遠き日の追憶~side彼方~
自分の命はもう長くない。
私は子供ながらにそのことを悟っていた。
もともと体は弱く、風邪で寝込むことなど日常茶飯事だった。
しかし、今回はいつもよりひどかった、胸が苦しくて苦しくてたまらなかった。
両親も、お兄ちゃんも病院に搬送された私を心配そうに見つめていた。
私は入院することになった、病気がちではあったが、入院は初めてだった。
夜、誰もいな病室で一人泣いていた。
怖くて怖くて仕方がなかった。
苦しさは日に日に増していった。
ついに、意識を保つことさえ困難になった。
そして、ある日、私は暗闇に落ちていった。
私は暗い暗い闇の中を一人ぼっちで歩いていた。
何日も何日もたった一人で。
自分はもう死んでしまったのだろうか、そんなことを考えながら歩いていた。
疲れ果ててしまい、歩くことをあきらめようとしたとき、闇の中に一筋の光が差した。
こっちにおいで、そういわれた気がした。
私は無我夢中で光を目指した、そして光をとらえたその瞬間・・・・・・
私は目覚めていた、目の前には大粒の涙を流す両親とお兄ちゃんがいた。
安心した私は両親とお兄ちゃんに抱き付いた、みんなも、私を抱きしめてくれた。
私が退院すると、家族が一人増えていた。
頭に狐のような耳をはやした金髪の綺麗な女の人、狐孤さんだった。
最初は少し怖かったけど、私はすぐに狐孤さんのことが好きになった。
綺麗で、やさしくて、まるでもう一人お母さんができたみたいだった。
パパがいて、ママがいて、お兄ちゃんがいて、狐孤さんがいて、毎日が幸せだった。
この幸せはいつまでも続くと思っていた、あの日までは・・・・・・。
ある日、両親が真剣な顔をして私とお兄ちゃんを呼び出した。
怒られるのではないかと思ってびくびくしていたど、ちがった。
両親は自分たちの仕事のことを話した。
自分たちは呪師で、呪という魔法のような技を使って人をたすけている、そう話した。
正直、信じられなかった、魔法というものに対する憧れはあったけど、実在しえないものだってわかっていたから。
でも、パパが目の前で何もないところから野球ボールくらいの火の玉を作り出したのを見て、信じざるを得なくなった。
うれしかった、憧れてたけど絶対に手にすることができない、そう思っていたものが手に入るかもしれないと思ったから。
だから私は尋ねた、その力は私も使えるの?と、お兄ちゃんも同じように尋ねていた。
パパは、私が望んだ答えを返してくれた。
その日から、私とお兄ちゃんは呪の練習を始めた。
パパやママ、狐孤さんも教えてくれた。
狐孤さんが神様だって知ったときはびっくりしたけど、納得した、よく考えれば、獣耳をはやした人が普通の人間なわけないよね。
まあ、それはいいとして、私とお兄ちゃんはメキメキ実力を伸ばしていった。
特にお兄ちゃんはすごかった、練習を始めて一か月もしないうちに呪具を創ってしまった。
ふつうは何年修行してやっと作れるようになるらしい。
しかも、お兄ちゃんが創った呪具は一級品と比べても遜色ないほどの出来栄えだったらしい。
やがて、お兄ちゃんは“天才”って呼ばれるようになった。
それから一年が過ぎた。
お兄ちゃんは呪具作りに没頭するようになっていた。
両親はあまりいい顔をしていなかった。
両親はもともと私たちに呪のことを教えるつもりは無かったらしい。
呪師という危険な業界に私たちを引き込みたくなかったらしい。
でも、私が狐孤さんの呪で救われてから考えが変わって、自分の身を守る程度の呪を身につけさせることにしたそうだ。
両親は油断していたらしい、自分たちの家系は大した呪師を輩出しておらず、自分たちの腕前も中の下、子供たちもたいしたレベルにはならない、そう思っていたそうだ。
案の定、私は中の上程度で止まった。
両親からすれば、それでも驚いたらしい。
そんな両親だったから、お兄ちゃんのことは完全に想定外だった。
狐孤さんでさえも、お兄ちゃんの才能には舌を巻いていた。
お兄ちゃんは特に呪具の作成に関して類を見ないほどの才能を有していた。
一流と呼ばれるレベルの呪師が創った呪具も、お兄ちゃんが創ったものに比べれば、おもちゃ同然だった。
両親が試しにお兄ちゃん作の呪具を呪師のマーケットに流したら、市場の十倍以上の値が付いたとか。
さらに、一年が過ぎた。
お兄ちゃんはますます呪具の作成に没頭していた。
そして、ある時、創ってしまった。
人間には決して創りだすことができないとされていたもの・・・・・・神具を。
そしてお兄ちゃんは“神具の呪師”と呼ばれるようになった。
パパとママが死んだのは、それから一月ほど後のことだった。
はい、第十八話でした。いよいよ物語の核心に迫ってきました。次回も頑張ります!




