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迷探偵憂夾くんの非日常  作者: 椎名いずも
第一章 見えない目
1/1

事務所開設!

高校二年の夏休み目前の日。桐島憂夾は、送りの車から降りて校舎の前に仁王立ちで立った。

吹いてきた生ぬるい風に、僅かに赤みが混じる短く切られた髪が舞い上がる。その下から覗く双眸は優しい光を燈しながら、好奇心と期待を混ぜ合わせた色をしており、日本人のはずなのに、珍しい翡翠色をしていた。まだ登校してくる生徒のいる中、憂夾が口を開く。登校してくる生徒は皆一様に、棒たちをする憂夾の事を不審者を見るような目でチラ見していた。



「本日より、この桐島憂夾。探偵事務所を構える事をここに宣言する!困ったことがあったら、なんでも相談に来るといい!」

シーンと周りの空気が冷え込む中。憂夾は一人満足気に空気を吸い込んだ。呆気にとられたギャラリー達は、足を止めている。

「場所はここに書いてある!どんな事でもいい、ただし本物以外は受け付けない、待っている!」

憂夾は、懐から一枚のチラシを取り出してかざした。憂夾の合図と共に、憂夾の後ろに待機していた、ボディーガード兼執事の御笠ルイが、チラシを片手にギャラリー達の中へと入っていく。

極上の執事スマイルを浮かべて御笠が女性へと配る一方。メイドの有澤美琴が、その可愛らしく整った容姿を利用して、男性陣へとすらすらとチラシを配る。

憂夾はその様子に満足すると、いい塩梅に着崩した制服のブレザーをこれ見よがしに、翻して校舎の中へと入って行った。


* * *


「憂夾様っ、私の依頼を聞いてくださいまし!」

「いいえ、私よ!」

今朝宣言した通りに、放課後生徒会準備室を丸ごと貸し切った憂夾は、探偵事務所なるものを、そこに開いていた。それにわらわらと群がるのはこの学校の女子生徒達。しかし、憂夾は退屈そうに足を組んで貧乏ゆすりをし、女子生徒をただひたすら睨みつけていた。

「憂夾様、如何されましたか?」

メイドの有澤に問われ、憂夾はさも憂鬱そうにため息をつくと、口を開く。その顔には不満がありありと浮かんでいた。

「ここに何を作ったのか、有澤わかるか?」

「探偵事務所…なるものですね」

メイドの有澤は、淡々と事務的に答えた。その答えに憂夾はため息をつく。

「憂夾様?」

「では、この有様は一体なんだ?」

ぴっと憂夾が指先で女子生徒達を指す。群がる女子生徒は一様に、憂夾の名前を叫んでいた。

「…憂夾様の熱烈なファンでは?」

その答えに憂夾が眉間のシワを益々深くした。御笠はそれに気づき、有澤の答えが憂夾が求めていた答えと違う事に気づき口を挟む。

「有澤、勉強不足ですね。この方達は、憂夾様の資産を狙って来ている者達ですよ。大方、取り入ろうとしてきているのでしょう」

「では、ここに憂夾様の望むモノを持っている人間はいないと、そういう事ですね?」

有澤はそう言うと、つかつかと探偵事務所の中を横に横切る様に歩き、掃除道具入れの前に立った。そしてその中から、ほうきを取り出し、手に持つ。

「有澤?」

憂夾が怪訝な顔で彼女を見る。有澤は、にこりと笑うと教室に群がる女子生徒を蹴散らそうと、ほうきの先端を女子生徒の集団へと突っ込み、横になぎ払った。

ほうきに押されて、真っ二つに女子生徒の軍団が割れた。その手際の良さに御笠がお見事、という風にパチパチと手を叩く。しかし憂夾の鬱憤は晴れる事はなく、彼は再びため息をついた。

折角、退屈を紛らわそうと、探偵事務所を開いたのに、来るのはいつも、玉の輿を狙っている女ばかり。憂夾はそんなのではなく、もっと心踊るような、頭を抱えるような難事件…例えば、ポルターガイストにあってる、だとか。突然誰かが忽然と消えた、だとかそういうのを期待して待っているのだ。

自慢する訳ではないが、憂夾の父は桐島グループの会長をしており、母は、マナー講習の先生を。そして憂夾は桐島グループの後継者であるのだ。それゆえに、日常は彼にとって退屈でしかない。

本日、何度目になるかわからないため息を憂夾が吐き出した瞬間。有澤によって女子生徒が蹴散らされ漸く閉めることのできたドアを誰かがノックしてきた。咄嗟に、御笠が憂夾の前へと身体を持っていく。有澤がそれを見ていたのかどうかはわからないが、非常に絶妙なタイミングで扉を開けた、そこには、一人の少女が突っ立っていた。

「あ、あの…相談が…ありまして…えっと、その…」

とにかく入れ、と憂夾が手招きをするが、少女は一向に動こうとしない。少女はそれに慌てたようにブンブンと首を振ると、かさかさの唇を懸命に開けてきた。

「す、す、すみませ…っ、あまりにもカッコよくて…足が…」

「かっこいい?」

有澤が首をかしげた。それにびくりと慄いた少女は機械のようにこくこくと頷く。そして、憂夾ではなく、御笠の方を見つめた。

「…あの…御笠く、んが…」

「僕ですか?」

少女はまたもやこくこくと頷いた。ますます面白くなくなった憂夾は、御笠の服の袖を引っ張る。慌ててその袖を掴む御笠。その顔はどこか困ったように歪んでいた。

「憂夾様…っ」

ぐいぐいと憂夾が引っ張る袖を止めるように抑える。ボディーガードを兼ねてるメイドと執事の二人は常に武器を所持していた。

御笠が武器を隠しているのはちょうど憂夾が引っ張る袖口に一つある。それは憂夾が突如襲われそうになった時の為に、すぐにでも投げられるようにと袖口の裏に縫い付けた小さなポケットにしまいこんでいるのだ。それは小さな果物ナイフだけれど。

有澤の方は、太もものあたりに拳銃を隠し持っていた。

 ぐいぐいと憂夾が引っ張る袖を止めるように抑える。ボディーガードを兼ねてるメイドと執事の二人は常に武器を所持していた。


 御笠が武器を隠しているのはちょうど憂夾が引っ張る袖口に一つある。それは憂夾が突如襲われそうになった時の為に、すぐにでも投げられるようにと袖口の裏に縫い付けた小さなポケットにしまいこんでいるのだ。それは小さな果物ナイフだけれど。それでもないよりはマシで、御笠は憂夾の手を優しく掴むと、袖口から手をさりげなく離した。

 有澤の方は、太もものあたりに拳銃を隠し持っている。

 少女はその一連の動作に何を思ったのか、おどおどとした風に、下に二つ結びにした髪をいじった。

「あ、あの…それで、依頼をしたいのですが…」

「あぁ、すまない。話を聞くからそこに座ってくれ」

 憂夾は漸く少女の方へ視線を持っていくと、憂夾の座る机の真そばにある、応接セットの机とソファーを指した。

 相変わらずおどおどした様子の少女に、御笠が近くのティーセットを使って紅茶を入れて差し出す。嬉しそうに受け取った彼女に微笑みを一つ。憂夾は漸く自身の椅子から立ち上がると、少女の向かい側に腰を下ろした。

「改めて自己紹介…は必要ないよな」

「あ、はい…噂できいてますから…」

「じゃあ、聞こうか」

「は、はい…実は…」

 御笠がバインダーとボールペンを手に持った。

現在、comicoでも連載中です。

ほぼ同時進行です。

いたらない点等多々あるかと思いますが、よろしくお願いいたします。

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