄は30㎝程の小さいもの。これを自分でしようと思ったならば物を積み重ねて足場を作る他無い。だが高輝の部屋は全てが定位置に置かれており吊っている周囲には物など一切なかった。


 加えて椎名の犯行の可能性も薄い。声があげたのは椎名で第一発見者だがドアが開いているのは椎香も起きたときに確認している。中までは見なかったようだが恐らくそれまでにはもう死んでいたと思われる。


「……星弥、星弥はどうした?」


 静まり返った状況の中、南伊斗が話を切り出す。


「星弥さんは……拘束していた縄はなくなっていて姿も消していました」

「っ!?」


 南伊斗の問いに答えたのは椎名だった。しかもその縄の大きさからも同じ物が使われたと言われたので星弥が犯人でほぼ決定だと。




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 その後、朝食を食べて自室に戻り、昼食を食べて自室に戻りを繰り返す事になった。途中話の中で車を使って警察の元まで自力で行くという意見も出たが不採用となった。


 理由は車の爆発。夜の間に何者かによって炎上させられたらしい。皆の寝室は横に並んでいて車を置いている場所とは正反対。誰一人燃えている音に気が付いていない。幸い辺りの木々に着火しなかったそうだ。


 そんな事もあり今の時刻は夜の11時55分。この時間は決して誰が来てもドアを開けないようにと念には念をと椎香に注意を受けた。


「はあ、なんでこんな事に……」


 南伊斗の目には隈が出来ていて相当疲れている事が窺える。


「鏡……」


 この寝室には壁に鏡が置かれている。全身を映し出せる程の大きな鏡が。それはなにも南伊斗の部屋だけではない。皆の部屋にも鏡がセットされているが残念ながら使っている者はいない。


 12時ジャスト。南伊斗は鏡の前にいた。この時間は霊界と繋がると言われているが実際にはなにも起こらなかった。だが月は新月。なにか恐ろしい物に南伊斗には思えてすぐに見るのをやめ、灯りを消して就寝することにした。


 生き残りは……四人(・・)




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 時刻は5時になり6時になりかけていた頃。異変は起きた。


「火事です!」

「逃げてください!」

「南伊斗っ!」


 別荘全体を炎が包み込んだのだ。それは前触れもなく突然起きた。車のガソリンも含まれているようで火は次から次へと木を倒しながら勢力を伸ばしていく。


「万事休すってか?」


 煙を吸い過ぎた三人はばたばたと倒れていった。それでも辛うじて意識を保っていた南伊斗は見てしまった。星弥が首を吊って死んでいる木が炎によって倒れていくところを。


「はっ、ははは。どうしてこんなことに……」


 乾いた声が炎の音に呑み込まれた。その中を風が一つの手紙を器用に運んできた。窓をすり抜け、南伊斗に届けるためのように。


『星弥です。犯人を目撃したのでここに記します。簡潔に言うと犯人は南伊斗。高輝の首を手で絞めて殺しているところを見たんだ。僕の命も多分もうすぐ終わると思う。これを見た人がいるなら信じてくれると嬉しいよ』


「え?」


 あまりの事実に南伊斗の頭は混乱に混乱を極めていく。


「俺が……皆を?」


 記憶はない。唯、この字は星弥のものだ。もしかしたら無意識の内に……と考えてしまう。


「お、俺が……ああ―――!!」


 目は血走り、窓を割ってその破片で自分の胸部を刺した。自分を責めるように。血が流れる。生き物の血が。


「可憐……ごめん」



 数日後、七人は普段を平凡に過ごしている。


「くっくっく」


 鏡は不気味に輝く。

 後が詰まってしまいました……(話が進む度に先に行こうとする自分が情けない)。


 ホラーって書いていたら結構難しいんだなあと感じました。このブループは良い経験を驚く程沢山させてくれます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] シチュエーション自体は悪くないのですが、後半の展開が詰め込み過ぎな印象が強いです。 理由付けが弱いと思いました。 車を使って警察の元まで自力で行くという意見が不採用になった理由が、…
[一言] こんにちは。拝読させていただきましたので、感想を述べさせていただきます。 細かい誤字脱字や多少展開の無理やり感はありますが、作者様の年齢でこれだけのお話がつくれるのは、純粋にすごいと感じま…
2015/09/01 13:36 退会済み
管理
[一言] はじめまして、米洗ミノルと申します。拝読しましたので感想をば。 ・後半が…… というのは、感想欄を拝見すると他の皆さんがおっしゃっているので、僕は控えておきますね。 しかし、気持ちはよく分…
感想一覧
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