開戦
やっとこさ戦闘回です。
生徒会室を後にした小太刀は教室にも屋上にもいかず、学校を早退した。もっとも、早退するということを誰にも伝えていないため、ただのサボリであるが。
「狐孤!」
「はい。お呼びですか?」
帰宅した小太刀はすぐに狐孤を呼びだした。
「準備はできてるか?」
「ええ、もちろんです。しかしご主人様よろしいのですか?独断で策を実行にうつすなど。」
「別にかまいやしないさ。呪師に復帰するとは言ったが組織に属するとは一言も言ってないからな。ま、会長には後で散々お叱りを受けることになりそうだけどな。」
「ご主人様がそうおっしゃるのであっれば私は何も申し上げることはないのですが・・・・・・。」
「どうした狐孤、不満か?」
「滅相もございません。ただ、紅羽様にもご協力いただいたらご主人様の負担も減るのではないかと愚考しただけです。」
「俺が本気をだす以上、あの人程度ならいてもいなくても同じだよ。それはお前が一番よく分かっているだろう。」
「それはそうですが。」
「ま、本音をいうと巻き込みたくないってだけなんだけどな。」
「日和様やご学友ならともかく紅羽様は呪師ですよ。」
「それでもだよ。この間も俺が助けに入らなかったら死んでたろ?」
「はぁ、こうなったらご主人様はテコでも動きませんからね。かしこまりました。では早速始めましょうか。」
「そうだな、じゃあ狐孤あれを。」
狐孤は無言で一振りの守り刀を小太刀に差し出す。漆黒の鞘に納められたそれは、神々しいオーラを放っていた。この守り刀こそが神具“万象”である。
「また、これを使う日が来るなんてな。」
「ご主人様、わかっておられるとは思いますが・・・・・・」
「大丈夫だよ、限界ならちゃんと承知してるから。」
小太刀はそういうと、万象を鞘から静かに抜いた。神秘的な輝きを放つ刃が姿を現す。見るものすべてを虜にしてしまいそうな美しい刃だった。
「さてと、“我ガ怨敵ヲ探レ天網”」
小太刀は万象を地面に刺し、言霊を紡ぐ。万象は何の抵抗もなくスッと刺さり、そこから波紋が広がる。小太刀が使用した天網は探知の呪だ。呪師であれば誰でも扱えるような初歩的なものしかし、町全体を対象とするのであれば話は別である。多くの呪師はせいぜい半径200メートル程度の範囲しか探知することは叶わない。“剣姫”と呼ばれる紅羽であってもせいぜい半径400メートル程度であろう。小太刀が行っている探知はそんな生易しいものではない。小太刀の才能と神具がそろって初めて成せる技であった。
「――!!見つけた。」
探知を初めて三分が経過したところで、小太刀は暗満常夜の居場所をつかんだ。
「思ったより時間がかかりましたね。」
「ああ、隠蔽の呪を使ってたみたいだ。」
「ほう、ご主人様が神具を用いて発動させた呪を短時間であるとはいえ躱すとは。相手の腕前も中々のもでございますね。」
「そうだな、結構な手練れだ。ま、そりゃそうだよな、相手は組織の呪師を十人以上も殺してるわけだし。」
「ご主人様、くれぐれも油断なさらぬようお願い申し上げます。」
「わかってるよ。さて、殴り込みと行こうか!。」
「ふふふ、承知いたしました。参りましょう!」
町はずれにある廃墟ビル、その地下空間に暗満常夜はいた。
「くははははははは!どうやって会いに行こうかと思っていたのだが。まさか向こうから出向いてくれるとはね。私は運がいいようだ。さて、大事な大事な実験対象だ。おもてなしの準備をしなけらば。ふふ、ふはははははは!」
暗い空間に不気味な笑い声が響いていた。
「ここだな。」
小太刀と狐孤は暗満が潜伏している廃墟に到着していた。
「ご主人様。」
狐孤が警戒した様子で小太刀に呼びかける。
「わかってる、敵さんは俺たちをおもてなししてくれてるみたいだな。」
小太刀がそういった瞬間、廃墟の中から白いビー玉のようなものが十数個転がり出てきて、弾けた。玉が弾けた瞬間、膨大な量の穢レが周辺に充満し、十数体の邪魅が発生した。
「これは、この間のやつだな。“穢レ玉”だったか。」
「ご明察だ、神具の呪師。」
廃墟から、男が姿を現した。全身を真黒なコートで覆った長身の男。
「お前が暗満か。思ったより悪人面じゃないな。」
「これはこれは。神具の呪師の名を覚えてもらっているとは光栄だね。一応、はじめましてになるのかな。私は暗満常夜、君と同じ創り手さ。」
「ご丁寧にどうも。しかし物騒なおもてなしもあったもんだな。」
小太刀は皮肉を込めて返す。しかし、暗満は気にも止めなかった。
「なに、大したものじゃないさ。こんなものは本番前の予行演習さ。では、私は本番の準備があるのでね。」
暗満が廃墟へと足を向ける。
「逃がすか!!“薙ギ払エ裂風”」
小太刀は風の刃を生み出し、暗満に向けて放つ。しかし、数体の邪魅が間に入り邪魔されてしまう。
「チッ!ここで決めたかったんでけどな。」
暗満は既に本番の準備とやらに向かったようだ。
「ご主人様。まずはこの場をかたずけましょう。」
「そうだな、とっとと終わらせるか。」
小太刀は懐から細長い針のような武器、千本を十本取り出し、両手に五本ずつ持ち、構えた。
「“刺シ貫ケ雷閃”」
小太刀の手から放たれた千本は雷を纏い、すさまじい速さで邪魅を貫き、消滅させた。小太刀はさらに千本を取り出し、放つ。
「雷閃!!」
千本は残っていた邪魅をすべて消滅させた。一分にも満たないわずかな時間であった。
「急ぐぞ狐孤!」
「承知!」
二人は廃墟へと突入していった。
というわけで本作二度目の戦闘回でした。今回は小太刀にとことん活躍してもらいます!




