実験
今回も短めです。ごめんなさいorz
「おかしいとは思わなかったかい?自慢じゃないが私はこの五年間、組織に尻尾すらつかませなかった。組織に属していない君も噂くらいは聞いただろう?ではなぜそんな私が組織に捕捉される危険を冒してまでこの町に踏み入ったと思う?」
暗満は手品のタネを明かすように嬉々として語りだした。
「神具の呪師に会うため。いや、神具の呪師という実験材料を用いた大規模実験をするため。」
「その通り!!さすがだよ。」
「学園に侵入したのも俺に会うことではなく学園に何らかの仕掛けを施すことが目的だったのか。」
「フフフ、君が“剣姫”に気を取られていたおかげスムーズに計画を進めることができた。まあ、君の実力を見てみたかったというのも理由の一つではあるけどね。」
「それで?俺の実力には満足してもらえたか?」
「残念ながら学園の戦闘だけではデータが不十分だったよ。まさか“剣姫”が君の作った呪具を所持していたなんてね、想定外だった。本来なら彼女には死んでもらうつもりだったんだがね。まあしかしこの程度は誤差の範囲内、先ほどのまでの戦闘で充分なデータはそろった。正直言って期待していたほどではなかったが実験材料としては申し分ない。」
暗満は小太刀を煽るように語った。しかし、それに反応したのは狐孤だった。
「おい下郎、口を慎め。貴様のような下衆がご主人様を侮辱するなど許されることではない。身の程をわきまえろ。」
いつもの狐孤からは想像できないほどの敵意と嫌悪に満ちた言葉、しかし、暗満は飄々と受け流していた。
「よせ狐孤。あいつには何を言っても無駄だ。」
「しかしご主人様・・・・・・。」
「狐孤。」
「・・・・・・畏まりました。」
狐孤は不服そうにしながらも小太刀の言葉に従った。小太刀は暗満を鋭くにらみつけ、言った。
「町という巨大な実験場、俺や狐孤に悟られることが無いほど巧妙に仕組まれた仕掛け、そして神具の呪師。お前、最上級の邪魅を生み出す気だな。」
「フハハハハハ!!恐れ入ったよ、それだけの情報で実験内容を見抜くとは。」
「それだけで充分すぎるんだよ。でも、ま、安心した。お前の目的がその程度ならどうとでもできる。」
「なに?」
暗満の顔が険しくなる。
「聞こえなかったか、もう一度言ってやる。その程度ならどうとでもできるといったんだ。」
「実力を過信しすぎだな。君のデータは取り終えたといったはずだ。」
「過信ね、その言葉そっくりそのままお前に返すよ。俺のデータが取れた?ハッ、俺は神具どころか本気すらだしていないというのに?」
「そのことも考慮に入れた結果だ。君の本気、神具を使った場合の戦力、すべて想定済みだ。そのうえで私は結論づけたのだ。私の生み出す最上級の邪魅と君の戦闘は君の敗北という形で幕を閉じる。そして君が持つ神具を取り込んだ邪魅はたとえ相手が神であろうと簡単に殺す。」
「だからそれが思い上がりだっての、なあ狐孤。」
「ええ、まったくでございます。その程度で神が滅ぼされるのならばとっくに世界は崩壊してますよ。」
「えええい、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!実験動物ごときが俺様にたてついてんじゃねぇ!!動物は動物らしく主人の言うことだけ聞いとけばいいんだよ!!」
暗満の表情が一変、怒りに満ちたものになり、言葉遣いも乱暴になる。
「やれやれ、インテリぶってるかと思えばそれが本性かよ。あと、俺はお前のペットになった覚えはないぜ。」
「だから黙れと言っている!!もういい、殺す、殺す!!」
暗満は懐から禍々しいオーラを放つ脇差を取り出し、地面に突き立てる。
「集エ集エ邪ナルモノヨ集イ来タリテ核ヲ成セ“邪魂招来”」
その瞬間、町全体を漂っていた穢レが脇差を中心として集まりだした。その量は穢レ玉の比ではない。
「これも追加だあぁ!!」
暗満はありったけの穢レ玉を地面にたたきつけ、大量の穢レを発生させる、それもまた脇差に取り込まれていく。
「ご主人様、止めなくてよろしいのですか?」
「この町を覆う呪は単に穢レを一点に集中させるためのもの、呪そのものは人体になんら害をなさない。とはいえ、本来なら止めるべきだが、あいつの自尊心を粉々に砕く、二度と立ち直れないようにな。」
「左様ですか、ご随意に。」
小太刀と狐孤が会話している間も穢レは着々と集まっていき、やがて巨大な生物の形をとった。太く発達した四肢、その先からは鋭いかぎづめ。頭部には禍々しい二本の角、その姿はまるで物語に出てくる魔王のようであった。
二十三話でした。次回で第二章は完結の予定です。その後、幕間を一つ挟んで最終章に突入します。
最後まで応援よろしくお願いします。




